さよならを言えたなら 第12回
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「えーとぉ……イチゴパフェとオレンジジュース一つずつください。」
「はい、かしこまりました。」
セレナの怒鳴りにおびえてしまったのか、他の客はほとんどいなくなってしまった。
まったく、迷惑な店員もあったもんだ。
「パフェにオレンジジュースか………作りますか。」
客もいないので自分で作る。一見難しそうに見えるが、全部ぶち込んでクリームをかければ
素人目にはわからないようになる。材料を出して作ろうとすると……
「あ、いいよハル。私が作るからさー。」
セレナが厨房に入るなり、そう言ってきた。
「いや、いいよ。俺が注文受けたんだし。」
「い、い、か、ら。ほら、葵ちゃんと楽しくお話してきなさいよ。」
グイグイと背中を押され、厨房から強制排除される。笑顔(不自然な)全開でやられると困る。
というか、こんなこと言うのは初めてだな…なんか、怪しい。
「ん…じゃ、じゃあ、お言葉に甘える。」
言われたとおりに葵の席まで行き、声を掛ける。さて、何を話そうか………
「…暇できちまったよ。」
「うふふ、店員さんがそれでいいんですか?」

「ふっふっふっ………小娘の分際で、私のハルに近付こうだなんて一万年早いのよ。」
セレナの作っているイチゴパフェ……なのだが、明らかなイチゴ以外の不自然な赤みが浮いている。
「あっはっはっはっ…このセレナ様特製、激辛パフェ。クリームの甘さをも吹き飛ばすほどの
唐辛子にタバスコ。これを食らって無様に逆噴射するといいわ。」
真ん中に赤い辛味成分を入れ、それを隠すようにクリームで包む。タバスコが染み出してきても、
イチゴクリームだと誤魔化せる範囲だ。
「見てなさい。恥ずかしい場面をハルにみられて、呆れられればいいのよ。ミルク臭い学生が、
私に歯向かったことの愚かさを教えてあげるは…」
なにやらぶつぶつ呟き、怪しいオーラを放ちながらパフェを作っているその様子は、
さすがに店長も止めるのをためらった。隣りに包丁があるからだ。
「ふへへへへへ……辛ずぎなの食べて死ぬっていう前例はないかしら。
……事故死で済ませるわよね。……ふふふふふ…ふふ、あっはっはっはっ!ごほっ!ごほっ!……」
笑い過ぎだ、セレナよ。

「おまたせー。」
五分ほど話しをしていたら、セレナがトレーにパフェとジュースをもってやってきた。
相変わらず、セレナのパフェの彩りはすごい。
まるで店前に並ぶレプリカのようだ。
「うわぁー。おいしそぅ。」
葵の目が輝き、パフェに釘付けになる。俺は甘い物は苦手なのだが、どうして女ってのは
甘い物が別腹とか言うんだろうか。不思議でたまらない。
「へえ……旨そうだな。」
こういうのは一口食べれば十分である。
「あ、たべます?」
「おいおい、俺は店員、あんたは客だぜ?」
「大丈夫ですよ。私がいいって言うんですから。それに………もにょもにょ…」
「それに?」
言葉がぼやけて、よく聞こえない。しばらくして、うん!と頷いた後、スプーンでパフェをすくい……
「あ、あーん。」
「………」
「………」
「………あ、あーん?」
ついつい口を出してしまう。すると………
「だ、だめだめだめぇ!!!!」
パクッ
横からセレナが飛び出し、パクッと食べてしまった。
「あっ」
「おっ?」
「あ、あんひゃねぇ、わらひのはるになにゃろうとひで、ぶっ!」

「きゃあ!?」
「うお!?セレナきたねえよ!!」
食べたと思ったら急に逆噴射しやがった。他に客がいなくてよかった(?)。
そのまま顔が真っ赤になり、何度も咳き込みながら失神してしまった。………後々店長から、
大量の辛味を投下したことを聞いた。
てか止めろよ、店長。失神したままのセレナをロッカールームに放り投げ、再度パフェを作る。
もちろん真面目にな。
「セレナさん、大丈夫でしょうか……」
「ん、ああ見えて丈夫だからな。しばらくすれば馬鹿みたいに元気に飛び出してくるだろ。
それに自業自得さ。悪戯が過ぎたんだ。」
「そう、なんですか。………よく知ってるんですね、セレナさんのこと。」
「ああ…バイトで一緒になって長いし、店員も店長抜かせば二人だけだしな。」
「……いいなぁ、セレナさん。うらやましい……どうなのかな……二人の関係……」
またぶつぶつ世界に入ってしまった。独り言が多いみたいだな、この娘は。
「お、おーい。聞いてるか?」
「えと、晴也さん!」
「おわ!?」
「は、晴也さんとセレナさんて、お付き合いしてるんですか?」


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