さよならを言えたなら 第3回
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「ハルー!昨日ぶりー!会えなくて寂しかった?寂しかったよね?私は寂しかったよ?」
やはり外人のノリというのはこうなのだろうか。美人でノリもいい……正直、自分にとっては
不分相応だと思う。記憶喪失以前の俺は何を考えてたんだ………
「ああ……昨日ぶり。元気してたか?」
「うーん…やっぱりハルがいないから寂しかったよー。…ということで、今日泊まりに行ってもいい?
新しい部屋に移ったんでしょ?」
「ん、ああ…いい、ぜ…」
前々から何回は泊まってはいたが…今は、あの悪霊が住み着いていやがった。
いくらセレナには見えないからといっても、俺としては嫌な感じだ。
それに、あのアホ霊のことだから空気も読まずに話しかけてくるだろう。
「いや、やっぱ無理だ。ちょっと片付けしなくちゃいけねぇからしばらくは入れな…」
「だったら尚更ヨ。私も片付け手伝ってあげるわ。」
「えーっと、いや、ほら。力仕事が多いから、女に手伝わせるのも情けねぇし。」
「だったら私ができる事をやるわよ。掃除ぐらいできるでしょ?埃もたまるだろうし。」

「いやぁ…えっとなぁ…」
まずい。こうなったセレナはなかなか引き下がろうとしない。決定的に来られない理由がない限り、
どうしても来るだろう。
「それとも……」
「え?」
「誰か、私以外の女でも呼んでるの?」
ギクッ
半分正解なのだが、半分はずれ。まさか女の幽霊が住み着いてるだなんて信じちゃくれないだろう。
なんとか冷静を装い、返事をする。
「……わかったよ。泊まれよ。」
「うれしい!だから好き!ハルは。あ、でも浮気チェックはするよ?」
お好きにどうぞと手をヒラヒラさせる。別に新しい部屋だし、なにもやましい事はないんだ。
幽霊ごときに浮気とはならないだろ。
と、すっと入口に人が入るのが見えた。セレナは……いないか。仕方ない。
あまり営業スマイルは得意じゃないんだがな。
「いらっしゃいませぇ……」
「あ…晴也さん………」
「…………」
……なんで…こいつが…葵がいるんだよ!!
「てめぇっ、何憑いて来てんだよ!部屋で待ってろつっただろ!!
俺はお前に纏わりつかれる筋合いはねぇんだっての!!」
「ひぁっ…ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさいぃ!!」

そういって土下座をする葵。必死(死んでるが)で謝る。
「えっと…その……別について来ってわけじゃなくてぇ。…は、晴也さんがいなくなった途端
寂しくなっちゃったから、町の中を見てみよーかなぁーって思って散歩してたら………
ほんと、ただなんとなーく、このお店に入っちゃっただけなの………なんか、引かれる感じがして……」
確かに、こいつにはここで働いているなんて教えてねぇし、スクーターについてこられるほど
早くもなさそうだし……
「はぁ……本当に呪われたかもな、俺。」
「ハルー?お客様でも来たの?」
や、やばい!奥からセレナが来やがった。こいつを見られたら何て説明すれば……俺の部屋に
居座ってるなんて知られたらタダごとじゃねぇ!
「おら!早く帰ってろって!」
そういって押し出そうと思ったが、また体をすり抜けてしまう。
「いやぁん。く、くすぐったいよぅ。」
……そうだった。見つかるも何も、こいつは幽霊だったんだ。セレナに見えないんだから、
完全に無視を決め込めてればなんの支障も………
「き、キャァーーー!!!」
その時だった。店内に叫び声が響く。

他に客もいないし、葵は俺が突っ込んでる手にくすぐったそうに悶えている。
となると……その叫び声は……
「せ、セレナ?」
「な、なな、なな、何!?どうなってるの!?その娘は、だって…そ、それにハルの腕、
突き抜けちゃてるし……」
まるで幽霊でも見たような顔(ていうか見てる)をして、驚きを露にしている。
まてよ…セレナがそんなに驚いてるってことは………
「セレナ!…お前、こいつがみえるのか!?」
「み、見えるのか?って……あた、当たり前でしょ?この娘がこんなところに……でも、なんで……」
どうやら相当ショックを受けているらしい。とりあえずセレナを落ち着かせてイスに座らせ、
水を飲ませる。呼吸も安定してきたとこで、話始める。
「えっとな、セレナ……こいつは、その……幽霊なんだ。」
「え?」
それから葵の事を最初から話した。新しい部屋に寝ていた事。なんで幽霊になったのかわからないこと。
生前の記憶がなく、心残りがなんなのか探している事。
最初は信じられない顔をしていたが、ふわふわと浮いたり、通り抜けるのを見て、だんだん信じてきた。

「そうなの……あなた、本当に幽霊……」
「そうだ、セレナ。こいつに見覚えないか?何か知ってたら、成仏の手助けになるんだが……」
「え!?う、ううん。全然知らない。……うん、知らないよ」
「そうか……チッ、消える手掛かりが見つかると思ったんだがな………」
「ぶう。また邪魔者扱いして………」
「邪魔だ。お前なんかが周りに纏わりついてたら、俺の精神が異常をきたしちまう。
早く天国へ召されろ。それとも地獄か?」
「うあーん!!また、またいじめるぅ!」
「……そうなんだ……なにも覚えてないんだ……良かった……」
葵がまたギャアギャア泣き出してうるさい。セレナもまだ幽霊を見たのが信じられないのか、
一人でぶつぶつ呟いている。
「だぁーー!黙れ!客が来たら迷惑だろ!」
「ぐすっ、いいもん。他の人には見えないんだから!」
開き直ったかのように、またビービー泣き出す。仕方なく隅っこに追いやり、少ない接客をこなしたが、
五月蠅いせいで何度もミスをしてしまった。……ちょっと御札でもかって強制的に消し去ってやろうか……


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