姉妹日記 『もう一つの姉妹の形』 第4話
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 私は目の前に広がる光景に唇を噛み締めた
 あの女、南条秋乃が馴れ馴れしく涼ちゃんの腕を取り、仲良さげに歩いている
 私は見るに見かねずに二人に近づき涼ちゃんに馴れ馴れしく涼ちゃんに触れる汚れた手を払った
 女は私を睨み威嚇する、牽制を無視し私は涼ちゃんに笑いかけた
「涼ちゃん、騙されちゃダメよ・・・・」
 私が目線で女にメッセージを送った
 意図を理解した女の顔が恐怖で青ざめるのを見て私は口元を緩め涼ちゃんの手を取った
「さ、帰りましょうか・・・・涼ちゃん」
「え・・・・あ・・・・・でも」
 涼ちゃんはあの女を見て少し戸惑った
 その瞳に映るあの女の不安な顔・・・・
 あの女が吐いた息を吸う涼ちゃんの呼吸・・・・
 涼ちゃんと同じ地面にあの女が立っている・・・・
 私はそれすら許せずにいる・・・・
 何時からだろう・・・・こんなにも嫉妬深くなったのは
 何時からだろう・・・・こんなにも涼ちゃんを愛してしまったのは
 そんなことどうでもいいか・・・・
 いま許せないのはあの女の存在そのものだ
 道端の石ころのくせして私の涼ちゃんに近づくなんて許せない・・・・
 ましてや私が何年も秘め暖めた想いを踏みにじるようなことなどさせない
 涼ちゃんは私の物、私だけの物・・・・・誰にも渡せない
「あんた、涼ちゃん騙しといてまだ・・・・近づく気?」
 私は嫉妬と怒りに任せ、冬香から聞いたあの女の弱みを口に出した
 たったそれだけのことなのに血が騒ぎ、恍惚感は身体を巡る
 それに凄まじく上出来に言えた、さりげなく会話が途切れないような抜群のタイミングで
 私は冷静な声で・・・・
「わ、私・・・・・は!」
「騙す?騙すってなに?」
 当然食いついてくる涼ちゃん、だから私はこう言った
「この子ね、双子の姉妹がいるのよ?それでね・・・・時々入れ替わってたんだよ?」
「え・・・・・」

 あらかじめ決めていた言葉を今思いついたかのように言い、涼ちゃんに微笑みかけた
「涼ちゃんに告白したのはどっちなのかな?デートしたのは?
 いまももしかしたら双子の姉妹さんかもしれないわよ」
 涼ちゃんの手からカバンが落ち、呆然とあの女を見つめた
 ふ、ふはははは!やったわ!これでもう涼ちゃんはこの女を信じることなんてできない!
「ほんと・・・・なの?」
 確認しなくたってわかるわよね?
 あんな顔して俯いた、否定の言葉も吐かない南条秋乃を見れば
「あれ?どうして違うって言えないの?涼ちゃん、やっぱりあの噂ほんとかもよ?
 だって大嘘つきだもんこの子」
 涼ちゃんは裏切られた悔しさで拳を握り、目元を引きつらせた
 涼ちゃんは昔から嘘が大嫌いだったもんね?
 ほらほら、はやくこの子にとどめ刺しちゃって!
「僕、キミのこと好きだった・・・・・でも、もう信じられないよ!」
「ま、待って!これには理由が!!!」
 なにを今更、私がこんな子無視して行こう
 そう言おうと思った瞬間、涼ちゃんは物凄い形相であの女を睨んだ
「離して!」
 いつの間にか涼ちゃんの腕を掴んでいた手を払うと涼ちゃんは、微笑み涙した
「りょ、涼・・・・・さん?」
 少しの間のあと涼ちゃんは重い口を開き言葉を発した
「僕の好きだった、南条秋乃は・・・・どっちの南条秋乃だったの?」
 このさい、涼ちゃんの初恋を奪われたのは大目にみてあげよう
 そんなことどうでもよくなるほどに涼ちゃんは南条秋乃を拒絶したのだから
「ごめん、噂もそうじゃないって信じてる・・・・キミはそんな軽い子だなんて思ってないし」
 少し優しい言葉を掛ける涼ちゃん
 でも私には次の言葉があの女にとどめを刺す
「でも、信じられないよ・・・・キミの言葉・・・・全て・・・・・今は・・・・・全部」
 それを知っていた
 私は涼ちゃんの涙を拭って、優しく微笑む
「夏・・・・・姉ちゃん」
 私を見て涼ちゃんは空を見上げ涙を見せないようにした
「涼ちゃん・・・・・」
 私は涼ちゃんの頬に手を重ね、自分の方に向かせた
 そしてゆっくりと唇を寄せ、口付けた
「・・・・・ん」
 涼ちゃんの肩の向こうで嫉妬に塗れ絶望する南条秋乃を見て私はニッと笑んだ
「夏・・・・姉ちゃん?」
「好きよ、涼ちゃん・・・・・あの女のような偽りの想いじゃないわ・・・・本気で好きよ」
 私が笑むと今度は涼ちゃんから私を求めてきた
 もう、涼ちゃんったら・・・・・これ一応、私のファーストキスなんですけど?
 でも良いわ・・・・
 私は見せ付けるようにあの女に私と涼ちゃんが舌を絡める様子を見せつけ
 これ以上ない位の優越感を味わい、それに加え涼ちゃんとの情熱的な口付けに幸せのあまり
 肉体的に絶頂しそうになるのを必死で堪えた

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