さよならを言えたなら 第16話
[bottom]

「で?」
「で?……てなにが?」
保健室で目を覚ましたとたんにこれだった。セレナが鬼のような顔で立っていた。
その隣りには葵が立っていた。
「なにが?じゃないでしょ!どうして学園祭に来てるのよ!?しかもこの娘と、私に内緒で!
…来てくれるなら私に一言ぐらい言ってくれれば…」
「お前がこの学園の…しかも生徒会長兼、ミス朝野だなんて知らなかったんだよ。」
「だからって…葵と二人で見て回らなくたっていいじゃない。」
「招待受けといて、バラバラに動くのもおかしいだろ?それに、一人じゃあどこへ行けばいいか
わからないしな。」
「でも…でも!」
言葉に詰まったかと思うと、キッと葵を睨み付ける。それに怯えたのか、葵も体を竦ませる。
「あなた……あの店に来た時から、私のこと気付いてたの?」
「はい……学園に居る時とは性格が違いましたけど、顔は覚えてましたから……」
「それでいて、晴也…私のハルに手を出したって言うの?自分が朝野だってこと黙って、
私のこの立場も黙って!?」
だんだんとセレナの声が大きくなり、怒ってるのがわかる。

「だって…そうすることでしか、セレナさんに勝つ方法がなかったんです……
絶対に、晴也さんは渡したくなかったから。」
「な?」
それは…つまり……
「はん、本性を現したわね。どう?ハル。この娘はこんなに卑怯なのよ?私を騙してまで……」
「騙してなんかいません!だって…初めて好きになれた人なんです…だから…」
「な!?」
初めて好きに……前々から慕ってはくれていると思ったが、それが好意だったとは……
いや、たしかにそれを意味することは前からあったのかもしれない。
「初めて好きに?笑わせないでよ!私だってね、初めて好きになれたのはハルなの。
しかも、あなたよりもずっと前にね。」
その目は、いつも冗談で好きだと言っているのとは違う、真剣な目だった。
セレナは…ここまで本気だったのか。
俺は……俺の気持ちはどこだ?
「ハルが、ハルだけが、本当の私を見てくれる。ハルの前だけで、私は素直になれるの。
……バイトで出会ってから、本当の自分がどいうものか、初めてわかったわ。」
バイトで…そうだ。セレナも最初の頃は困った奴だった。

セレナが初めてバイトに来た時、正にこの学園での『セレナ様』状態の、高飛車だった。
自分の仕事はしない、汚れるからゴミはいじりたくない、肌が荒れるから水に触りたくない……
俺自身出来た人間じゃないが、そんな俺から見た目でも、こいつのやってることには
かなり腹が立った。そしてその日の終わり、俺はロッカールームで激怒した。
他人にあそこまで怒ったのは初めてかもしれない。まず一言目に、『役立たずが!』と怒鳴り、
あとは怒りのままに罵った。
もう明日から来なくていいとまで言い残し、その日は帰ったが、次の日にセレナは来ていた。
前の日とは全く違い、能動的に働いていた。
「あの時、初めて人に怒られたわ……しかもあんなに本気で。褒められたりされるのはあったけど、
怒られたのは初めて…。それで気付いたの。ハルが、私をちゃんと見ててくれるって。
生徒会長と、ミス朝野なんかがあっても、きっと関係なしにハルは怒ったはずよ。」
「いいじゃないですか!セレナさんにはミス朝野っていう座があるんですから!
晴也さんは……私にくださいよ……」

「だめ!ミス朝野なんていらない!!ハルがいれば、私はそれでいいんだから!」
二人で怒鳴り合った保健室が、再び静寂に包まれる。すると…
「ふふ…そうね。」
セレナがなにか思い付いたのか、葵に近付き、なにやら内緒話しをしている。
一通りそれを聞いた葵は、はい、と頷きなにやら戸惑った顔をしている。
「いい、葵?それで、ハルが私達のどっちを選ぶかの勝負よ。恨みっ子なし。
私達の好きなハルが決めることなんだから。」
「わかりました。それなら文句はありません。」
互いに再度睨み合ったあと、セレナは保健室をでていった。
「晴也さん…」
葵はまだなにやら迷いのある顔で話しかけてくる。
「その……今日、学園祭の最終日なんで、夜になると後夜祭があるんです。」
「ああ…」
「その後夜祭、ぜ、絶対に来てください!その…帰ったりしちゃダメですよ?
きちんと最後までいてくださいよ?」
「了解。最後までみてくよ。」
「はい、それでは私には準備がありますんで、ここで失礼させていただきます。」
そう言い残し葵も出ていってしまった。


[top] [Back][list][Next: さよならを言えたなら 第17話]

さよならを言えたなら 第16話 inserted by FC2 system