switch / telepathic communication(仮) 第2回
[bottom]

「は……?」
「はいはい、仲良くしてくださいね。あ、すいませんお邪魔して」

これはいったい? 彼女は誰? つか何してんだこの人?
こんな、数ある疑問が脳内に光のような速さで浮かんでは消えていく。
とりあえずは状況確認。
目の前には俺と同じくらいの少女がいる。
髪は黒、長い瞳も黒どうみても典型的日本人。
っても、ここは日本なんだからそれは当たり前、むしろ外人のほうが少ないだろう。
そんくらい、判れよ俺!! そんなアホなことを思うくらい、今の俺は混乱している。

「ってそうじゃなくてッ!!」
「……?」
「あんた誰!!??」
「私ですが、雪乃ですけど。神崎雪乃」
「いや、そーじゃなくて」

なんだか、会話が噛みあわない。
何だよ、まるでここに居るのが当たり前みたいな態度。
人の敷居に土足で入られたみたいな気がしてあまりいい気がしない。
向こうにはそんな悪意がないのかもしれんし、それは被害妄想ってもんだろう。
でも、見知らぬ他人が近くにいるのは正直居心地がよくない。

彼女――雪乃って人は食事を終えたら今度は犬たちと遊んでいる。
その内、一匹だけ蚊帳の外でポツンと立っている犬を見つけると、
彼女は寂しそうと思ったか、その薄茶で斑のある毛をしたどこにでも居そうな犬に近寄っていく。

「そいつには近寄んないほうがいいよ」
「どうしてですか?」
「チビは人見知りだから」
「そうなんですか? でも、大丈夫です。見ててください」

そう言うと彼女はチビにそっと頭を撫でようと手を伸ばす。
慌てて、俺はそれを止めようと制しようかと思ったが、やめてしまった。
一応、注意はしたんだしそこまで面倒見てあげるほどの義理もこちらにもない。
チビは俺が始めて餌付けをした奴――つまり、一人で寂しく一匹で佇んでいた奴だ。
名前は至極単純、始めたあったときはチビっこかったから、食いっぷりがチビチビしてたから。
今では立派な成犬となりチビとは言えない大きさになってるけど。
ちなみにこいつ、人(犬?)一倍人見知りが激しく臆病者だ。
下手に手出しすれば間違いなく噛まれる……はずなんだけど。

「〜♪」
「うそ……」

撫でてるよなあ……チビもやけに気持ちよさそうにしてるし。
完全に、リラックスモードに入ってるよ。
てか、俺並みに心を開かないこいつがこうもあっさり懐くなんて。
呆気に取られて、しばらくの間ずっと彼女を見つめてたせいかふと目があった。
彼女はどこか気恥ずかしそうにこちらを見ている。
そんな、彼女の反応も合間ってこちらまで恥ずかしくなり顔を背けてしまった。

「どうやったわけ?」
相手と視線は合わせずにボソボソと声を出す。
「え?」
「いや、チビが俺以外の人に懐くなんて滅多にないからさ。しかも、初対面で」
それに、彼女はう〜ん、と考えるそぶりを見せる。
「実は私もわかんないんですよね」
「へ?」
「体質といいますか……気づいたら、いろんな動物に好かれるようになっちゃってたみたいで」
「そうなんだ」

興味がないように答え、その後はいつもの通り。
適当にこいつらと遊んだり、うたた寝したりして時間を潰す。
彼女も俺と同じようなことをしてるが基本的に干渉はしなかった。
話したのもさっきまでの会話だけだ。
やがて、日も沈みそろそろ帰り時かと鞄を肩にかける。
彼女はまだ、帰る気配がない。

「帰んないの?」
さすがに女性を一人この夜道においてくのは気が引けるのか、
少し気になって手短に聞いてみる。
「それは、そうなんですけど……」
彼女はこちらを向いて少し困ったように苦笑すると。
「最近、ここに引っ越してきたばかりで……」
「どうやって、ここに来たかわかんなくて」
「つまり、道に迷ったと」
「はい」

だったら、こんな所で油売ってる場合じゃないだろうに。


[top] [Back][list][Next: switch / telepathic communication(仮) 第3回]

switch / telepathic communication(仮) 第2回 inserted by FC2 system