分裂少女 転
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「女」は建物から脱出した。
時刻は夜だったことが幸いし、すれ違う人も無かった。
まったく地理に明るくなく……というか記憶が無いので、とりあえず
道なりに歩いていた。
20分ほど歩いた時、噴水のある大きい公園に着いた。

「ふう……とりあえずちょっと休むか」

「女」は近くにあったベンチに腰を落とし、一息ついた。

ああ、外はやっぱり気持ちいいわ。目覚めてからずっと狭い部屋だったからな……
でも、あまりゆっくりはできないわね。早く自分自身の記憶の手掛かりを掴まないと。
記憶の無いままこんな血糊が付いた服をきた包帯巻きの女がうろうろしていたら、
なに言われるか……。とはいえ手掛かりね……この辺の景色に見覚えは無いし……どうしよう。
……そうだ!!あの時渡されたリュックサックに何かまだ手掛かりがあるのかもしれないわ!!

早速「女」は持ってきたリュックサックの中をよく探してみた。
すると底の方に何かあった。取り出してみると

「これは……手帳?」

可愛いキャラクターがプリントされている手帳を発見した。
かなり気に入っていたのかあちこち擦り切れてて使い込んでいたようだった。
恐る恐る開いてみるとそこには

「ん?写真?」

知らない女と男が仲よさそうに写っている姿がそこにはあった。
たぶんこの女が私なのだろう。うん、可愛いわね。とするとこの男は一体……

考えられることは兄弟……男友達…………そして彼氏。
「彼氏」というキーワードを考えた瞬間

「ああああああ!!!!!あ、頭が割れる!!!!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!」

「写真の男」「彼氏」この二つのキーワードが合致した瞬間、「女」の頭が割れるかと
思うほどの激痛が襲った!!

地面を転がり、髪を掻き毟り、暴れ回ってやっと収まった。

「はあ、はあ、げほげほ……うーー、頭が爆発するかと思ったわ」

まだ痛む頭を抑えつつ埃だらけの服を払い、手に持った手帳をじっと見た

でも一体どうして写真の男を彼氏と考えただけで激痛が走ったのかしら。
写真を見る限りじゃ、仲良さそうだけどな。まあ写真だけじゃ分からないことがあるかも。
この写真の男が彼氏かどうかはともかく、私の記憶に何らかの関係があるのは間違い無いわ!!

他に手掛かりがないか手帳を捲って見ると、ほぼ毎日書いてあったスケジュールが、
ある日を境にぱったりと書き込みが無くなっているのだ。

この書き込みが無くなった日に何かが起きたってこと?

最後の書き込みには

「17時デート。モアイ像の前で待ち合わせ。」
何それ?モアイ?そんなの知らないわ。……そうだ!くる途中に駅があったからそこで聞いてみよう。
「女」は道を戻り、駅に向かった。幸い、まだ駅は開いていたので、
改札口に立っていた職員に聞いた。最初「女」の姿を見た職員は驚いた様子だったが、
口八丁手八丁でなんとか誤魔化した。
どうやらモアイ像はここから電車で数駅行った先にあるとのことだった。
お金が無いか探してみると、ポケットに小銭が入っていたのでそれで目的地まで
の切符を買い、ホームに入っていった。
電車が入ってくる1番ホームに立った瞬間、「女」は気分が悪くなっていった。

な、何?これ……気分が……頭に映像……いやああああああああああああああ!!!

ここは駅の1番ホーム。電車が来るのを待っている乗客で溢れていた。
ふんふーん♪今日は楽しいデートの日。早く電車来ないかな。今日は何しようかしら。
まず買い物して、遊んで、食事して、それからそれから……ああん、それ以上は……うふふ。
それにしても混んでるわね。ちょっと押さないでよ!んもう……
暫く待っていたら、電車がやってきた。

あ、やっと来た。待ちくたびれたわ。

電車の先頭が自分の前を通り過ぎるかと思った瞬間、不思議なことが起きた。
体が前に飛び出していたのだ。

あ、あれ?なんで私前に飛んでるの?でもこの浮遊感はちょっと気持ちいいかも。
でも目の前に電車が迫って来てるわ。こりゃだめだわ。

鈍い、何かが潰れたような音を立てて「女」は数百の肉片となった。
大声で叫んだ絶叫、飛び散る血……だが、ばらばらになった中で
目だけは見てしまった。こちらを見て笑っていた女の残忍な顔を……

その笑顔、その突き出た手……そう、あなたなのね。一番の親友と思っていたあなたが……
なるほど。あなたは私を亡き者にして、彼の「彼女」というポジション
を手に入れようって魂胆ね。
単純だけど直接的ね。よくわかったわ。
許さない……絶対に許さないわ!!
私はもうまもなく死ぬわ。でも……でも……
化けてでてやる!!呪ってやる!!祟ってやる!!
そしてこのことを忘れないように、細胞の一個一個にまで記憶させるわ。
忘れるな!!必ず!!必ず復讐してやる!!そのポジションは私の物だ!!

「……さん、……さん、お客さん!大丈夫ですか?具合でも悪いですか?」
「……………うー、はっ!!!」

「女」は追憶の旅から帰ってきた。蹲ってウンウン唸っていた所を駅員に声を掛けられたようだ。
全部の記憶が戻ったわけではないが、とりあえず自分に起きた事態は理解した。
駅員に大丈夫だという旨を説明した時、ふと思ったことを聞いてみた。

「ちょっとお聞きしたいのですが、ここで飛び込み自殺ってありました?」

駅員は突然質問されてビックリしたようだが、少し考えて

「ええ、確か半年前ぐらいでしたかね。女性が電車に飛び込みましてね……
ちょうどお休みの日だったもんでけっこう人がいまして……大騒ぎでしたよ。」
「そう……その時、その轢かれた女性の関係者って誰か来ませんでしたか?」

暫く考えて駅員は

「あー、そういえば女性の彼氏と名乗る男性が来ましたね。死体……というかただの肉片でしたが。
それを見てすっかり取り乱しましてね……詳しいことが分かったら電話下さいって
言い残して帰って行きましたよ。電話してみます?」

駅員から彼氏と思われる人物の電話番号を教えてもらい、丁寧にお礼を述べて、
「女」は最終の電車に乗った

 

やっぱり……一瞬見えたあの電車に轢かれたのは私だったようね。
多分モアイ像に向かおうとして電車を待っていたらあの女に……ってことか。
それにしてもどうしようかしら。関係者は分かったけど、自宅の住所とか知らないし……
とりあえずモアイ像に行ってみて、この電話番号に掛けてみるか。

あとはその時に判断しよう。


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