教授と助手とロリコンの微笑み 第2部 第1話
[bottom]

ちゅん、ちゅん…
雀の囀りによって一日が始まろうとしていた。
「さ〜て、夏真っ盛りの今日のラッキーさんは…魚座のあなたー!」
(あ…やったぁ…)
テレビでやっていた占いを、佐藤樹は微睡みの中で聞いていた。
(あれ?なんでテレビ点いてるんだ?まあいいや…)
そう考えていたら台所から耳慣れない音が聞こえてきた。
トントントン…
(…………?)
「うん、こんなもんだろ…しかし樹の奴、冷蔵庫に食材が入ってないなんて…。」
うん?どっかで聞いた声だな…
パタパタパタ
足音が近付いてきた
「全くいつまで寝てるんだか、おい樹、もう起きろ。」
「うーん…。」
うっすらと目を開けると、カワイイ女の子がエプロンを付けて顔を覗いていた。
「……どちらさんで?」
あ、なんかこめかみに青筋が浮かんでるな。
「寝呆けてんじゃないわよ!」
そう言って女の子は樹の頭に怒りのチョップをくりだした。

「おはよう樹、目覚めたか?」
「はい、おはようございます弥生さん。(イタタタ…)」
そうだった、四日前の事件で弥生さんはちっちゃくなるわ、
売り飛ばされそうになるわで大変な目にあったんだった。
それで行くアテが無くなったんで家に住むことにしたんだっけな…。
それにしても…
「弥生さん…料理出来るんだ…」
今まで病院で検査だなんだで入院して、昨日帰ってきたから知らなかったけど、
テーブルに上がっている料理を見て、つい呟いてしまった。
もちろん弥生さんの耳は聞き逃さなかった。

「…意外か?」
や、弥生さん、その目はやめて!
「あ、いや、…まあイメージと違ったんで…。」
「全く…料理くらい出来るわよ。さあ冷めないうちに食べましょ。」

ちょっとおっかなびっくりしつつも食べてみる…
「うん!この味噌汁といい浅漬けといい絶品だ。」
「そ、そうか?樹にそう言われると照れるな。」そう言った弥生さんは顔を真っ赤にしていた。
「うん、うまい!こんなうまい朝飯食べたのは初めてですよ。」
「大袈裟だな。もしかして、あまり朝はたべないのか?」
そう聞いた弥生さんは少しだけ心配そうな顔をしていた。
「朝は晴香ちゃんが作りに来た時だけ食べますね。」
「晴香って…あの挙動不振者か?作れるのか?」
どうやら心底驚いているようだ。
「まあ…レンジでチンですけど…」
そう、晴香ちゃんは料理はまったく駄目なのだ。前に一度だけ手作りを食べたことがあったけど、
あれは…うぷ、考えただけで食べたのが逆流しそうだ。
そういえばここ一連の出来事は心配させたくなかったから連絡してなかったけど、
晴香ちゃんも提出作品の修理でずっと掛かりっきりなんだよな。
電話でも後でかけようかな?

プロ級の朝飯を食べおわって一息付いたところで、今後のことを話し合った。
「病院内でも話ましたけど、やはり教授次第ですから、今日辺り行ってみましょ。
講義も無いことですし…。」
「たしかに樹の言うとおりだな。こうなったらケツひっぱたいても作らせないと!」

実験棟3

「教授ー!居ますか!」ドアを激しく叩いても返事は無い。
「おかしいな…今の時間帯なら居るはずだけど…」
「どこかに出掛けたかな…うん?樹!ちょっと静かに!」
そう言った弥生さんはドアに耳をあてた。
俺も耳をあててみると中から音が聞こえる。
すると弥生さんがドアノブに手を掛けた。すると音も無く開いた。
「入るぞ」
「そうですね」
中は前の実験部屋より広くて設備もかなり充実しているようだ。
「音は隣の準備室から聞こえるな。行ってみるか」
「はい」
半分ドアが開いている所から音が出ているようだ。

