教授と助手とロリコンの微笑み 第2部 第9話
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チバ県にある成田国際空港。ここは

航空旅客数が約3000万人

を誇る日本最大の国際空港である。
その空港に1人のアメリカ人が降り立った。
すれ違う男性の視線を独占し、女性の羨望と嫉妬の視線を受けるその人は

ややウェーブの掛かったセミロングの金髪
大理石を思わせるような白い肌
モデル顔負けのスタイル
そして一番印象的なのが、虹彩異色症によって左目がアイスブルー、右目が漆黒という
左右非対称な妖しくも美しい瞳であった。

勝手知ってるかのように迷うことなくターミナルを出て、懐かしそうに目を細めて
深呼吸をして日本の空気を堪能し、
タクシーを拾って中に乗り込むと、運転手に行き先を告げた。

既に10月に入り、若干肌寒くなり人が恋しくなるこの季節、
本来なら恋や読書など秋に相応しい事があるはずなのに、
ある実験棟に集まった三人には今は関係無かった。

「教授?これでデータ取りは終わり?」

今弥生は椅子に座って血液の採取をしていた。これまでにも身長、体重、レントゲン、心電図、
CTスキャンやスリーサイズなどなど「氷室弥生」という1人の人間の
ありとあらゆるデータを集めてきた。

「うむ、これでほぼ終わり……いや、あと最後に問診があるからそれで終わりだな」
「教授、そういえば今日アメリカから教授が来るんですよね。そろそろじゃないですか?」

時計を見ると、午後の2時になろうとしていた。

「お?もうこんな時間か。じゃあさっさと問診をしちゃうか」

弥生の前にある机に教授は書類を置いて

「それじゃ幾つか質問するが、弥生くん、エッチは週何回シている?」
「……………は?」
「うん?よく聞こえなかったかな?樹くんと週何回セックスしたかと聞いたんだが。」

ちょっとちょっと教授!!何てこと聞くんですか!大体10歳児ぐらいの
体じゃやろうとしても無理ですよ。……そもそも挿入るのか?
ん?や、弥生さん!怒りで握っていたボールペン折ってるよ!

「あらあら教授、随分と言ってくれるわね。樹とはエッチなことはまだ何も無いわよ(ニコニコ)」

怒りで頬を引きつらせながら、暴れたい衝動を何とか押さえて笑顔で答えた

「何だそうなのか。樹くんも幼女趣味があると思ったんだが……。
私だったら「いただきます」しちゃうんだがな」
「樹を教授のような変態と一緒にしないで!!」

弥生さん、興奮して机を叩かないで!壊れちゃいますよ!

「ふむ……エッチの経験は無し……と。では次の質問だが、弥生くん、生理は順調かな?」
「な?」

教授……そんなに弥生さんに殺されたいんですか?ほら弥生さんはもうリミッター外れてますよ。

「あはははは、教授随分とセクハラ全開な質問ですね。あら教授肩にゴミが。取ってあげますね」

そう言って弥生は教授の肩を掴み、少し捻った。

「ギャ――――――!!か、肩、肩が外れた!いたたたた!!」
「あら、教授どうなされました?肩をだらりと下げて。うん?バランスが悪いわね。
反対側の肩もついでに……えいっ♪」



「で、教授。一体なんでまた弥生さんにそんなセクハラまがいな質問したんですか?」

腕を組み、教授を睨んでいる弥生と、肩を押さえて涙ぐんでいる
教授の間に樹は入って聞いた

「いたた……うむ、もうまもなくアメリカから教授が来るだろう?
少しでも弥生くんのデータを取っておいて、治療の役に立てようと思ってな……」

それを聞いた弥生は少しだけ怒りが収まったのか、表情が和らいだ。

「それにしたってあの質問は何なのよ!大体」
「ダーリン!アイタカタヨ!!!」
「え?きゃ!!」

 

