教授と助手とロリコンの微笑み 第2部 第4話
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朝日が薄暗い海岸を照らし始めた頃、樹は夢を見ていた。
それは走る弥生を樹が追いかけている内容だった。
走っても走っても全く追いつけなかった。
(弥生さん、行かないで!)
たまらず叫んだら、弥生は走るのを止めて戻ってきた。
戻ってきた弥生を樹は捕まえて抱き寄せた。
(もう離さない…)
すると弥生は優しく樹の頭を撫でた。

「う〜ん…」
弥生はまだ寝ぼけながらもうっすらと目を開けた。
「いつの間に寝たのかしら…そういえば昨日は…はっ!」
昨日の夜の体の異変を思い出して、慌てて異常がないか見てみた。
幸いにも目は見えるし耳も聞こえるし手の感触もある。
見える所には異常は見当たらないし、気分や痛みなども特に問
題はないようだった。
「よかった…これも樹が薬を飲ませてくれたおかげね…ん?そういえば…。」
弥生は昨日の出来事を思い出した。
(え…と、たしか…樹から貰った薬を飲もうとしても見えなか
ったから分からなくって…確か樹が…口で…直接…え?え?え――――!!!)
思い出して弥生は真っ赤になった。
(一応ファーストキスなんだけどな…まあいっか。)
「ZZZ…」
隣を見ると樹がしかめっ面して寝ていた。
「これで助けられたのは2度目ね…ありがとう」
すると樹が寝言をボソボソと言った。
「弥生さん…行かないで…むにゃむにゃ」
「い、樹…」
驚いた弥生はそっと寝ている樹の頭を撫でた。
「大丈夫よ。私はここよ。…しかしどんな夢見てるのかしら…ふふっ」
安心したのか樹はすやすやと寝入った。
そんな樹の姿を見て、弥生はとても幸せなのを感じた。
「ずーっとこうしていたいわね…。」
暫くしたら今度は手が動き出した。
「な、なに?どうしたの?」
口をもごもごして、また寝言を言った。
「晴香ちゃん…そんな所舐めないで…あん」
「!」
今考えると、寝起きの弥生さんは機嫌が悪かったんだろう。うん。

「よし!天気も良いし今日も頑張るか!!」
「海の家 深海魚」のオーナーが到着し、店を開け始めた。
「おっと、樹たちを起こすか」
そう思って二階に上がろうとしたら、上から物音が聞こえて来た。
「なんだ、もう起きてるのか」
しかし、なんか様子が変だ。
悲鳴や叫び声、物が壊れるような音が聞こえて来たのだ。
「いたたたた、み、耳は引っ張らないで!取れちゃう!」
「樹!!朝っぱらからなんの夢みてんのよ!!」
「え?え?夢?…ああ、中々いい夢でした…あだっ!」
「ばか―――――!!!なによ!なによ!!よりにもよって晴香の夢なんか見て!!
浮気もん!!私のファーストキス返せー!!うわーーん!!!」
「弥生さん落ち着いて、何がなんだかさっぱり…ちょ、椅子は投げないで!がはっ。」

「お、お二人さんおはよう…」
「おはようございます………いたた」
「ふんっ!」
哀れ、樹は服は破れ、あちこち引っかき傷や打撲、顔には青タンなどぼろぼろの状態だ。

「しかし凄いな…痴話喧嘩か?」
たぶんオーナーは冗談で言ったんだろう。樹もはは…と笑って
真に受けていないだろう。ただ一名を除いて。
「あれ、弥生さんどうしたんですか?真っ赤ですよ?」
見ると弥生は真っ赤になりながら指をモジモジと動かしていた。
「痴話喧嘩………夫婦…」
「もしかして熱でもあるんじゃないですか?」
樹は弥生の額に手を当てた。
「!!!」
しかし特に高いというほどではないようだ。
「うーん、あれだけ暴れられるなら、大丈夫だと思いますけど…昨日のこともありますから
大事をとって今日は休んで…」
「だめ!!私も出る!」
そう、弥生は休めなかった。今日から多分晴香の猛攻撃が来る
ことは簡単に想像できる。
自分が傍にいなければあの晴香のことだ。岩陰に引っ張りこんだりして
何するか分かったもんじゃない。
「でも…。」
「大丈夫よ。無理はしない。危なくなったら休む。だから…」
自分の体より晴香の動向のほうが危険極まりないのだ。
「…分かりました。でも無茶はしないで下さいね。」
よし!これで後は樹から離れなければ大丈夫ね。さあ来なさい!

