ぶらっでぃ☆まりぃ 第3回
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  □ 十月二十一日、晴れ。

 今日は私が担当する訓練部隊の合宿初日で御座いました。
戦時中で人員補強の必要があったからでしょうか。例年より平民出身の方が多いそうです。
その平民出の方々の中から、彼を見つけました。

 ウィリアム・ケノビラック。
先の大きな戦いでの功績が認められ、騎士団長様の目に留まった傭兵。
あの老獪の騎士団長様に認められるくらいなのですから、相当な実力の持ち主なのでしょう。
というのも、本来であれば正騎士になるまで約一年間、従者として騎士団に従事しなければなりません。
しかし彼はその工程を全て省いて即入団することになったのです。
いくら戦時中で戦力が欲しいとはいえ、これは異例中の異例。
 そのおかげで、中には彼を快く思わない騎士たちもいました。
合宿地への移動時も異例のスピード入団のことで他の新米騎士たちから反感を買い、
孤立なされているようでした。

 あまりに可哀想だったので、夕食時彼に話しかけてみました。
話してみて初めて解ったのですが、とても騎士に向いているとは思えない優しい方でした。
訓練中の目つきの印象でもっと好戦的な方だと思っていたのですが、どうやら違うようです。
……ただ、彼の本当の性格を知ってしまうと、明日からの訓練に不安を禁じ得ません。
イジメられたりしなければ良いのですが。

 

  □ 十月二十二日、快晴。

 今日から本格的な訓練が始まりました。
ウィリアム様はどうやら剣を二本使って戦うスタイルがお好みのようです。
一般に支給された武器を使わないことで一人の騎士に絡まれていました。
部隊長の仲裁のおかげで大事には至りませんでしたが、ウィリアム様を見るまわりの目が
益々冷たくなったように感じました。

 ですが、訓練が始まると冷たい視線は驚きに変わりました。
彼の圧倒的な強さのせいです。
フォルン平野の戦いで大層ご活躍なされたと伺っておりましたが、それも納得。
訓練を一通り見た限りでは他の方たちの追随を許さないほどの腕前でした。
とても入団したての騎士様とは思えません。
 下馬評では今年一番の逸材と言われていたマリカ・トリスタン様をも打ち負かしてしまわれました。
飛び入りで入団したことに嫉妬していた騎士たちも、その様子を見て彼に対する態度を改めたようです。

  流石ウィリアム!そこに痺れる憧れるぅ!(←何故か他の文字と明らかに筆跡が違う)

  □ 十月二十六日、曇り。

 訓練合宿から帰ってきて早々、ウィリアム様はマリカ様から喧嘩を吹っかけられたようです。
部隊長に騎士が私闘していると告げ口…ご報告したのですが、訓練の一環だろうから
許してやってくれ、とのことです。
なんて日和見な方なのでしょう。……この役立たず。

 

 

     (中略)

 

  □ 十一月六日、晴れのち曇り。

 今日もマリカ様がウィリアム様に勝負を持ちかけていました。これで何度目でしょう。
ウィリアム様はとても優しい方。マリカ様の強引な申し出を断れるはずもありません。
 あんまり腹が立ったので、決闘する直前、ナイフを投げつけてお二人を止めました。
マリカ様が「殺す気か!」などと吠えておりましたが、知ったこっちゃありません。
 姑のように怒鳴り散らすマリカ様を置いて、ウィリアム様とそのまま愛の逃避行に出かけました。
城の見張り台まででしたが。そこでウィリアム様と夕暮れまで話をしました。
私のナイフ投げにウィリアム様は大変驚いていたようです。
あまり昔のことを知られるべきではないのですが、本当は少しでも私を知ってもらえて
嬉しかったのは秘密です。

………今日は眠れない夜になりそう。

  □ 十一月九日、快晴。

 性懲りも無くまたマリカ様が勝負を申し込んでいました。

ほんっっっとに何考えてんのかしら!あの女は!(←またしても此処だけ筆跡が違う)

 ウィリアム様もウィリアム様です。何も正直に決闘の場所に行かなくても。
そこで私は彼を足止めすることにしました。
先ず、兼ねてからウィリアム様に召し上がってもらう予定だったシーフード・ポトフの作り方を、
わざと間違えて作ります。
さらに約束の時間が過ぎるまでレシピとは違う調理の仕方で作り続け、
ウィリアム様と一緒にどう作るべきか悩むフリをする作戦です。
好物ということもあってウィリアム様は見事に私の網に引っかかりました。
夕方まで厨房に縫い付けている間に、彼自身も決闘の約束を忘れたようです。作戦成功。
 マリカ様が待ちぼうけを食っている様子を思い浮かべて、笑いを堪えるのが大変でした。ザマミロ。
おまけにウィリアム様と楽しい時間を過ごすことができました。

……今日はすごく気分がいいです。(すぐ横に満面の笑顔を浮かべる女性の顔が描かれている)

 

 

     (中略)

 

  □ 十一月二十日、雨。

 間もなく訓練部隊も解散です。今日は皆様の配属先の発表がありました。
ウィリアム様の配属先は、なんと第零遊撃部隊。あの救国の戦姫、
マリィ=トレイクネルが率いる精鋭部隊です。
私もすごく鼻が高いです。その一方で、これから彼が死地に向かうことになると思うと
胸が締め付けられる思いもありますが。
訓練部隊の解散に伴い、私も姫様付の侍女に異動することが決まりました。
ですがこのことはウィリアム様には内緒にするつもりです。
 本来私は彼の近くにいるべきではありません。これを機にウィリアム様とは距離を置こうと思います。

(ここから数行にわたり、筆跡が変わっている)

 私は影から彼を見守っているだけでいい。それ以上は彼を不幸にするだけ。
解っているのに、この気持ちは止められそうにない。
 ウィリアム。……どうか。どうか私のことは忘れて。
でないと。私は……(あまりに文字が乱れているため、これ以上は解読不能)


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