死の館 第4回
[bottom]

――敦也 〈一階東側通路〉
「なんてこった……」
しばらく歩き進んで初めて気付いた。この通路には所々、廊下を区切る様にドアが設置してあった。
やたらと枚数が多いと思ったのだが……
「一方通行とはな。」
ホールから見て奥へ進むと、その側のドアに取っ手が無かった。
「どうしよう、あっちゃん……戻れないよ…」
美保が泣きそうな顔ですがりついてくる。こういう時に慰める術を俺はよく知らない。
「戻れない事もないだろ。そんな家があってたまるか。…先に進んで一周でもすれば戻れるさ。」
どうしてかこう刺のある言い方になってしまう。人を拒絶する傾向があるからか。
「えぇ〜。本当に?」
知るか。と口に出そうだが、喉で止めておく。……美保にだけは、俺を軽蔑のまなざして見てほしくない。
「大丈夫だ…いくぞ。」
「あっ……」
グイッと手を引っ張って行く。これぐらいしないとなかなか先へ進んでくれないからだ。
そうやって手をつないだ途端、黙ってしまった。
「ん?」
そうしてまたドアを開けた途端、激しい違和感に襲われる。すぐにわかった。
この通路だけ、横に部屋がないのだ。
ドアは突き当たりの一枚のみ……進むしかないか。
「なに?これ。」
そのドアにはドアノブが無く、一枚の紙が貼ってあるだけだった。
「えーっと……『スペインとサイパンの違いはな〜んだ?わかったら大きく叫ぼう』……?」
その問題を読んだ瞬間……
ガコォンッ
なに大きなものが外れたような音がし、振り返ると………
「まじかよ…」
さっき閉めたドアが、ゆっくりと迫ってきた…………

――奏 〈一階西側通路〉
「もう……なんなのよ、ここ……」
私は完全に道に迷ってしまった。いや、この場合家に迷ったと言うべきか。
その上先生ともはぐれてしまった。……この歳で迷子だなんて勘弁だが、そうも言ってられない。
携帯を見てみるが、完全に圏外。いまどき電波の届かないところなんてあるのね………
とりあえず、ポケットにある飴玉を舐めて気持ちを落ち着かせる。甘い物は鎮静剤になる。
「落ち着け……常に冷静に。」
それが私の好きな人の口癖であり、モットーであった。もっとも、その人の事を考えると、
落ち着いてもいられなくなるのだが。
適当にドアを開け、部屋に入ってみると、そこには幾つかの本棚と、机、その上には本が開いてあった。
「さしずめ書斎っつとこね。」
臆する事無くイスに座り、本を覗いてみると………
『森鴎外、夏目漱石、芥川龍之介………いずれも世に名高い賢者である。
だが、今の時代には欲にまみれた愚者と成り代わるものあり。
さて、その名を叫び、世に知らしめよ。わからぬ者、自然の恵みにあやかる資格なし。』
「……?」
まったく意味不明。これが一体なんだと……

ガチャ
席を立とうとした瞬間、横から出たベルトに体を固定される。
「な、なんなの!?悪ふざけもういい加減に……っ!」
少し叫んだ時気付いた。……酸素が…薄れてる……

――翔太
皆で洋館の探索に行っちまったため、ホールには俺と由良と絵里ちゃんが残っていた。
「由良、お前は探索に行かなかったんだな。こういうの好きそうじゃねぇか?」
「私はそんな子供じゃありまん。それに、絵里さんと二人っきりにしたら何をするかわからないので。」
「アホか。俺はそんな鬼畜と違うぞ。節度ある紳士で……」
「紳士はバスで叫びません。」
くっ!さすが我が妹。人の揚げ足をとるのがうまくなってきたな。これは要注意だ。
三人でしばらく雑談していると……
「答…は……の数…!」
どこかのドアの向こうから、叫び声が聞こえた。あまり内容は聞き取れなかったが。
その瞬間、ドアの一つが開き、中から敦也と美保ちゃんが出て来た。
「めずらしぃな。敦也が大声出すなんて。ゴキブリでもいたか?」
「そんなんじゃないんだよぉ。大変だよ、この洋館……」
美保ちゃんが必死な顔で説明する。一方通行の通路。なぞなぞと迫ってくるドア。
……まったく信じられなかった。
「おいおい……冗談だろ?それじゃあまるで、からくり屋敷どころか、殺人館じゃねえか!」

――由良
さすがに今回のことは信じられなかった。いくら敦也さんの言葉とは言え、
人殺しの罠なんてないと思ったが……
「はぁ、はぁ、み、みんな無事?」
足下がおぼつかない奏さんが、ホールに入ってきた。かなり息が上っているようだ。
そして奏さんからも聞いた。洋館の罠を。
「そう……敦也君たちも引っ掛かったのね…」
「ああ、なんとか解けたけどな。……あの庭の犬と言い、本当に冗談じゃすまされないな。」
目の前の会話がとても難解だった。実際自分が体験していないからなんだろうけど………
「あれっ?みんな集まってなにしてんの?…先生居ないみたいだけど……」
明さんと光さんが一緒にホールへ来た。これで先生以外は揃ったことになる。
奏さんの話を聞いてから、恐怖感が込み上げて来て、寒気がした。今だけ……今だけなら。
そう思い、敦也さんに近付き、自然な形で寄り添った。
「なんか……怖いです。」
「大丈夫さ……なんとかなるさ。」
そう言ってもらうだけで気持ちが楽になった……そのとき。
「由良ちゃん!!」
いきなり美保さんが叫んだ……
「誰かが殺人者かもしれないんだよ!!?あっちゃんから離れて!!」

――???
結局、見回りだけでは誰も罠に掛からなかった。しかも、大切なあなたが罠にかかってしまったのは誤算だ。
あなたになにかあったら……私……。
でも誤解しないでね?あなたじゃなくて、その隣りに居る邪魔者を潰したかっただけなの……そう、
自分の感情を押さえ切れず、後輩にキレてる醜い女を……
「落ち着けって!美保!…由良ちゃんは悪くないだろ?」
あなたの怒気を含んだ声……少しこまった顔……それを見て、聞くだけで、体が熱くなってしまう……
下着ももう、ビショビショなのよ?
「◆†≠…!……塘p#%〒!!?」
「@&*≒√だ…ろ!?」
あなた以外の声はすべてノイズになってしまう。聞き取る必要も無い。うるさい。うるさい。うるさい。
うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。
あなたがここに居なかったらみんな消してしまうところだ。でもそれじゃだめ。
あなたの見ていないところでやらないと。
「くそっ……奏。先生はどうした?」
「…れが……≠塘p°+ー…」
何?あの男を探してるの?だったら見せたあげる……もう、直視できない様な形だけど、ね。


[top] [Back][list][Next: 死の館 第5回]

死の館 第4回 inserted by FC2 system