しっとな日々 その3
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淡々と進行する午後の授業。
本日の五時間目はMrラリホーマこと歴史の本田。
句読点が存在しないかのような独特の言葉に、クラスの半数が眠りの世界。
「すぴ〜、すぴ〜…」
ほら、あたしの後ろの生徒も熟睡中…ってこら美星、寝るなバカ、作戦考えろって言っただろっ!
あぁもう、本当にこのおバカ娘は…。

「…………………………」

ちらりと、横目で和磨の姿を覗き見る。
和磨は他の男子のように眠らずに、一心不乱に――――ニ〇テ〇ドーDSやってた。
駄目じゃん。
まぁ兎も角。
横目で窺う和磨は、やっぱり素敵だ。
無口無表情無愛想の三無を極めた和磨の表情はやっぱり無表情。
だけど、あたしには分かる。
今の和磨の状態は、恐らくスパ〇ボとかで敵を撃破している歓喜か愉悦だろう。
和磨はクールで紳士に見えるが、実際はかなり腹黒くて残虐で鬼畜な男だ。
その危険っぷりが逆にあたしにはカリスマ的でもうグッドなんだけどね。

あたしと和磨の出会いは小学生の時。
当時、家庭の環境から荒れていた私は、とんでもない悪ガキで、悪童女なんて呼ばれてた。
友達は一人も居なくて、唯一の友が美星だった。
美星も家庭環境のことで周囲から孤立していたいじめられっ子。
あたし達は、お互い似た境遇であることに一種の仲間意識を持っていた。
二人だったら寂しくない、二人だったら怖くない。
そんな関係だった。
ある時、あたし達二人は前々から敵対していたガキ大将グループに囲まれてしまった。
流石に数には勝てず、あたし達は紐で縛られて蹴られまくった。
やがて、小学生の好奇心が異性の身体に興味を示し、あたし達の服を脱がそうとし始めた。
その時、和磨が来てくれた。
ただ、登場が普通じゃなかった。
「待て!」とか、「やめろ!」なんて言葉を発して登場するのがヒーローだけど、
和磨はまったく違っていた。

―――ゴズッ!―――

鈍い、嫌な音が響いて、ガキ大将グループの一人が倒れた。
倒れた理由は頭を鉄パイプで殴打されたからで、
殴打したのは不気味な無表情を張り付かせた当時の和磨。
「な、何するんだよおまえっ!?」
「ひ、ひとごろしだぞっ!」
騒ぎ立てる連中を和磨は一瞥して、鉄パイプで再び殴りかかった。
その後はもう阿鼻叫喚の地獄絵図。
泣き叫ぶ小学生を、同じ小学生が無表情に鉄パイプで殴り倒す、そんな光景。
今思うと、普通にトラウマ光景だよな、あれ。
グループのガキを全員半殺しにした和磨は、無表情にあたし達の紐を解き、
無表情にあたし達二人の頭を撫でて、そして去って行った。
普通なら恐怖やら畏怖やら抱くのだろうけど、
どうもあたしも美星もその辺りの感覚がおかしいらしい。
なにせ、そんな和磨に恋心を抱いたのだから。
それも強く。
後日、当然和磨は学校やら警察やらで呼び出された。
何を聞かれても答えず、怒鳴られても動じない和磨に、大人達は気味悪がっていた。
もっとも、怒鳴っていた大人達、悪ガキどもの保護者はその後大恥かいて帰っていったけどね。
あたしと美星が校長室に飛び込んで、あの連中のことあること無いこと叫んでやった。
教師達の間でも持て余していた悪ガキどもだけに、効果抜群。
ざまぁみろだ、へへへ。
…でも、和磨のやった事は過剰防衛と言われ、厳しく叱られていた。
でも、心配で窓の隙間から覗き見ていたあたし達に、和磨は少しだけ笑みを見せてくれた。
もうここで完全にアウト、あたし達の心には、キューピットの矢なんて目じゃない、
ロンギヌス級のぶっといモノが突き刺さった。
それ以来、あたし達はつかず離れずの位置をキープし続けた。
本当は恋人以上の関係になりたいけど、和磨は煩わしいのを嫌う。
だから、影から見つめ続ける、それがあたし達の恋愛協定。

でも、あの女は図々しくも和磨に近づいた。
これだけでも許せないのに、告白、恋人、手作り弁当。
もう許せない、許さない。
綾瀬 光、あんたには最高に悲惨で惨めな目にあってもらう。
そう、最高に悲惨な、惨めな思いをして―――死んでくれよ?


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