華ノ歌ヲ 第2回
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「おはよーっす」「おはよー」「うーす」
そんな声の響く教室。この2年A組の窓際の席が光命の座席だ。
「よっ、コーメーおはよっす」
「はい、おはよう」
「コーメー君おはよー」
「はい、おはよう」
男女問わずして、光命に挨拶をするクラスメイト。
光命ものほほんとしながらも挨拶を返していた。

六波羅光命はぼーっとするのが好きな人間だ。容姿も悪くは無いがずば抜けてよい訳でもない。
頭も悪くはないが天才ではない。お茶をすする事を何よりも好む普通(?)の高校生だ。
如何せん名前だけは六波羅光命という派手な井手達になってはいたが・・・。

光命は自分から率先して話題をふるタイプではないし、目立とうとするタイプでもない。
しかし、人の話には常に耳を傾け、相手のことを重んじるその穏やかな性格と
マイナスイオンが年中出てそうな人柄にクラスでの人望は厚かった。

そんな彼だが一つ、たった一つ他の人にはない「モノ」を持っていた。
ただそれは誰でも持っている「モノ」である。しかし光命にしかない「モノ」でもある。
その「モノ」とは・・・。

「なあ、コーメーお前数学の宿題やってきた?」
後ろの席の男子が話しかけてきた
「おお、一応やってきたよ。まあ合ってるかどうかは解らないけどね。」
本当に自信が無いのか後半部分はなぜか小声になる光命。ふうっとため息もついている。
「・・・・数学、苦手だからさー」
「あー、お前確か前回のテストで追試受ける羽目になったたもんな・・・。」
「まあね」
そういって苦笑する光命。目の前にある教科書を恨めしそうに見ていたりもする。
「でもさ、お前追試は満点だったらしいじゃん。先生が間違って出した
超難解問題も解いたって・・・」
「んー、まぐれだろ?」
「・・・・数学にあんまりまぐれは無えと思うぞ・・・」
今度は男子が苦笑して、光命を見る。光命はのほほんと受け答えをしている。
「コーメーは追い込まれると強いからな〜。逆境に強いってやつか?」
「うーん、そうかもしれないなあ・・・」
「でもすぐ寝込むから身体は弱いのかもな」
「ほっときなさい」
そういって笑いあう。ほかの人も聞いていたらしくクスっと笑い声も聞こえた。
「でさ、その宿題を・・・」
「貸さんよ。お前のためにならん」
なんですとー!!などと貸せ貸さないの押し問答が始まり、朝のHRが過ぎてゆく。

彼、六波羅光命は逆境に強いと言われる。
確かに追い込まれてから強いのだが・・・しかしそれだけではない。
彼のもつ「モノ」、それは

「集中力」

である。

集中力は言わずもがな、人間が誰しも持っている能力である。
対象としている事に対して能力をフル稼働させ、通常以上の結果を残す。
人間に備わったすばらしい機能だ。

しかし、光命のもつ集中力は常人のそれとは比べ物にならないくらい凄い。
実際に人は集中しているとき、脳は他の感覚や機能を必要最低限に抑え込み対象への行動を
活性化させている。しかし、光命は必要最低限どころかその感覚、機能を全てシャットダウンして
対象とする先への爆発的な集中力を発揮するのである。

数学の追試の時もこの集中を使った。「追試に受かる」事だけに集中したため、
通常では考えられない高得点と、常人ではありえない計算スピードを可能にしたのである。
また、脳だけではなく身体的にも、この集中の力は発揮される。
昨年の球技大会ではバスケの試合で「点を取ること」に集中した結果。
170センチちょいの光命がフリースローラインからダンクを決めるわ、
バスケ部相手にダブルクラッチならぬトリプルクラッチをかますなどをやってのけた。
ただ、「点を取ること」だけに集中をまわしたので、ディフェンスはザルだったが。
所謂、ある意味「無敵状態」になることができるのだ。

しかし、良いことだけでは決して無い。
集中力を極限状態まで高めている状態は脳と身体に恐ろしい程の負荷をかける事となるのだ。
つまり精神が身体を凌駕している、いや、し過ぎているのだ。
完全に能力以上のことを行うため集中が切れた後にはそれに相応したダメージが返ってくる。
そのダメージは集中の度合いよってまた異なってくるのである。

集中が深ければ深いほど、返ってくるダメージも強大だ。実際、この集中を使った後、
光命は何日が寝込んでいる。

ここ最近での一番の集中は、例の茜、茉莉の血戦の最中に使ったものだ。
あの時、軽いパニックだった光命はあまりの惨状に「喧嘩を止める」事に集中せずに
「怒ること」に集中してしまった。
それがいけなかった。「怒ること」に人生最高の集中力を発揮したため、正に鬼。
悪鬼羅刹の様相を呈してしまったのだ。
あのトランス状態の両名を止める程だ、生半可な怒りかたではなかったのだろう・・・
正座で涙流すくらいだし。

しかし、その後は散々だった。集中力を使いすぎた結果、光命は頭痛と倦怠感、
吐き気etc・・・で7日間寝込んだ。
光命だけ寝込んだ時間が長かったのはそういう理由である。

ともあれ、光命は本当にここぞという時にしか「集中」を使わないようにしている。
一番よいのはこの力を使わずに、楽しく、幸せに生きていく事だと思っているからだ。
(寝込むのが嫌と言うのも少しある)

閑話休載

こうして毎日を友人達とのほほんと暮らしていた光命だが、最近はだいぶ周りが騒がしくなってきた。
理由は・・・・

「おにいちゃん!」「・・・・メイくん・・・」

この2人の高校入学によるところが大きいのだろう・・・。


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