一掴みの優しさを君に 第4回
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「一コ下なんだけどな……ま、また今度ってことで……」
「…軽く…釘打っとかないとねぇ」
「ん?なんか言ったか?」
「いえいえー。なーんにも。」
そう言ってニコリと笑う。その笑顔に胸がドキリ……いや、何故かズキリとした。
なんでこんな罪悪感が溜まるんだ?結局そのまま五時間目が終わるまで机と椅子を
くっつけたままでいた………生き地獄だヨ!
キーンコーン……
終了。いつもなら爆睡コースのはずが、今日はまともに勉強してしまったではないか(普通)
「ここまできたらなんですから、学園内の案内もお願いできますか?」
そう言われて断るのはドSかゲイだ。もち、了承。こうなりゃきのむくままだーい。
「んじゃ、行くべ。」
とはいえ、特別紹介するような所は無いので、流すように紹介。ただ屋上は俺のお気に入りの場所なので
立ち入り禁止と言っとく。
「んで、ここが食堂。……ここには伝説があってね。」
「伝説?」
「永遠の二十歳と呼ばれる受付のおねーさんが居るんだ。それと毎回水だけを飲んで
そのおねーさんにアタックかけてた人がいるたらしいよ。……全部失敗したらしいけどな。」

「あはは……報われないね。」
全くだ。そんな好色野郎の顔を拝んでみたいもんだ。カウンターの中を覗いたが見当たらなかったので、
食堂を出ると………
「あ、いたいた。おーい!兄……ちゃん?」
冬奈だった。最初はこっちへ笑顔で走ってきたが、失速するのに比例して、元気まで無くなっていった。
……どうかしたのか?
「…えと……誰?」
絶望を迎えたような顔してんなぁ。本当になんかあったのか?……沙羅のことか?
別に冬奈は人見知りするタイプじゃなかったんだが……
「ああ、噂の転校生さん、遠藤沙羅さん。」
「あ、さんづけしなくていって。同い年なんだしさ。もっとフランクにいきましょうよー。」
「ん、そっか。じゃあ、改めて遠藤沙羅。今案内してたんだ。夏校のさ。」
「っ!……な、なんで兄ちゃんが案内してるの?…そういうのは…美夜ちゃんの……
クラス委員長の仕事でしょ?」
確かにそうなんだが……なんで俺がやってるんでしょーか?
「うーん、なんていうかなぁ。委員長さんからやたらと敵視されちゃったし……
それに、亮夜君は良い人だしねぇ。好きだよ。亮夜君みたいなタイプ。」

「「えっ?」」
俺と冬奈がハモる。ちょっとドキリとしてしまった。驚いたなぁ。フランクとはいえ、
会って初日に好きとは………まあ、Likeってことだろうけど。
まあ、行く先々似たようなことやってるんだろうな。
「わ、私だって、兄ちゃんのこと好きだよ?」
「んー、まあ、妹に嫌悪されるよかいいけど……そろそろ兄離れも必要だぞ?」
前々から美夜と冬奈には言ってることだが……どうもこのブラコンは治らないらしい。
ま、仲の良いことには構わないのだが。
「い、いいの!兄ちゃんのことは好きでいていいの!それより、これから荷物運ぶの
手伝ってくれるんだよね?」
…おろ?確かに帰りに持って来いよとは言ったが、手伝うとは……。そう迷ってると、
腕を沙羅に掴まれる。その手にはかなりの力がこもって……痛いヨ!
「ごめんね、冬奈ちゃん。これから亮夜君にこの町の案内もしてもらうことになってるんだぁ。ね?」
出た!スマイル攻撃!
「う、うん。」
そんな約束してはいないのだが、つい返事してしまう。
「…そんな…嘘。………馬鹿!馬鹿、馬鹿!馬鹿!!!兄ちゃんを…奪うなぁ!」

そう叫ぶと、冬奈は走りさってしまった。まいったぁ。こういう雰囲気は好きじゃない。
「うーん………今の馬鹿っていうのは私へ、だよねぇ。…あれがお弁当作ってくれる妹さんかぁ。
…美夜ちゃんより直情的ね。」
なにやら分析を始めましたよ。女の子って強いなぁ。
グイッ
「ヲヲヲ!」
ボーッとしてたら強く腕をひっばられた。
「ほら、行こうよ。町の案内もしてくれるんでしょ?」
……冬奈を追おうと思ったのだが……仕方なし。まあ、家に帰れば冬奈も居るだろうし、
ここまでして沙羅を放置するのも酷だしな。
「じゃ、いくか。」
「あはは、なんかデートみたいだねぇ。」
ズキリ
まただ。また心が痛んだ。全く、この娘はどこまで本気なのやら……あまり、
この嬉しそうな笑顔を見るのは良くない。
罪悪感に心がつぶされそうだ?
「あ、それと……さっきのは、本気だよ?…あんなこと言うの、君が初めてなんだから……」
「え?」
本気?さっき?………何が…
「妹さんになんか……絶対負けない……ううん。負けるわけ、ないよ。」
その後ろ姿はとても愛しくて、抱き締めそうになってしまった………


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