うじひめっ! Vol.11
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 押入れから這い出てきた黄色いパジャマのアイヴァンホーが――
 仮面も付けず、ターコイズブルーの瞳に怒りを漲らせてギンギンに睨んでらっしゃいました。
 姫様の貞操を汚したうえ、ついうっかりたっぷり中出ししちゃった俺の方を。
「い、いくら朝が弱いとはいえ……姫様の純潔を守り通せぬなど迂闊……!」
 膝を突き、嗚咽。守り通されなかった当の姫は悲愴な表情どころか
 満足げに薄く紅潮して胸を上下させているが。
「うっうっうっ……申し訳ございません父上、母上……わたしは自らの務めも果たせぬ
 不肖の娘です……」
 ぐずぐずと泣いていたが、やがて掌底で乱暴に涙を拭った。
「かくなるうえは……くぅぅ!」
 体をたわめ、力を溜め込んで。
「貴様を殺してわたしも死ぬまでだっ!」
 吠えると同時に飛びかかってきた!
 あまりの速さに回避できない!
 両肩を掴まれる!
「ひいっ!」
 首をぐりんと捻って頚椎叩き折るつもりか!?
 それともじわじわ絞め殺すつもり!?
 あるいは懐剣でひとおもいにブッスリ!?
 もしくは頭部を卍に断って「見えませんでし――」ブシャアア!?
 恐慌を来たす俺に対して彼女がとったSATSUGAI手段は、
「父よ、母よ、妹よ! 先立つ不孝をお許しください! ……んむうっ!!」
「んむうっ!?」

 ――キスでした。

 え? あれ? なんで? 意外が過ぎて理解は及ばない。
 口移しに毒を飲ませるとかか? と疑って唇を固く閉ざすが。
「ちううううううううう……」
 向こうは別にこじ開けようともせずひたすらに抱きついて唇を押し付けてくるだけ。
 歯が当たるのも構わずただ闇雲にぐいぐいとプッシュプッシュ。あ、おっぱいも密着して柔らけー。
「……ちうううううううううううううううううう……」
 ドアップになったアイヴァンホーの顔が次第に赤くなっていく。
 かと思ったら、あるときを境に青くなっていった。そのまま紙のような白さに変じる。
「…………きゅう」
 遂には呻きを一つ残し。ばったりと倒れた。おい!?
 慌てて抱き起こす。息はしている。死んではいないが、気絶しているようだった。
「アイヴァンホー、あなた、よもや私の純潔に殉じるため呼吸が止まるベーゼで
 和彦さんを相打ちにしようと……」
 まさに死の接吻。だが。
「そりゃあ鼻のないあなたは窒息するでしょうけれど……和彦さんは普通に鼻息ができますのに」
 どうやら錯乱のあまりそこまで思い至らなかったらしい。
 哀れといえば哀れ、滑稽といえば滑稽な顛末だった。
「あーあ。目を覚ましてからこの人を説得するのが憂鬱だなあ……」
 と溜息をつく俺だったが。

「……かずくん?」

 半ば存在を忘れかけていた遥香が、「ギギギ」と軋みを上げそうな
 強張った笑みを満面にたたえていた。
 背筋が冷たくなった。ち○こがキュッと完全に縮こまった。
 とりあえずパンツを履いて隠した。パンツもズボンも
 血とザーメンと何か透明な液体で濡れていて気持ち悪かったが、不平を垂れてる余裕はなかった。
 怖い笑顔を振りまく従妹は小首をかしげて「そういえばさー」となにげない口調で切り出す。
「よく考えてみるとー。あたしってフォイレちゃんが蛆虫に変わるとこ、見たことないよねー?」
「あ、そうですの。証拠をお見せしたのは和彦さんと良治さんだけでした」
 純潔を散らされたばかりなのに、大して気に病むふうもなくのんびりとフォイレが言う。
「ねー、ちょっと見せてよ、蛆になるとこ」
「え……でも、人前で変身するのは恥ずかしいですの……(もじもじ)」
「見ーたーいー。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいからさー」
 と遥香は両手を合わせて拝む。「仕方ないですの」とフォイレは不承不承、
 呪文を唱えにかかった。

