教授と助手とロリコンの微笑み 第1部 第4話
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これほど走ったのは生まれて初めてだろうか。足はガクガク、息は荒く、
わき腹は激痛などボロボロになりながらもなんとか大学にたどり着いた。
(確か教授のプライベートルームは…あの地下室か)
荒い息を整えつつ目的地の地下室へ向かった。



「待っておったよ、樹くん。」
ここは教授がプライベートで作ったり買ったりしたのを保管している部屋…まあ普通は物置と言うような。
「それで、一体弥生さんの身になにがあったのですか?」
「うむ、ちょっとまってくれ。」
そういうと教授はそばにあったノートパソコンを操作しはじめた。
「…よし、こんなもんだろう。樹くん、まずはこれを聞いてくれ。」
そういうと教授は「YAYOI.mp3」というファイルを開いた。
しばらくノイズしか聞こえなかったけどだんだんと何か喋っているのが聞こえてきた。

(…で、このガキどうするんだ?…ああ、なんだもう買い手が付いているのか…
しかしこのガキが俺達をぶっとばした女だってのか?同一人物には……おーそんなに貰えるのか!
4人で割っても……少ししたらお迎えが来るからそこで引き渡して終わりだ…)

ここで音声は終わっている。
「この先はノイズが酷くて全く音声が拾えなかったんだが…
どうやら実行犯は4人、それと運転手がいるな。わし一人では多勢に無勢だしまだ道具も揃っていない…
で、急だったが樹くんを呼んだ、というわけだ。」
それを聞いて1つ疑問が浮かんだ。
「一ついいですか?警察は呼んだんですか?」
それを聞いた教授は悔しそうな顔をして
「警察は…来ない。」
一瞬教授の言ったことが全く理解できなかった。
「樹くん、数時間前の実験棟の爆発でも警察が来なかったのだよ。事件性が無いという理由でね。」
そんな…………。じゃあどうすれば…だったら!
「教授!グズグズしていられません!警察がダメなら俺たちで今すぐ助けにいきましょう!!」
そういって部屋を出ようとしたら教授に肩を掴まれた。
「まてまて、落ち着けっつうの…警察の方はわしがなんとかする。それよりも」
教授は樹の目を見て
「助けにいくというがどうやって助ける?場所は知っているのか?」
うっ…。で、でもだからといってここでジッとしていては…
「まったく…少し冷静に落ち着いて考えろ。ではヒントをやろう。先月君は弥生くんに
誕生日のプレゼントをあげたといっていたが、それはなにかな?」
こんな時になに言ってんだ?そんなことより早く…と焦る心の中になにかひっかかるものがあった。
(たしか…弥生さん方向音痴っていうんで…しかも携帯の機種変をするっていうから…)
そこでピンと来た

あ――――――!そうだ、GPS携帯!」
「そう、樹くんが弥生くんに買ってあげたGPS携帯があれば、現在地はすぐ分かる。」
そういうと教授はまたノートパソコンを操作して
「ふむ…弥生くんは今ここだな」
そう言って教授が画面を向けてきた。すると、ある場所に点滅する点があった。
「ここは…女子寮?」
「うむ、間違いないな。今ここに弥生くんがいるだろう。」
よし、場所は分かった。あとはどうやって助けよう…。すると教授が
「ふふふ、私に1つ作戦があるのだよ。早速樹くんにも協力してもらうよ。作戦とはこうだ…」



(やっと見つけた…)
あれから女子寮に近づき、廊下で静かに聞き耳をたててみると、ある一室から話し声が聞こえて来た。
そ〜っと見ると犯人は4人で、なんかライフル銃やボウガンなどが見える。
(あとは教授の合図を待つだけだけど…しかし教授、なんでこんな物もってんだ?)
手には教授から渡された暗視スコープが握られてて、真っ暗でも中の様子が手に取るように分かった。
(まあ今はそんなことより弥生さんを見つけないと…あ、いた!)
部屋の隅っこの方に、手を縛られて壁に寄りかかっているのが見えた。
まずは無事を確認して胸を撫で下ろした時、犯人の一人が立ち上がった。
「そういえばまだ聞いていなかったが、おまえがあの弥生だとしてあの時はよくもコケにしてくれたな!」
「そうだ。対弥生用にここまで武装したのに無駄になっちまったぜ!」
すると弥生さんは鼻でフンッと笑って
「ナイフをちらつかせて私に絡んでくるのが悪いんだろうが。弱いくせに。」
そう言われた男は肩をブルブルと震わせて
「言ってくれるじゃねえか、このガキが!!」
すると男は固く握られた拳を高く振り上げて、そのまま弥生さんの顔面を殴りつけた。
「ぐっ!」
思い切り吹き飛ばされた弥生さんへ、さらに男が
「俺を!弱いというが!今は!お前の方が弱いだろうがっ!!」
何度も何度も暴力を振るっている内に、さすがにやばいと感じたのか、他の仲間が間に入った。
「もう止めろ!これ以上やると売れなくなるぞ!」
3人がかりで止めて、なんとか男の興奮も収まってきた。しかし弥生さんは…
(弥生さん!…くそ!)
さっきから飛び出したい衝動をなんとか抑えてきたが、弥生さんに暴力を振るわれると
いよいよ我慢の限界にきていた。すると別の男の1人が
「おい、遊んでないでそろそろ時間だぞ!裏門に移動するぞ!」
そう言って犯人たちは移動しようとしていた。
(まずい!移動されたら作戦が…仕方ない、やるか?)
しかし教授からの連絡が無い内に決行しても…。そう迷っていたその時
ブルル、ブルル、ブルル
携帯のバイブが3回鳴った。(きたっ!)
バイブが3回鳴る…それは教授の準備が完了した合図だ!
そう思った刹那、教授から渡された物を部屋に放り込んだ。
すると次の瞬間部屋が閃光に包まれた!
「うわっ!」「な、何だ!」「目、目が見えねええ!!」「く、くそ…だれだ!!」