突然ドアが開き、椅子に座っていた弥生を突き飛ばして何者かが乱入してきた。

「おおーキャサリン教授着いたか!!」
「ン〜サミシカタ!モウハナサナイ!チュッチュッ!!」

アメリカ式の過剰なスキンシップでラブワールドを展開していた二人だったが、
突き飛ばされた弥生が

「ちょっと!あんた誰よ!入ってきていきなり突き飛ばすなんて何様のつもり!!」

真っ赤になったおでこを擦りながら弥生が叫んでいたら、
キャサリンが面白くない物を見るような目で

「フーン。「コレ」ガ「モルモット」ネ」
「!!!」

その言葉を聞いた瞬間、弥生は「人」としての理性を失った。
今樹の隣にいるのは「弥生」ではなく、怒りで我を忘れた獣だ。

「ガアアアアアッ!!」

人ではありえないほどの俊発力でキャサリンに飛び掛かった弥生だったが、
当のキャサリンはさして驚いた様子もなく

「オーコワイデスネ。デモ」

飛び掛かってきた弥生をキャサリンは空中で捕まえ、床に叩きつけた。

「がはっ!!」
「モルモットフゼイガ…」

キャサリンが床に叩きつけられた弥生を踏み付けようと足を上げたその時

「やめろ―――!!」

樹が足を上げたキャサリンを突き飛ばして、床に倒れていた弥生を抱き抱えた。

「キャサリンさん!何でこんなひどい事するんですか!一体何しに来たんですか!」

鼻から血を出して気絶している弥生を抱えて訴える樹に、
突き飛ばされたキャサリンは

「オーカンチガイネ。「ソレ」ガムカッテキタカラハンゲキシタダケ。キタリユウハ……」

隣にいた教授に抱きつき

「イトシノダーリンニアイニキタダケ♪」
「え?会いに来ただけ?弥生さんの治療は?」

教授に頬摺りしていたキャサリンは面白くない物を見たような顔をして

「チリョウ?イッツアジョーク!ソンナツモリナイワ!」

 

キャサリンの余りにも人を馬鹿にしたような発言に、さすがの樹も
堪忍袋の緒が切れかかったが、胸に抱いた弥生を見て、我に帰った。

落ち着け、俺。ここで暴れてどうする。この千載一遇のチャンスを逃したらもう
弥生さんは一生このままかも……。弥生さんを元に戻すためなら何だってやる!

樹は弥生をソファーに寝かせてから、額を床に擦り付けるように土下座をした

「キャサリンさん!もしあなたが弥生さんを元に戻せるのでしたらお願いします!!
何でもします!俺はどうなってもかまいません!
ただただ弥生さんには幸せになってもらいたいだけなんです!だから……」

樹の必死の願いにキャサリンは暫く無言だったが、ゆっくりと樹に近づいて

「イツキ、アナタヤヨイスキ?」
「へ?好き?ええ好きですよ。」

キャサリンは顔を上げた樹の目を見てさらに聞いた

「コンナ「ワガママ」デ「オモイコミガハゲシク」テ「サミシガリ」デ
「ランボウ」ナヤヨイガスキ?」

樹は答えた。迷いのない、そしてはっきりと

「それらを全部入れて弥生さんなんですから。」

キャサリンの左右非対称な瞳が樹の目の奥、心を見てるような
真剣な眼差しだった。

「ワカッタワ」

すっとキャサリンは立ち、教授の方を向き

「ゴウカクヨ」
「そ、そうか!よかった……。」
「ソレジャ……」

キャサリンは軽く自分の頬を叩いて気合いを入れた。その顔は先ほどまでの
人を小馬鹿にしたような顔では無かった。
左右違う色をした目はこれまでになく輝き、表情は真剣そのもの。
空気が変わった……正にそれだった。

「それじゃ稲本教授、機械工学の吉岡教授を機械棟の特別実験室に呼んで!
私もすぐ行くわ。あ、樹くん。弥生さんとここにいて。後で全部説明するわ。」
樹はぽかんと口を開け、ただ成り行きを見守った。



「あのキャサリン教授はな、樹くんと弥生くんを試したんだよ。二人の絆をな。」
「どうゆうことですか?」

あらかた準備を終えた教授が、キャサリンに代わり樹とついさっき目覚めた弥生の二人に
事情を説明した

「あの若返り薬……つまり弥生くんに飲ませたあの薬は未完成なのだが、
もし完成して商品化したらその利益は莫大なものだ。でもキャサリンが発表した論文から、
完成品どころか未完成とはいえある程度作れるのは世界中でもキャサリンか私のどちらかだろう。」
「…………………。」

普段のおちゃらけた態度とは違い、真剣な姿勢に樹と弥生は静かに聞き入った

「自分の研究を盗んで利益を得ようと考える人間が現れても不思議じゃない。
私がいくら「それはない」と説得しても私自身がもしかしたら騙されているかもしれない。
……で、キャサリンは一芝居したんだよ。本当に金儲けじゃなく元に戻るためだけなのかどうかを
見るためにな。」
「じゃあ何で流暢に日本語を話せるのに片言だったり、あんなに弥生さんに
辛く当たったんですか?……」
「片言しか話せないアメリカ人が散々弥生くんをいじめてその結果樹くんがどういう行動をするか、
見たかったんだそうだ」