ゆっくりと部屋に入ると、誰かが座ってカチカチとノートパソコンを操作していた。
かなり夢中になっているからか二人が近付いても気付く様子はないようだ
(あれ?この後ろ姿は…まさか…)
嫌な予感を感じつつノートパソコンを覗いてみると…
「さあ〜お兄さんと一緒に体操しよう〜!ハイ!ハイ!」
それは近くの保育園の運動の時間を物陰からビデオカメラで撮った映像だった。
「き、教授……。」
樹がどう話し掛ければいいか悩んでいたら、弥生の様子が変だ。
「あのー弥生…さん?」
「な……」
「な?」
「なに盜撮しとんじゃーーーー!!!」
そう叫びながらガラ空きの横腹に蹴りを入れた。
「ぐはっ!」
そのまま横にあった本棚に激突した。

「こんのロリコン教授が!!ついに盜撮までして!」
弥生さんの見事な蹴りが入ったロリコン教授こと、稲本炉利教授は横腹を押さえつつ
「ご、誤解だ弥生くん。これは次の論文を作るための貴重な資料なのであって、
決してやましい目で見ていたわけでは…」
「へぇ…そのわりには随分息が荒かったわね…興奮していたのかしら?」
そう言いながら弥生さんは指をポキポキ鳴らしながら近付いていく。やばい!マジだ!
「弥生さん!ストップ!落ち着いて!今教授を再起不能にしたら
元に戻れなくなるかも知れませんよ!」
さすがちっちゃくなっても弥生さんだ。本気の目を見ると冷や汗が止まらない。
「………くっ!」
なんとか思い止まった弥生さんだがノートパソコンを見て動きが止まった。
「教授、このYAYOIってファイルは何?」
「あ!?そ、それは!」
明らかな慌てぶりを怪しんだ弥生さんはそのファイルをダブルクリックした。
「だめだ!見るなー!!」
教授が飛び掛かって奪いとろうとしたが、弥生さんの突きが鳩尾に入り吹き飛ばされた。
「樹、開けてみてくれ」
あのファイルはたしか教授が弥生さんの盗聴や盗撮したファイルだと思うけど…
開けたら間違いなく弥生さんの逆鱗に触れるな…まあ自業自得か

「動画データと音声データですが、開けてみますか。」
適当に動画ファイルを開いてみた。
モニターには、なにやら薄暗い建物の中をビデオカメラで撮っている映像が映った。
「あれ?ここ入院した病院ですね。え?AM3時?」
映像はそのまま二階のとある病室まで来た。
「たしかここ弥生さんが入っている病室ですね。」
「な………な…まさか!」
映像は病室へ入り静かに弥生さんに近付いていき…
「……寝顔だ」
「いやああああああああああ!!!」
爆睡している弥生さんの寝顔がどアップで映っているが、映像
の弥生さん…涎。

「い、樹!見るな!見るなー!!」

すると突然パソコンがプツンと切れた。

「えっ!」
見ると弥生さんが……!
「あいたたた…まったく弥生くん、本気で殴るんだからな。まあそんな所もカワイイんじゃが。
ん?どうした弥生くん?そんな恐い顔して?え
?なんで手にメリケンサックつけているの?ち、ちょっと落ち着けって…ま、待って…ギャー!!!」



