分裂少女 起
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 「起」

どうやら私は寝ていたようだ。
いや、寝ていたかどうか分からないのに「寝ていた」という表現はおかしいな。
「多分」寝ていた私は目覚めてみると、あるベットで寝ていた。
まったく見慣れない風景だった。

見知らぬ部屋
見知らぬ自分

……ん?今なんて考えた?

見知らぬ自分

そういえば……私、だれ?

名前を思い出してみる……ダメ。少し前のことを思い出してみる……ダメ。
うん、よく世間一般でいう「記憶喪失」というやつだろう。

「アハハハハ……」

……まあ笑うしかないか。
とにかく現状を把握してみよう。
周りを見渡してみると、窓が無くドアが有り家具も今自分が横たわってるベッド
のみの殺風景な部屋だった。周りには誰もいない。壁に掛かっている時計を見ると
どうやら深夜のようだ。
それと今気づいたが、右目が全く見えない。触ってみようと手を動かした瞬間

「!!!!!!!!」

筆舌に尽くしがたい激痛が全身に走った
どうやら私は大怪我をしているようだ。だぶんそれでこの病院に運ばれたって所だろう。

右目はどうやら肌の感覚からどうやら包帯が巻かれているようだ。
なんとか見える左目で少し顔を上げて、自分の体を見てみると……

「な、何これ…」

私の体は顔の一部を除き、全身が包帯で覆われていた。
両手、両足、体全部……隙間なく巻かれていた。こりゃかなりの大怪我だったんだろう。
不幸中の幸いというべきか、五体満足な上に感覚はあるから下半身不随とかは無いかな?
最悪体は何とか大丈夫と思ったら少し気持ちに余裕が出たのか

「よく見ると、服着てない上にノーパンノーブラじゃん
…まあ包帯で隠れているから良いけど」

つまんないことを考えながら、とりあえずどうするか考えた。

「まあどうするもこうするも、まともに動かないし……寝るか」

そう自分に言い聞かせて、静かに目を閉じた。
しかし「女」は分かっていた。寝たのは眠いからじゃなくて、「自分」の存在が
分からなくなり、不安でパニックになるのを防ぐための一時凌ぎということを……

(次目が醒めたら元の生活に戻っていた、っていうのだったら良いんだけどな…)



どのくらい時間がたったのだろう。「女」は静かに寝息を立てていた。
病室のドアが静かに開き、二人の白衣の男が入ってきた。
その内の一人が持ってきたバッグを開け、中から一本の注射器を取り出し、
「女」の腕に刺した。その際の痛みで「女」が若干目覚めたようだ。

う………なんだろ、今腕がチクッてしたような……あれ、誰か立っている。
でも……あれ?声が出ない。体も鉛みたいに重い。部屋もなんだかグニャグニャと
動いている……でも声は僅かに聞こえる。

「麻酔は効いたか?……で生きてるのは奇跡……**さん……」

あ、今もしかしたら私の名前言ったような……よく聞こえない。

「人体実験……既に死亡扱い……どうしようが自由……」

何か危険な単語が聞こえるけど……意識が保てない…教えて……私はだれ?


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