一掴みの優しさを君に 第7回
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「美夜ちゃんはだまっててよ!…美夜ちゃんにだって、兄ちゃんはあげないよ!」
「なによ!家に来た途端お兄ちゃんにベッタリになって。良い気にならないでよ!」
「冬奈ちゃんはいいじゃない。双子なんだから兄ちゃんと性別以外はほとんど一緒なんだよ?
だったら兄ちゃんを私に譲ってもいいでしょ?」
「ダメよ。それでもお兄ちゃんは別なの。冬奈こそ、私達双子の間に入り込む余地なんてないのよ!」
目の前で繰り広げられる、微笑ましい喧嘩(ハタから見て)がさっきから数十分は続いている。
目の前で小さな二人がひょこひょこ怒っているのはみてて面白い。
冬奈に抱き付かれたのを美夜が発見して、それから今の状態に至る。
「はぁ…」
まあここまで思われているというのは嬉しい事ではあるが……兄妹の壁というのは厚いものである。
血の濃さ、世間体など……
なに考えてるんだ?俺。そんなことありえない……はず。「!?」
そんな騒がしい中突然……さっきのような感覚に襲われる。これは白昼夢に入る時の………感じだ……
二人が騒いでいる中、俺は夢のなかへ落ちていった……

「……君………亮夜…ん……亮夜君!」
「!」
気付いたら真っ白な世界だった。上下左右も分からない世界へほうり込まれた。そんな気分。
ただ、視線の先には常に沙羅がいた………空ろな目をして……包丁を持って………
「亮夜君……ふふ…やっぱり、お家じゃ妹さんにもてもてなんだねぇ…」
床もない世界を、確実に、ゆっくりとこっちへと歩いて来る。
「いったよね?兄妹では結婚できない、故に愛し合えないって………おかしいなぁ。
復唱までして確認したよね?」
急に思考がクリアになる。
「いや…俺はそんな気は無いぞ……向こうが勝手に……」
喋れた…夢の中で自分の意識で喋れたのは初めてだ……
「本当にその気は無い?これっぽっちも?」
「……」
そこまでいわれると否定できない。昔から向けられる冬奈と美夜の想いは、見ていて辛いものがある。
何とかして報われないか。そう考えた事だってある。
「ダメでしょ?私のことを思い出すのも忘れて、他の女の事なんか考えてちゃ……たとえ、妹でもね。」
そう言うとともに、包丁が振りかざされる。

「うふふ……呪いをかけといてよかった。悪い子にはお仕置が……ううん、躾が必要だもんね。
本当はこんなことしたくないけど、自業自得だよ?」
「やめ…ろ!」
抵抗もできず、振り下ろされた包丁は左肩に深々と食い込んだ。
「っぐああああああ!!!!!」
その痛みで、一気に現実世界に引き戻される。だが、夢から覚めてもまだ左肩は痛い。
焼けるように、熱く、まるで切り落とされたように痛い。
「きゃあ!」
「兄ちゃん!?」
二人が前にいる事も気にせず、のたうち回る。だが、どんなに押さえても痛みは引かない。
……どうしろと……
「ど、どうしたの?兄ちゃん?」
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
妹さんにもてもて…
「で、出てけ……」
「「え?」」
「いいから出てけ!!俺は大丈夫だから、部屋から出てけ!」
そう凄まれると、二人は慌てて部屋からでていった。それと同時に、肩の痛みはひいていったが……
「ああ……二人に…あんなふうに怒鳴っちまったのは……初めてだ……」
肩の痛みの代わりに、今度は心が痛かった……こんな事なら、我慢すればよかった………


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