「ふわぁ〜よく寝た。」
久々に寝たーって感じね。ここんとこ寝ても仮眠ばっかりだったから寝た気がしないのよね。
………あれ?なにか忘れているような…………時間は…7時!!

「あ――――――――――――――――!!!!!!!」
「ん〜?あ、晴香ちゃんおはよ〜。ふわぁ〜」
「なんで?なんで寝てんのよ!!夜に樹さんに夜這いかける予定だったのにー!!」
悔しさと自分に対しての怒りでいっぱいだ。
「晴香ちゃ〜ん、そんなに焦らなくても今日やればいいじゃん。」
晴香は凄い形相で麻奈美を睨みつけた。
「麻奈美!あんたも知ってんだったら起こしてくれてもいいのになんでよ!!」
すると麻奈美は困った顔をして
「だってぇ〜晴香ちゃん、呼んでも揺すっても起きないんだも〜ん。」
「うっ………」
まったく使えない女ね。まあいいわ。ぐっすり寝たから体力はバッチリね。
今日はあのチビをギャフンと言わせるわ。…ん?妙に涼しいわね。
「あれ?なんで私裸なの?」
「え〜?晴香ちゃん覚えてないの〜?あちぃ〜って言って自分で脱いじゃったんだよ〜。」
えー?寝呆けてたのかしら。まあここには麻奈美1人だから
別に見られてもいいけど、出来れば樹さんに見せたかったな〜。…ん?
「ずいぶん私濡れてるわね。こんなに汗かいたのかしら。」
「けっこう暑かったからね〜。朝食の前にシャワーでも浴びたら?」
「そうね、そうするわ。」

運転手が作る朝食は冷たいスープにサンドイッチと、シンプルなのだが味は絶品だった。
「しかし、美味しいわね。よく食材もってきたこと。」
料理人兼運転手は深々と頭を下げた。
「有難うございます。お口に合うか自信は無かったのですが。」
「そんなことないよ〜おいしいよ。」
聞けば食材など、余り保存が利かない物は現地調達しているらしい。
しかし食材もそうだが料理の腕も一級品だ。

とりあえず食べるものは食べたし、今日の予定を考えた。
「午前中はバイトだからお店に遊びに行って、午後は砂浜でスイカ割りでもしようかしら。」
今日はまだ様子見にしておこう。エンジンを掛けるのはもう少し後だ。
「晴香ちゃん、佐藤さんの隣にいたおチビさんはどうするの〜?」
晴香はニヤリと笑い
「ふん、あのチビね。関係ないわ。同棲しようがしまいが私たちの仲に割り込めるわけないわ。
邪魔してきたら、体格差で負けるわけないんだからボッコボコにしてやるわ!」
「わ〜さすが晴香ちゃん、直接的〜。」
(しかしあのおチビさん、どこかで見たような顔ね…)

「いらっしゃいませー空いてる席へどうぞー。」
「おやじさん、4番に焼そば1、お好み焼き1」
「ありがとうございました。合計1200円になります。」
やはり今日も大入り満員状態だ。見ると店の外にも列が出来ていた。
やはり弥生さん目当てということか。見るとお客さんの視線は弥生に集中していた。
当の本人はその視線を鬱陶しがっていたが、どうしようもないので諦めていた。
そんな時、入り口から聞きなれた声が聞こえて来た。
「樹さーーーーん!あなたの“彼女”の晴香ちゃんが来ましたよー!」

目の前にある列なんか無視していきなり店に乗り込んできた。
「ちょっとあんた!皆並んでいるんだから割り込みはダメよ!」
弥生は注意したが、当の晴香は、弥生を汚い物を見る様な目で一瞥し
「別に食べにきたんじゃないわよ!チビは引っ込んでな!
…樹さん、午後からデートしませんか?あ、もちろん樹さんさえよければですけど。」
「いきなりだな…」
正直言えばこないだのデートは途中だったし、その原因を考えると晴香ちゃんに
悪いことしたからお詫び、ということで…
「終わってから何もなければ、でいいなら良いよ。」
「樹!!!」
「本当?やったー!じゃあ午後迎えに来るから!」
一瞬晴香と弥生の視線が交差した。
(勝った!)
(ぐ………。)

あっという間の出来事で呆気にとられたが、弥生は樹に近づいた。
「ちょっと!どういうつもりよ!なんで晴香とデートなんかするのよ!」
「うーん、前回のデートが途中だったし、せっかく海に来たんだから思い出に、と思って」
その樹の無神経に弥生は思いっきり脛を蹴飛ばした。
「!!!!!!!!!」
声にならない叫びを出して蹲ったが、弥生は無視して仕事に戻った。
(なるほど、あくまでも直球勝負ね…)

