一掴みの優しさを君に 第3回
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「あー…今日は転校生がいる。っとまあ、みんな早く見せろって顔だな。まあいい。入ってこい!」
鬼山の怒声と共にドアが開く。そこから入って来たのは一人の女生徒。まだ制服が届いてないのか、
見慣れない服を着ている。
長いが纏まりのある髪。黒く、切れ長の瞳。背は小さい方か。……面倒な評価は止めよう。
総括『おおおおーーーー!!!!』
と、まあクラスの男どもが声を上げる程かわいいってこった。
「ふん、三次元の何がいい!?」
一人例外有り。俺はというと……何故か、彼女の顔を見た途端、視線が外せなかった。
かわいいからとか一目惚れではなく、なんだか…不思議だった。
以前に会ったことがあるような。そんな懐かしい感覚。明らかに初対面なのに。
「…!」
目が合う。なんでだろう。向こうも目をはなさない。それは二秒か三秒か。
いや、もっと短かったかもしれないが、その感覚が脳裏に焼き付いた。
「ああ…いかんいかん。」
目を伏せ、頭を振る。なんだか脳内スパーク状態だ。
「それでは自己紹介を……」
「はい。…初めまして。遠藤沙羅です。」

遠藤…遠藤………どっかで聞いたことがあるような。思い出せそうで思い出せない。
『相談できるんですか?』『そうだん(なん)です!』とかいう駄洒落をぶっこいた金融会社名が
思い出せないぐらい気持ち悪い。
そんなことで悩んでいると……
「ん、じゃあ亮夜。隣り空いてるから座らしてやれ。」
「え……」
そう先生が言うやいなや……
「せ、先生!」
美夜が立ち上がる。さすが委員長。クラスのために働くねぇ。
「転校生なら私の隣りがいいかと……えぇっと…い、委員長として…えぇ…いろいろと教えたいんで…。」
「いえ、私あそこの席がいいでーっす!」
かなり元気よく転校生……沙羅さんが叫ぶ。ざわめく教室。美夜は……仰天していた。
そんな騒然としたなかを、悠々と沙羅さんは歩いて来る。
「初めまして…えっと、亮夜くん?」
「ああ、はあ…初めまして……」
いきなり握手。すっごい照れる。どうやら気さくな人らしい。このタイプは
親父(初対面の人にパッチンガムやるのは気さくと言うのか?)でなれているのでやりやすい。
「教科書とか、あるか?なけりゃみせちゃるよ。」

「うん。助かりますよー。」
そう言うと即座に席をつける………いや、ってか。
「椅子まで近付けなくってもいいだろ!?」
「はっは〜。照れるな照れるなぁ。」
ここまで気さくな奴とは!ってかそういうことされると……嗚呼!ほら。周りの男どもの視線がぁ!
嫉妬と羨望のまなざしがぁ!
そんな厳しい状況の中、授業は淡々と進んでいった……






「昼飯だあ!」
やっと解放され、自由な時間を手にしたと思ったのだが………
「ナニヲナサッテイルンデスカ?」
俺が言いたいことを美夜が先に言ってくれた。うん、まあ、妥当な質問かな。
「いいじゃないっすか。ここまできたら、お昼も一緒にたべましょ?」
机をくっつけたまま、弁当を広げる。ついでに俺も。
「それ、誰が作ったの?」
「ん?ああ、妹が…つってもこいつじゃなくてもう一人の、な。」
そこんとこ間違えると大変だ。
「ふーん……妹ねぇ。…今度、会わせてよ。」
「はい。」
そう言って興奮している美夜を指差す。
「違う。こっちじゃなくてお弁当作った方よ。」
うわぁ……こっち扱いで美夜サン激怒ですよ………


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