「まごっと まごっと う゛ぇるみす わ〜む♪ ムテキな蛆虫に、な〜れ♪」

 どろん。煙が巻き上がった後には、一匹の小さな蛆が横たわっている。
「へえー。うわあー。すごいなあー。あたし、びっくりしちゃったよおー」

 棒読みに感心してみせた遥香は、足元のビームサーベル(丸めたポスター)を
 爪先で蹴り上げてキャッチ。
 迅速に八双の構えを取り――流れる動作で「ぜりゃああ!」と打ち下ろしにかかった!
 こ……これは“48のゴキ殺し”の一つ、
「非情なるポスターッ!?」
 長大なるリーチをウリにした絶死の一撃は叩き潰す威力があまりにも強すぎ、
 ひとたび繰り出せば対象のGがハラワタをブチ撒けて四散する――
 その凄惨さから木更津家では代々封印されてきた伝説の過剰殺戮奥義。
 蛆形態のフォイレが喰らえばひとたまりもない!
(ひぃぃぃっ!?)
「させるかっ!」
 若し家中に此の技を放たんと乱心する者在りし時、之を留め置く為の対と成る技を残す――
 こんな秘伝書があるのかどうか知らんが、ともあれGの恐怖に狂った人間が理性を失して
「非情なるポスター」を反射的にコマンド入力してしまったときの防御策が
 木更津家にはこっそり受け継がれている。
「じぇいあっ!」
 掣肘する一刀――「温情なるポスター」。
 床に落ちているポスターを掻っ攫うようにして拾い、その勢いを殺さぬまま踏み込んで
 逆袈裟に掬い上げる!
 一個の長笛と化した細筒が鋭くぶおーんっと風音を吹き鳴らした!
「くぉっ!?」
 遥香の呻き。二つのビームサーベルがバッテンを描いて衝突!
「かぁぁぁ!」
 びりびりびりぃっ
 ビームとビームがぶつかり合い、激しい閃光を迸らせた。俺の脳内で。
「……じゃ、」
 激怒してなお眉毛が合掌造りの遥香は――
「邪魔すんなよおおおっ、かずくんんんっ!!」
 口からゴハァッと蒸気が吐き出されてもおかしくない強烈さで吠えた。
「落ち着け! 蛆虫ったって会話が通じる奴をカッとなってブチ殺すのはイカンだろうが!」
「だってかずくんの童貞が! かずくんの童貞が! 童貞が! 蛆虫に!
 こんな蛆虫なんかにいいい!」
 ボロボロ涙をこぼしながら「童貞」を連呼するアレさ加減に脱力しそうなところをグッと堪える。
「蛆虫がなんだ! 蛆虫でも銀髪美ロリなら俺は満足だよ!
 蛆だけに肌もぷりぷりして気持ちよかったよ!蛆虫で筆下ろしなんてどうかなーって
 思ってたけどヤッちまった以上はポジティブに考えるしかないだろうがっ!」
 叫びと同時にポスターをかち上げ、遥香の手から得物を弾き飛ばす。
「うわああああああん!」
 無手となった彼女は依然として泣きながら俺の胸に飛び込み、ぽかぽかと叩いた。
 こいつは結構力があるので痛い。
「あたしがどれだけ! どれだけかずくんの『初めて』を奪おうかで頭を悩ませたか!
 この夏一発キメたろうとどれだけほくそ笑んでワクワクしてたか……それを知っていて
 かずくんはこんな童貞喪失で良かったというの!?」
 ぐいぐいと胸に顔を押し付けてくる。涙ばかりでなく鼻汁まで付着させてきた。
 お前、一応は女の子なんだから、もうちっと節度のある泣き方をしろや。
「す、好きな男の子を蛆虫に寝取られたあたしの気持ちなんか……
 かずくんに分かるわけないよっ!」
 まーそりゃ分かんねーけどさ。分かったらそりゃいろんな意味で大変だしな。
「いいからもう泣き止めよ」
 頭を撫でてなだめる。遥香はイヤイヤをするように頭を振って俺の手を跳ね除ける。
「優しくしないでよ……かずくんはキス魔の従妹なんかより、
 会ったばかりのロリ蛆虫の方がいいでしょ……? ねえ、どうせかずくんのことだから
『あー早くこのウザい女を黙らせてあの蛆虫ともっかいハメて五、六発中出ししたいなー』とか
『こんな見飽きた顔よりお人形さんみたいに綺麗な子の唇の方をちゅぱちゅぱしたいぜー』とか
 思ってるんでしょ?」
 ギクリ
「そ、そんなわけあるかよ……」
 うろたえ、なんとかそれらしいことを持ち出して言い繕おうとして、咄嗟に出た言葉は。

 

A:「俺が好きなのは遥香――お前なんだからさ」
B:「――我はアイたん激ラブなるがゆえに」
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