「ねえねえ晴香ちゃん、なんでさっきわざと周りに聞こえるように言ったの?」
ここは浜辺。マットを敷いてオイルを塗り、太陽に身を預けていた。
周りには明らかに、麻奈美の色気に誘われたアホどもが群がっていた。
ただ、晴香の殺気の篭った視線で近づけないでいた。
(まるでラフレシアに群がるハエね。)
そんなラフレシアこと麻奈美の質問に晴香は勝ち誇ったような顔をして
「ある程度人がいて、関係者がいる所で声高らかに宣言しておけば、それは既成事実になるわ。」
たぶんあのチビ、おおっぴらには何も言ってはいないわね。
何も言わないどころか体の関係もないはずだわ。
いくら同棲していてもあんな小さい子に樹さんは手を出すはずはないわね。
だったら言ったもん勝ちってもんよ。
「まあ要は既成事実を積み上げていくのよ。そうすれば邪魔者が来てもどうってことはないわ。」
(それの最終兵器が妊娠なんだけど、こればっかりは私1人じゃ無理ね
…全く私の子宮もちゃんと着床してよね。)
「ふ〜ん、まあいっか。晴香ちゃんとスイカ割りなんて楽しみだな〜、
あ、そうだ、背中に晴香ちゃんオイル塗って〜」

「お二人さん、とりあえず休憩してもいいよ。だいぶお客さんも減ったしね。
おっと樹くんはこれからデートだったね。」
樹と弥生はやっと休めることにほっとし、とりあえずちょっと遅いお昼を頂いた。
「ふう〜疲れた〜、食欲無いけど食べるもの食べないと…」
「そうね。」
ぶっちゃけ殆ど食欲はないが、この後晴香ちゃんとデートがあるので
少しでも食べとかないと持たないだろう。
しかし…弥生さんさっきから殆ど喋ってないような…。
そんなことを考えていたら、急に弥生の箸が止まり、樹を真っ直ぐに見た。
「樹…本当にデートに行くの?どうしても?」
弥生の顔は今にも泣きそうなのを何とか堪えているような、そんな顔をしていた。
しかし一度約束してしまった以上、行かないとなったらあの晴香のことだ。
なにするかわかったものじゃない。
「ええ。ちょっと行ってきます。大丈夫ですよ。別に何もしませんし、遠くにも行きません。
ちょっと遊んだら帰ってきます。」
樹はかなり楽観的に考えているようだ。だが、火の付いた晴香はそれでは終わらないだろう。
もしかしたら蟻地獄のように物陰に引きずりこんで、青姦ぐらいはやりかねないだろう。
(なんとかしないと…)

 

「それじゃあ行ってきます。」
「おチビちゃん、おとなしくお留守番しててね〜」
迎えに来た晴香は樹と腕を組んで、引っ張っていくように行った。
(なによ!樹にべったりとくっ付いて!少し離れなさい!樹も!何鼻の下伸ばしてんのよ!)
1人残った弥生はお店の裏にある松の木の前に立った。
晴香に対する怒りが爆発し、力いっぱい松を蹴った。
「はあはあ…なによっ」
弥生の目の前の木に突然、晴香が立っていた。
(あらあら、なにをそんなにイラついているの?)
「あんたが存在しているからよ!」
(私の存在は樹さんあっての私だからねー)
弥生はイライラが抑えられなくなってきた。自分でもなにを言っているのか分からなくなってきた。
「それはアンタの理屈じゃない!アンタの存在なんて消えちゃえばいいのよ!」
(ふぅ…なにをそんなにイライラしてるの?)
「別に!」
(…こんなに好きなのに樹さんは振り向いてくれない、気づいてくれない、
求められても応えることができないけど、元に戻ったら同棲する理由が無くなるから
家を出て行かなければいけない…八方塞りね)
「あんたになにがわかるのよ!」
(まあ色々…ね。そもそも樹さんにちゃんと気持ちを伝えた?
伝えてなくてあーだこーだ言ってんだったらそりゃ無茶よ。)
「……………」
(万が一断られたら、とか考えて臆病になるのもわかるけど、はっきり言ったほうがいいわよ。)
「勝手なことを言わないで!」
(それに大体あなた、そのちっちゃい体で樹さんを喜ばせることができる?キスできる?
エッチできる?仮に出来たとしても樹さん、喜ぶかしら?)
「今は出来なくでも元に戻れば大丈夫よ!」
晴香は挑発的な笑みを浮かべて顔を近づけてきた。
(だったら少しだけ元に戻してあげる。)
「え?」
(ちょっとの間だけ元に戻してあげるわ。それでどこまで出来るか…うふふ)
それだけ言って晴香は消えた。気が付くと弥生はただ呆然と、松の木の前で立っていた。
「白昼夢だなんて…薬の影響?」
それにしても幻を見てから、どうも体の調子がおかしい。
「心臓の動悸がはげしいわ…また副作用?」
しかし痛みは無いし、晴香から目を離したら大変だ。
「とにかく後をつけるか。変なマネはさせないわよ!」
樹が向かった方へ向かおうと歩き始めたその時、心臓が熱くなった。
まるでオーバーヒートでもしているような感じがして、倒れこんだ。
「がはっ…な、なに?」
吐血し、全体的に膨れたような感覚を覚えて、ふと腕を見ると血管という血管が浮き出て
激しく波打っていた!
「夕子ちゃん!いたいた。…どうしたの?い、一体その体は…」
丁度オーナーが通りかかって、弥生の異常を発見した。
「お、オーナー、樹が向こうに、ハアハア…いるから、呼んでき」
そこまで言って弥生の意識は消えた。