持ってきたサングラスを掛けて部屋へ突入し、弥生さんの所へ行った。
「弥生さん!助けにきました!」
「う…い、いつきか…」
「大丈夫ですか?掴まって下さい。」
あちこち傷だらけの弥生さんを背中におぶっていると閃光が収まってきた。
それを見計らってもう1つの物を置いて部屋を出た。
女子寮をでた頃、後ろの方から物凄い煙の中からくしゃみや咳の声が聞こえて来たのを確認して
目的地へ向かった。
(無事弥生くんを救出したらここに向かってくれ)
教授に指示された場所へ走っている時、弥生さんがそういえば…と言って
「さっき部屋に投げ入れた物、あれはもしかして…」
「はい、最初に投げたのは閃光弾で、部屋を出る時に置いてったのは催涙弾です。」
おぶっていては弥生さんの表情は判らないが、たぶん呆れているだろう。
かくいう俺もなんで、いち教授がこんな物騒な物もっているかわからないが、深く考えるのはよそう。
「ところでどこに向かってるんだ?」
「えーと、ここを曲がった突き当たりです。」
(この突き当りで待機してやつらを誘き寄せてくれ。一網打尽にする…って言ってたけど、
どういう方法でやるんだろ?)
そんなことを考えながら曲がろうとしたその時、左足に鋭い痛みが走った!
バランスを崩しながらも、なんとか転倒は避けられた。
どうやら向こうから「いたぞー!」と声とともにボウガンを撃って
いて、足にかすってしまったようだ。誘導しなければいけないので早歩きぐらいで来たが、
変に疑惑を持たれても困るので、怪我の1つでもした方が油断するだろう。
「樹!足から血が!!」
見るとズボンが破れた箇所が血で赤く染まっていた。
「大丈夫ですよこれくらい。それよりもこの奥まで行かないと…」
鋭い痛みを堪えてなんとか目的地の路地奥に着いた。そこは建物と建物の間の狭い路地だ。
さて、あとはタイミング。しくじったら終わりだ。路地の奥に着いたと同時に、
入り口に男たちが追いついた。
(弥生さんをこれ以上傷つけない、とは思うけど)
ゆっくりと近づいてくる中、一人の男がライフル銃を発射した。
「ぐはっ!!」
万が一のために防弾チョッキもどきを着てたおかげで怪我はないが、一時的に呼吸が苦しい。
「樹!大丈夫か!」
「げほっ、げほっ、な、なんとか…」
すると男の1人が
「ふざけた真似しやがって…無事に帰れると思うなよ!!」
男たちがジリジリと近づいてきた。(あとはお願いします、教授!)
その時建物の窓から教授の顔が出てきて、「よく頑張ったぞ、樹くん!」
と言って男たち目掛けてなにか投げつけた!
「弥生さん、俺の後ろに!」
「きゃ!」
男たちに背を向けるのと液体の直撃はほぼ同時だった。続けざま教授はなにか粉末を撒いた。



「これは…」「すごいな…」二人が感嘆している物、それは男たちが白い液体にくっ付いて
離れなくなっているのだ!
「どうやらギリギリ間に合ったようだな」
見ると教授が近づいてきた。
「はっはっはっ、どうだね?ついさっき完成した、この私特製のとりもちの威力は?」
教授が言うには最初に投げた液体に次投げた粉末が付着すると強力なとりもちになり、
剥がすには特殊な分解液がないと絶対離れないそうだ。
「さっきやっと警察も来て、首謀者や裏門にいた車などは御用になったし、すぐここにも来るだろう。
めでたしめでたしだな。」
「そうかな?」
「教授!」
見ると男が1人教授にナイフを突き立てていた。
「おぬし、こんなことしても無駄だぞ?すぐ自首すれば執行猶予ぐらいで…」
「うるせえ!ごちゃごちゃ喋るな!!」
よく見るとこの男、弥生さんを殴った男だ! ちょっと離れていたせいで直撃を免れたようだ。
「たしかに逮捕されるのも時間の問題だろう。だがな!この男の命が惜しければ…」
「殺したらいいじゃない。」
振り向くと威圧するような目をした弥生さんが立っていた。今逆らったら殺される!近づくな!
と直感が言っている!

「アンタには随分痛めつけられたから恨んでいるけど、それ以上に樹にこんな危険なマネをする
原因を作ったその男が許せないのよ!!」

はじめて弥生さんが本気で怒った所を見た。まさしく目で人を殺せそうだ。
すると弥生さんがゆっくりと二人近づいていく。
「もちろんあんたがその男を殺したら、次は「わたし」が「あなた」を殺すわ。
さあ!早く殺しなさい!!」
冷静に考えれば10歳児の体で大の男性を殺すのはちょっと難しいと思うのだが、
あの目と恫喝の前では蛇に睨まれた蛙状態だよな。

「な、なんなんだお前は!く、来るな!この男を殺すぞ!本気だぞ!
…来るんじゃねえ!お、俺を見るな…う、うわあああああああ!!!」


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