「弥生さん、全データ消去しました。」
「ありがとう…で、教授、元に戻す薬は出来たの?」

すっかり顔が変形した教授に向かって弥生さんは言った。
「うむ…それなんだがな。」
教授はため息をついて
「まだ暫らく時間が掛かりそうだな」
それを聞いた弥生は思い切り机を叩いた!
「冗談じゃないわよ!!じゃあ何時くらいで出来そうなのよ!!」
う〜ん、と教授が考えて
「そうだな、秋頃かな?」
ブチッ
ん?前に聞いたことのある音がしたような。
「わかったわ…そんなに待つくらいなら…今すぐ殺すわ!!」
「わっ!お、落ち着いて弥生さん!」
教授に殴り掛かったので、後ろから羽交い絞めにした。
(またこのパターンか…)
「樹!止めるな!今すぐ殺す!殺す!!殺してやるー!!!」
「と、とにかく詳しく聞きましょう!で、教授なんで秋頃なんですか?」
すると教授は意味深な顔をして
「うむ、実はな、薬を作るためにアメリカから偉い教授を呼んだのだ。
で、来れるのが秋頃というわけじゃ。」
そ、そんな…それまで弥生さんはこのまま?
「教授!もう少し具体的に聞かせて下さい、このままではいくらなんでも…」

「ああ…。」
そう言って教授は椅子に座り
「…元々この薬の理論はアメリカの研究論文を参考にして作ったもんでな…論文を作った教授なら、
なんとか元に戻す薬が出来るかもしれんと思ってな…それに下手に作るとどんな副作用がでるか…。」

「教授!それは余りにも無責任ですよ!弥生さんがこうなったせいで
どれだけ酷い目にあったか分かってるんですか!!」
部屋はシーンとなり皆が沈痛な面持ちをしていた時、弥生が沈黙を破った。
「…………たわよ。」
「え?」
「もうわかったわよ!!アメリカから教授が来たって必ず治る
保障は無い上に、下手に弄るくらいならもうこのままの方が良いわよ!!」
そう叫ぶと走って廊下に出て行った。
「弥生さん!待って!!」
樹も後を追おうと廊下に出ようとした時、急に肩を掴まれた。
「樹くん、ちょっと待ちたまえ!」
「教授!放して下さい!弥生さんを追わなきゃ!」
すると教授は真面目な顔をして
「追う前にちょっとだけ話を聞いてくれんか?…実はな………。」



ここは屋上。真っ赤に染まった夕日を弥生はぼんやりと見ていた
「だれもかれも私の外見しか見ない…ちょっと大きいだけで「男みたいな女」と
か「がさつでおおざっぱ」とか色々言われるし…。」
今弥生の目には、今日の夕日は歪んで見えた。
「かといって小さくなったらなったでこれだもんな…ふふっ、
急に涙脆くなったわね…グスッ。」

弥生が物思いに耽っている時、ドアが開いた。
「あ、やっと見つけた!良かったー探しましたよ。」

(そういえばこの男、樹だけは私を身を呈して守ってくれたっけな…)
ゆっくりと樹が近付き、すっ、と手を差し伸べてきた。
「さ、帰りましょ。」
弥生は手を取るかわりに樹のお腹に顔を埋めた。
「え?どうしたんですか?」
「ごめん…暫らくこのままでいて…グスッ。」
(樹…あなたさえいれば…私は…)
弥生はとても安心したのか、安らいだ顔になっていた。
「弥生さん…」
(やっぱり教授の話はショックだったんだな…なんとか
元気になってもらいたいけど…)
その時樹の頭に一つのアイディアが閃いた。
「そうだ!弥生さん、海に行きませんか?」
「え、海?」
すでに樹のお腹から顔を離した弥生に、樹は腰を落として目線を合わせた。
「あと一週間後に大学は夏休みに入りますが、俺、毎年海の家にバイトに行ってるんですよ。」
「あ、ああ…」
まだ事態が飲み込めない弥生はただ聞いていた。
「で、気分転換も兼ねて海でパーッとエンジョイして、
ちょっとの間だけ嫌なことを忘れてしまおうと…どうですか?」
「…………ぷっ、」
「?」
「あはははははははははっ……。」
「どうしたんですか?そんなにおかしいですか?」
弥生は笑いを止め、涙を拭いて
「ごめんごめん、あまりにも突拍子すぎたから…いいわ、行きましょ…海へ」

次回第二話「出会ったフタリ」


[top] [Back][list][Next: 教授と助手とロリコンの微笑み 第2部 第2話]

教授と助手とロリコンの微笑み 第2部 第1話 inserted by FC2 system