「それでは次の挑戦者、10回転どうぞ〜!」
「それじゃ〜回すよ〜、い〜ち、に〜、…きゅう〜、じゅう!」
なぜかすごいギャラリーが集まって、大スイカ割り大会が始まってしまった。
ただスイカを割るだけじゃ面白くない、ということで賞品を付けたらギャラリーから
飛び込みで参加希望がでちゃったので、さながら一大イベントになってしまった。
ちなみに賞品は
「目隠し回転10回でスイカを割れたら割ったスイカをプレゼント」
「目隠し回転20回でスイカを割れたら賞金2千円」
「目隠し回転30回でスイカを割れたら賞金1万円」
「目隠し回転50回で素手でヤシの実を割れたら主催者からあつーいキッス!!」
「目隠し回転***回で**で刺客を斃せたら丸一日主催者がアナタにご・奉・仕♪」

えーと、ヤシの実も無茶ですが、最後の回転***回って…
「麻奈美ちゃん、麻奈美ちゃんちょっといい?」
「あ〜佐藤さん、なんですか〜?」
どうもこの子、苦手なんだよな。口調もそうだけどなんか…ほのかに敵意を感じるような
気がするんだよな。
「あの最後の「回転***回」の刺客ってだれ?」
麻奈美はう〜ん、と唸りながら口に指を当てて
「特別に佐藤さんには教えちゃいましょ〜。刺客は私のお抱え運転手のことですよ〜。」
「お抱え運転手?強いの?」
麻奈美はまたう〜ん、と唸りながら口に指を当てて
「たぶん、そこら辺の人よりは強いですよ〜。」
ということはあの最後の賞品は出す気ないってことか。
「それにしてもスイカだってタダじゃないのに、いいの?」
キョトンとした麻奈美だったが、ニッコリと微笑んで
「あ〜、大丈夫ですよ〜。参加料5百円ですから〜。」
金とってんのかよ!とはつっこめないが、ぼーっとしていそうなのにちゃっかりしてんな…。
暫く見学していたらいよいよ晴香ちゃんの出番だ。
ギャラリーからも拍手喝采を浴び、俄然盛り上がってきた。
「樹さーん、見てますかー!賞金ゲットしますよー。」
賞金ゲットってことは、30回転か…大丈夫かな?
「それでは回転スタート!い〜ち、に〜い、さ〜ん、」
あ、そんなに気合入れて回転しなくても…
「さ〜んじゅ。はい、ではスタート!!」
晴香はバットを握って、なにか考えているようだ。
「ふっ、少々回転したぐらいじゃ、私の三半規管は目を回したりしないわよ。そこだー!」
まるで見えているのか、晴香は一直線に走った。
晴香ちゃん、そこは―――
「ガンッ!!」

