Pet☆Hot☆High-School!! 2匹目
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今先輩に連れられているうちに、気がつけば学校に到着していた。
携帯で時計をチェックするとギリギリ五分前には到着したようだ。
朝四時に起きている割に登校時間が遅いのは、偏にポチの散歩時間の長さ原因であろう。
今日なんて調子付いたポチは隣町までの耐久マラソンを敢行した。
興奮して四足歩行にならなかったのが唯一の救いだが、
桜色をした長い舌をちろちろしながら尻尾をぶんぶん振り回すのは勘弁して欲しい。
犬人には文字通り朝飯前の運動でも、ただのヒトで身体的な特徴が何もない俺にはきつ過ぎる。
帰り道貧血で半ばふらつく足元を自分の胸程度の身長しかないポチに支えてもらいながら
帰ったのは、どれほど俺の自尊心を傷つけたか・・・
朝食のときハイビスカスのような笑顔で

『きにしなくていいよっ!!ユースケはボクのご主人様で同時にボクの所有物なんだから!
支えてあげるのは当然でしょ!』

と納得してよいのか悪いのか解らない言葉で慰めてくれなければ今の俺はいないだろう。
小さな体で朝から丼二杯まるまる平らげるポチに朝ごはんを作るのは若干骨の折れる作業であるが、
口元にご飯粒をつけながらの笑顔で
『お代わり!』
には勝てない。
俺はそんなことを思いながら今日も波乱の日常に身を投じていくのだ。

「時にユウスケ。今あの駄犬のことを考えていなかったか?」

ポチの笑顔を回想して癒されていた俺を現実に引き戻す冷たい声。
あぁそうだ、俺は先輩に引っ張られて学校に着いたんだけっけ。
俺の目線のすこし低い位置から据えた視線をたっぷりと注ぎ込んでくれる。
眼鏡の奥で剣呑に輝く切れ長の瞳に若干たじろぎながら、俺はやっとのことで言い訳を吐き出した。
きょ、今日もステキにクールです。今先輩。

「い、いや〜ポチのやつ、ちゃんと体操着を持ってきたかな〜なんて・・・
 ホラ、ウチの学年は二限が体育でしょ?」

先輩は俺のワイシャツの裾をギュっと握り締めながら・・・

「・・・・・・私の前で別の女のことを考えては駄目だとつい先日言ったばかりだぞ・・・」

俺の胸にクリティカルヒット!!
しょ、正直、たまりません。
その恥ずかしげにそらされた視線が、控えめに染まった頬が・・・
人前では絶対に見せない先輩の姿に心臓は16ビート。ノリノリで踊りだす。
素直な仕草と、クールビューティーさで生徒の人気を三分している先輩にそんなことをいわれて、
そんな表情をされたら・・・

「それに犬は犬らしく裸足で駆け回っていればいいだろう?別に全裸でも構わんか」

甘い雰囲気を雷雲でかき乱すように、バタバタと遠くから近づいてくる足音。

ほら・・・

「やっと見つけたぞ〜この妖狐めぇ!!今ボクの悪口を言っただろ〜
 陰口なんて卑怯者のすることだぞ〜狐は大人しく油揚げでも食べててよっ!!
 ボクのユースケを盗らないで〜〜〜っ!!」

コイツがやってきちゃうじゃありませんか・・・
四つんばいになって威嚇体制をとり、犬歯を剥き出しにして敵意を発散させている。
元気なのはいいが、そのスカートの長さでそんなポーズをとると・・・

「ポチくん。スカートの中身が見えているぞ。淑女にあってはならぬ痴態だな。
 それに狐人である以上油揚げは至高の食べ物なのだが、今はユウスケのほうが貴重な栄養源だ。
 所謂大好物というヤツだな」

先輩は俺の体を一際強く抱きしめ、ポチを見下ろすように言った。
当のポチは口の端から舌を覗かせて荒い息をつきながらも、目が点になっていた。

「ユウスケ・・・・昨夜は激しかったぞ・・・私たちの間に種族の壁という大きな関門があっても
 愛の力で乗り切って見せよう!!
 さぁ今夜もきつねうどんの出汁より千倍濃いキミの子種を一杯私の中に注ぎこんでおくれ・・・・」

クールな先輩としては珍しい熱弁で、俺の胸に顔をうずめた。
お、お願いだからこの状態のポチを逆撫でしないでぇ・・・

「ぐるるるるるるるるるるるぅぅぅぅぅ・・・・うぉぉぉあん!!」

ポチは大きな瞳に涙をため、全身のバネを使った素晴らしいプレスを繰り出した。
だからなんで俺?
ポチの体重と、勢いと共に押し倒された俺はなすすべもなく組み敷かれる。
怒りと悲しみで俺の胸に爪を立て、抑えきれなくなって決壊しかけている黒い瞳で吠えた。

「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで・・・!!!???
 何でボクにはいつも手出ししないくせにその女狐にはするの??
 なんでなんでなんで??ボクのどこが不満なのさ!?お散歩が長すぎるから?
 ううん、あれはユースケのためを思ってやってるんじゃないか!ねぇなんで、なんでよぉおおお・・・
 ユースケはボクのものなのに、ボクはユースケのものなのに・・・
 どうして溜まってるなら言ってくれないのさ〜っ。頼まれれば後ろからだって前からだって!!
 ホントは後ろからが一番落ち着くけど・・・ううん!!ユースケがお座りって言えば
 ちゃんと腰だって振るよ!○ん○んって言えば自分で広げてみせるよ!
 あぁもう〜本当は春だからボクだってもてあまし気味なのに〜
 早くボクに命令してよ。『可愛い可愛い俺のポチ、早く俺のモノに下品にむしゃぶりつけ!!』
 ってさぁ!!
 早くユースケの濃い雄の匂いを胸いっぱいに吸い込みたいよ〜ボクのはしたない匂いを
 その体に擦り付けたいよ!!
 ねぇ、ユースケ、お願い、お願い!!しよ〜〜交尾しよっ、ねぇ〜〜!!交尾交尾ぃ〜」

おいおいおいおいおい???
話が飛躍してるぞ、頼むから俺をおいて別次元に飛び出さないでくれよ!!
それに今先輩の話を真に受けるんじゃねぇ!!

朝から擬似修羅場が発生してしてしまった県立ケモノ高校の校門。
俺は服をばりばりと脱ぎ始めるポチに、何故か迫られている。
この超時空を作り出した先輩はとっくに立ち去っていた。作り逃げですか?先輩!!

集まる好奇の視線。男子からは嫉妬、そして女子からは嫌悪。
俺は無常にも鳴り響く始業ベルを耳朶に納め、飽きずに俺の顔を舐めまわしているポチに
組み敷かれながら、ため息を一つついた。

「世界は平和だ」


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