教授は煙草に火をつけて一息ついた

「誤解しないで欲しいんだが、キャサリンは自分の研究で得た利益を
独占したいわけじゃないんだよ。完成したらその全てを公開して世の役に立ちたい……
ただそれだけなんだ。」

そこまで聞いて黙っていた弥生が口を開いた

 

「事情は分かったわ。何はともかく元に戻れるなら文句はないわ。
そして私がその一連の薬を完成させるためのデータの塊ってこともね。」
「弥生さん……」
「誤解しないで樹。別にあの教授を恨んでいるわけじゃないわ。まあ最初は怒ったけど。
それでもね私自身にある薬のデータで薬が完成し、元に戻れるのなら……」

 

全ての準備は整った。キャサリンが弥生と教授から手に入れたデータを
元に、三日三晩徹夜してついに元に戻る薬が完成した。そして完成したその日の内に
弥生は全裸でベットに寝かされ、血管から点滴のように薬が注入された。

「弥生さん、この薬がすべて注入され、暫くしたら体に異変が起きます。
たぶん筆舌に尽くしがたい激痛が全身を駆け巡りますし、幻影や幻聴などもあるやもしれません。
宜しいですか?」

弥生は静かに頷いた

「痛みが無くなった時、弥生さん、あなたは以前の姿に戻っています。
……いいですか?アナタが一番愛する者の言葉、行動を信じなさい。……それじゃ」
「あ、ちょっと待って」

弥生は部屋から出ようとしたキャサリンを呼び止めた

「……ありがとう」

 

キャサリンはちょっとだけ驚いたが、すぐ笑顔で

「お礼を言うのは私よ。アナタの協力で薬が完成したんだから。
本国に帰ったら全世界に発表して医学の進歩に使わせてもらうわ。
そうすれば人はあらゆる可能性に挑戦できるわ。……それじゃ」

「ところで教授、あのキャサリンさんとはどういう関係なんですか?」

治療が終わるまで、樹と教授は外の廊下で待っていた。

「うん?キャサリンか?……まあ愛人みたいなもんだな。大体私は16歳以下じゃないとな。
それでもキャサリンは私のことを愛しているようだから、……遊びだ」

教授…………後ろから刺されますよ。

「ダ〜リ〜ン!終わったよ。早くホテルへ行こう♪」
「ああ。……それじゃ樹くん、明日また来るから弥生くんのことは宜しく頼むよ。」

教授を見送った樹は物音一つしない廊下で立ち尽くしていた。

弥生さん…頑張って。

どれぐらいの時間がたったのだろう。時間はもう日付けも替わり、
待ちくたびれた樹は座り込んでうとうとしていた。
しかし、ついに始まった。長く辛い戦いが……

「キャ――――!!!!!!!」

夢と現実を行き来していた樹は考える前に部屋へ入っていた。
「弥生さん!!」

 

カツン、カツン……
とある病院の地下を一人の女性が歩いていた。
薄暗く長い廊下にはドアがいくつかあるが、何年も使っていないのか錆だらけだった。
その廊下を歩く女性はある一つのドアの前で止まった。
周りのドアと違い、ここだけオートロックで施錠されていた。

「ん〜んっん〜ん〜♪」

かなりご機嫌な女性は暗証番号を入力した。
ロックが外れた音が廊下に響き、女性は部屋へ入って行った。
部屋は窓が無く、ベットと時計があるだけだった。そのベットに一人の男が寝ていたが、
来るのが分かっていたのか

「やっと来たか……怪我を治してくれたと思ったら、
こんなとこに閉じ込めて、どうするつもりだ。」

女性は何も答えず、一つの包みを投げた

「?なんだこれ。……開けろって?……!!これは…」

袋には一丁の拳銃と地図が入っていた。

「うふふ、あなた氷室弥生に恨みがあるんでしょ〜。今アレは大学のとある部屋で苦しんでるわ。
殺るなら今よ〜。拳銃には弾は三発。地図に場所を書いといたから〜。
後は貴男の自由よ〜。頑張って〜。」

部屋を出た女性は薄く笑っていた

弥生さんの近くには必ず佐藤さんがいるはずだわ。
あの男、佐藤さんにも恨みがあるから殺っちゃうわね。
ついでに弥生さんが死んだほうが佐藤さんも淋しくないかも。
そしてそれを知った晴香ちゃんはショックで落ち込み、
その心の隙間を私が埋めて晴香ちゃんげ〜っと。そしてハッピーエンド♪
……うん!完璧ね。それもこれも「アノ」教授に感謝しとくか。……仕方ない、
お礼にこの監禁部屋、要望どうり貸してあげるか。

次回第十話「夢とゲンジツ」


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