大きく右に走った先、そこは砂浜に埋められた木の棒だった。
「いつきさ〜ん、……きゅう」
あちゃー、モロ顔面激突だよ。あ、麻奈美ちゃんが優しく介抱しているようだ。よかった。
「樹くん、ちょっと」
袖を引っ張られた感覚と共に、誰かに呼ばれたので後ろを振り返ると
「あれ、おやじさん、どうしたんですか?」
「ちょっとこっちに来てくれ」
そう言って樹を人ごみから少し離れた所まで引っ張った。
「どうしたんですか?…真剣な顔して」
「…夕子ちゃんが倒れた。樹くんの名前を頻りに言ってるんだ。早くいってくれ。」
それを聞いた瞬間、樹は走った。
後ろから「店の二階だよー」と聞こえたので、真っ直ぐお店まで全力疾走した。
(まさか、昨日飲んだ薬の副作用が?)
もしそうだったら大丈夫だ。
(命の危険は無いけど、なにが起きるか…)
お店に着き、二階へ上がった。不思議と樹は冷静だった。ドアの前まで来て、息を整えノックした。
「弥生さん、樹です。開けますよ。」
返事は無いが、樹は静かにドアを開けた。
中に入って、樹は息を呑んだ。本当に今目の前で布団に寝かされているのは弥生さんなのか?
自分の目を疑った。
樹の目の前、それは体中の血管が浮き出て、波打っている弥生だった。
どうやら意識はあるのか弥生は樹の方を見て
「樹…見ないで…こんな姿見せたくない…」
弥生は余りの恥ずかしさからか顔を背けて泣いていた。
そんな姿を見て樹は静かに近づき、優しく手を握った。
「何いってんですか!どんな姿になっても弥生さんは弥生さんですよ!」
樹は力強く言った。
「それにごめんなさい、傍にいるって言ったのに肝心の時に居なくて心配かけて…」
それを聞いて弥生は首を振った。
「そんなことないわ。だってこうしてちゃんといるんだから。」

「弥生さん………」

「説明しますと、今起きてる症状は昨日飲んだ薬の副作用です。」
樹は弥生に丁寧かつ正確に説明した。
「一番最初に飲んだ、若返り薬の副作用は体験してもらった通り命の危険がありました。」
副作用の話は事前に聞いてはいたが、まさかあそこまでとは思っていなかったので
樹は自分の詰めの甘さを痛感した。
「それで若返り薬の副作用を緩和するために、教授が作ったのが、昨日飲んだ薬です。」
弥生は顔を真っ赤にしていた。たぶん口移しを思い出したんだろう。
「ただ、確かに若返り薬の副作用は緩和しましたが、今度は教授が作った薬の副作用があり、
それがいまの症状です。」
「薬の副作用を直すために薬を飲んで、直ったと思ったらまた副作用…堂々巡りね。」
弥生は心底疲れたような声で言った。樹も苦笑いするしかなかった。
「でも、今の副作用はちょっと心拍数は上がりますが、命の危険は無いはずです。
それに収まれば二度と発症はしませんので、そんなに心配することはないですよ。ただ………」
「ん?ただ何?」
弥生は不思議そうな顔をして樹の方を見た。
「い、いえ何でもないです。思い違いだったらがっかりさせちゃうし…」
(もしかしたら体に劇的な変化が…)

夜の帳が下り、浜辺も先ほどまでの喧騒など忘れて静かになった。
周りに人気はこの店にいる二人だけのようだ。
ちょっと前にオーナーが来て様子を見に来たが、別に痛みや気分の悪さなどは無いということを
聞いたので安心して帰っていった。
樹はというと、先ほどから電話をしていた。どうやら晴香にスイカ割りを途中で帰ったのがばれて
泣かれているようだ。樹はさっきから謝っているようだが、私からしてみれば
デートをほっぽって来てくれたことが嬉しいし、晴香にはいい気味だった。
電話が終わったら樹は疲れたような顔をしていた。
「はあー、まいったな。」
「どうしたの?」
樹はとても言いにくそうな、困った顔をして
「スイカ割りの件で晴香ちゃんが「なんで先に帰っちゃうの?これからだったのにー!」
って泣くわ喚くわで…結局明日の「ベストカップル大会」に出るってことで収まりましたけど…」
「へー、そんなイベントがあるんだ。私も出たいな」
「飛び入り参加も出来ますから、直ったら出場しますか。」

他愛無い話をしていて日付が変わったころ、ついに弥生の体に変化が現れた。
「樹、痛くはないが、何か体が引っ張られるような感覚が……」
「やっぱり始まりましたか!大丈夫です!落ち着いて下さい。」
弥生を見ると、少しづつ大きくなってきていた。
そう、弥生の体だけ時間が早く進んでいるようだ。
着ていた服が破れて、さらに大きくなっていったが、とまる気配はないようだ。
「い、樹、なんだこれは、まるでゴムみたいに縦に伸びる感覚だ。ア、ア、アーーーーー!」




「ふうー、やっと収まった。ん?なんで樹後ろを向いてるの?え?後ろの鏡を見ろ?
なんなのよ…、ん?、あれ、誰これ…え、ちょっと待って…これって私?…………
元に戻ってる―――――!!」

次回第五話「楽しいジカン」


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