一掴みの優しさを君に 第2回
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作った料理を器に移す冬奈。エプロンをかけたその姿はもう見慣れた物だが、何度見ても良い。
腰まで伸びた髪が綺麗に揺れる。
某友人が、『短髪+活発っ子。これは絶対定義だ。』とかぬかしていたが、冬奈はそれをぶったぎる、
長髪活発っ子だ。
性格的には美夜は静かな方なのだが、なぜか冬奈が一緒に居る時はやたらと元気になる。
そんなに冬奈が来るのがうれしいのか?
「あ、そうだ、兄ちゃん。志穂おばさんから聞いてる?」
「んあ?なにを?USAに行くってしか聞いて………」
「今日から私も兄ちゃんの家で暮らすんだ。」
沈黙。…冬奈を見る。ウキウキした顔をしている。美夜を見る。無表情。てか呆然か。もう一度冬奈。
さらにウキウキ。もういっちょ美夜。…え?なんで般若…
「ど、ど、ど、どういうことよー!」
突然食いかかる様に冬奈に飛び付く。ソファーから冬奈まで、推測二秒!
「うーん。だって志穂おばさんがそうしろって……だって、うら若き乙女が一人暮らしだなんて
危ないでしょ?その点、兄ちゃんがいれば大丈夫。
あ、兄ちゃんだったら私を襲っても無問題だよ。」

「だめに決まってるわよ!」
……それ、俺のセリフじゃないかなぁ……
「まあ、確かに危ないし。冬奈も一人じゃ寂しいだろ。いいぜ、今日の帰り、荷物持って来いよ。」
「ほんっとに!?やったぁっ!さすが兄ちゃん!だから好き!」
そう言って背中に抱き付いてくる。うごぁー。髪の毛のいい匂いが……て、変態か?俺……
「は、離れなさいよぉ、冬奈!」
無理やりひっぺがされ、ちょっと不満そうな顔をする冬奈。どうもこの二人は折り合いが悪い様な
気がするんだが………まあ、気のせい木の精。
素早く食事をすまし、学校へ向かう。慌ただしかったせいで時間が無かった。
「ダーッシャアァァァァーーーー」
ちんたら歩く夏校生徒供を奇声と共に退かしながら、通学路を突っ切る。
と、その途中で見た背中そこに………
「トウッ!」
ライ○ーキック顔負けの飛び蹴りを、後頭部に叩き付ける。まあ、これごときで
怪我をする様な奴じゃないからいいか。
「く……幾分にも増して威力が上がっているな、亮夜。」
傷一つ無く起き上がるつわもの、高橋陸。なんでも父親はギャルゲーシェアNo.1を誇る会社を立てたとか。

「昨日は夏休みデートイベント直前のデータ作成に徹夜だったんだ。手加減してくれよぅ。」
ちなみにこいつもギャルゲーマニア。あの親にこの子ありといったあたりか。
「はぁ、はぁ、お、おに……兄さん、急に走らないでよ……」
「兄ちゃん…ふぅ…速すぎ。」
置いてきてしまった二人がやっと追いつく。美夜は学校では俺を兄さんと呼ぶ。本人曰く、恥ずかしい、と。
「いやぁ、相変わらずだなアニメ声姉妹。」
「うちの妹に変なこと吹き込むのは止めてもらおうか?」
「そんな事より、今日は転校生が来るらしいぞ…まあ、興味はないがな。」
情報を得ている時点で十分興味有りだと思う。ま、今更転校生なんざと仲良しこよしになる
気力はないからスルーだな。
なんだかんだ話ながら教室へ。冬奈は一つ下の一学年。俺と美夜は二学年である。
双子だと言うのに珍しく同じクラスなのだ。
「オラー。席に着けぇ。愚徒どもぉ。」
意味不明な言葉と共に入って来たのは担任の鬼山。今やこの学園の古株だ。
………生徒に馬鹿にされるのは相変わらずというらしい………無念、鬼山サン


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