さよならを言えたなら 第13回
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「は?俺とセレナが?」
「は、はい。」
なに突拍子もないこと言いやがるんだ、この娘は。どう見ても俺とセレナはそんな関係じゃないだろ。
「まさか。ただのバイト仲間さ。…ってかそう見えた?」
「は、はい。仲が良いので……」
「仲が良いってだけさ。それ以上でも以下でもない。
…正直、一時憧れを持ってたこともあったがな。」
「え?そ、そう、なんです…か。」
「ま、俺とセレナじゃ釣り合わないからな。セレナに失礼さ。」
軽いコンプレックスを感じているのだ。こう見えても。セレナの容姿目当てで来る客も
少なくはなく、そうなると居場所に困る。
「まあ、見てくれは良いけど性格はアレだからな。」
そう言って苦笑いしながらロッカールームを親指でさす。見た目とのギャップもまた、
セレナの魅力なのだが。
「で、でも、晴也さんも十分魅力的ですよ。私から見れば…」
「はは、お世辞でも嬉しいよ。そう言ってくれるのは、葵が初めてだな。」
「…あぅ…お世辞じゃなくて…本気なんだけどな……なんでわかってくれないかなぁ………
本当に、晴也さんて……」

「ん?どうした、葵?」
「晴也さんて鈍感ですね。」
「………」
「………」
一瞬にして場の空気が固まる。鈍感だなんて葵に言われるとは予想外だ………
「はぅあっ!か、考えてたことしゃべっちゃった!」
「お、おまえなぁ〜。頭じゃそんな事考えてたのかよ!パフェ没収だ!!」
「あぁー。ご、ごめんなさい!それだけは勘弁してくださいぃ……
せっかく晴也さんが作ってくれたパフェが食べられるのにぃ〜〜。」
この日以降、鈍感だということに少し傷ついていたというのは内緒だ。
結局葵に謝り倒されて、パフェの没収はしなかった。五分ぐらいからかっていたが、
途中からマジ泣きになり、うるさくて仕方なかったからだ。
客がいたらクレームになるところだった。感情の高ぶりが早いというか、
顔色がころころ変わって面白い奴だ。……マジ泣きはもう勘弁だが。
そしてそのままコーヒーをたのみ、俺があがる時間までなんだかんだと
雑談で時間を潰してしまった。……まあ、客が来なかったから良いよな?葵も客なわけだし。
帰りは送って行くことになった。セレナは……いいや。

「待たせたな。」
「い、いえ。晴也さんが相手なら何時までもまちますから……はぃ…」
そう挨拶を交わし、並んで歩き始める。
「そういえば…セレナさん、どうでした?」
「ああ、顔色が赤みが引いて逆に青くなってた。まだ意識はなかったけどな。
まあ、息してたから大丈夫だろ。」
「うふふ……辛味で憤死だなんて前例、ないんですかね?」
「んん??…あ、はは…な、ないんじゃないか?」
「ですよねぇー」
こいつ、天然で言ってんのか。笑顔を見る限りそうなんだろうな。……恐ろしい娘!
「あの……晴也さん。」
互いに話して歩いていると、急に葵がおとなしくなり、話始める?
「ん?」
「来週の日曜日って暇ですか?」
確かバイトも休みだったし、特に出かける予定も無い。
「ああ、暇だけ……」
「で、でで、でしたらぁ!」
俺がいい終わる前に、葵が顔を強張らして俺の前に立つ。その差し出された両手には、
一枚の紙切れ……もとい、チケットが握られていた。
「わ、私の学校の……学園祭にきませんか?」
「な、に?」
そのチケットは朝野女子高のものだった。

朝野女子高……名実共にレベルの高い、いわゆるお嬢様学校だ。その学園祭である。
そのため、集まる輩もナンパ目当て、な不埒者が多いわけである。
それを阻止するため、一昨年から男子だけ招待制になったのだ。朝野高のスタンプが捺してある
チケットが無いと入れないのだ。
噂によると、朝野女子の生徒が何枚かもらい、それを譲ってもらわないと手に入らないらしい………
つまり、その女生徒と親しくない限りもらえない、幻のチケットなのだ……俺は素直に受け取っていた。
「あ、ありがとな。…でも、いいのか?」
「うん、うん。チケットは二枚もらったけど、晴也さん以外の人には絶対渡しませんよ、はい。」
別に渡してもいいんじゃないか?……需要が高いし。裏では高値で取引されてるぐらいらしい。
っていうか葵のやつ、とてもお嬢様って感じじゃねぇよな。
「あ、でも、受け取ったからには絶対に来てくださいよ!?約束ですよぉ!?
来なかったから……あのー…そ、そう。もうお店に貢献してあげません!」
「わ、わかったわかった。何があっても行くって」
葵の勢いに押され、ついつい頷いた…


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