一掴みの優しさを君に 第6回
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「ただいまーっと……」
「あ、お帰り、兄ちゃん!」
「う、お、おう。いらっしゃい。」
帰った途端、冬奈の笑顔で迎えられた。さっきの食堂での事があったため、
何かしら落ち込んでいるかと思ったが、余計な心配だったらしい。
「すぐにご飯にするから待っててね。」
そう言い残して台所へと戻っていった。
「なんか機嫌良いみたいだね、冬奈ちゃん。」
「だな。」
それに越したことはない。荷物を置きに部屋に戻り、着替えながら鏡を見ると、まだうっすらと唇が赤い。
「うわぁ……」
再度恥ずかしさが込み上げてきた。キス…したんだよなぁ。でもあれだけ開放的な性格なんだ。
行く先々で似たようなことをしてるかもしれん。
「イカンイカン。何を期待してんだ…俺は…」
楽な姿になって下に降りると、美夜が電話していた。
「あ、いえ。まだ帰ってきませんので……はい、すみません。」
ガチャ
俺の顔を見るなり、慌てて電話を切った。なに焦ってんだ?
「電話、誰から?」
「あ、ううん、お父さん達に。居ないから、連絡先教えといたの。」

「ふーん。」
親父達に対して『まだ帰ってきませんので』っつー言い方はおかしいと思うが……まあ、
日本語って難しいからネ。
「兄ちゃん、ご飯だよ!」
うーい。今日はいろいろあったせいで腹ペコだ。はやく飯にあやかりたい。
「いただきます!」
今日は焼きそば。冬奈の最も得意とする料理だ。
「兄ちゃん、おいしい?」
「ん?ああ、相変わらず旨い。」
おかしいな。沙羅についてなにか聞いて来るかとおもったが、終始にこにこしながらご飯を食べてる。
ま、いっか。自分から面倒ごとを作るなんざ具の骨頂だ。
「ごちそうさんっと……」
「あ、食器はかして。私が洗うから。美夜ちゃんはお洗濯お願いできる?」
「え、ええ。」
うーん、さすが家事全般は万能なだけある。家に夕飯を作りに来る時は毎回冬奈が仕切っている。
「俺は?」
「兄ちゃんは部屋で休んでて。後で遊びに行くからねー。」
とまあ、いつものように追い払われる。クスン。
「あーー!食った食った!」
ごろんと別途に横になる。やべぇ。完全におっさん化してる。不毛な思想にしけっていると……
ダン!ダン!!ダン!!!ダン!!!!
ものすごい勢いで階段を上る音が………

バァン!
「兄ちゃん!!!!」
ドアを開けるとともにすざましい怒鳴り声が。冬奈は……まるで雷神のごとき怒り顔で乗り込んできた。
「兄ちゃん……今日、女の人とキスしたでしょ?」
「へ?」
予想外の問いに、ま抜けた声を出してしまう。…てか図星だし。
「いい、い、いやいや。そんなこたぁないぞ?」
驚きの余り吃りまくり。俺の反応を見て、冬奈の顔はさらに怒りに染まっていく。
「嘘!じゃあなんでお箸に口紅ついてたの!?兄ちゃん口紅なんてつけないじゃない!
それにこのお箸…口紅の味がしたもん!!」
「は?味って……おま、舐めたのか?」
一瞬で場が凍る。冬奈も気まずそうな顔をしている。が、すぐに詰め寄り……抱き付かれた。
「うふふ……そうだよ……私、いつもここで料理したときは、兄ちゃんのお箸食べちゃうんだぁ……
だっておいしいんだもん……兄ちゃんが咥えたってだけで、ガマンデキナイヨ?」
これは……さっきの沙羅と同じ顔……色のない顔だ…
「もしかして……あの女?…一緒に食堂にいた……あの女なの!?」
「うぐぅ……」
またも正解で痛い。抱き付く力が強くなっていく………
「あんなぽっと出の転校生なんかに渡さないよ……許せない……絶対……してやる…」
よく聞こえない。冬奈の声に耳を澄ましていると…
バァン!
「お兄ちゃん!なんで制服に香水の匂いがするの!?どこかで女に抱き付いたの!?……って冬奈!
なにを!?」
デジャブかい……
この先のことを考えただけで余計疲れがたまった……まずい…どうしよ…


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