しゅらばとる その3
[bottom]

ドタドタと慌しく押し合い圧し合いでリビングへと入ってきた姉二人が神速の領域で俺の隣へと腰を下ろす。
右手に椿姉、左手に楓姉。
この構図を見れば、大抵の男は血涙を流して呪詛を吐き出す。
「辰真、今日のお味噌汁は辰真の好きなナメコのお味噌汁だよ」
「たっちゃん、今日のお弁当にはたっちゃんの大好きなおかずをたくさん入れたからね」
互いに自分の料理をアピールしながら、おかずを箸で極自然に俺の口元へと運ぶ。
「むっ」
「むむっ」
俺を挟んで睨みあう姉達。視線がぶつかって火花が散っている。
それを無視して黙々と食事を続ける俺。触らぬ神に祟りなし。不動 辰真、ヘタレです。

「たっちゃん、今日のお夕飯何が良いかしら。お姉ちゃん気合入れて作るわ。それこそ、
今目の前の料理以上に」
「辰真、明日のお弁当はリクエストあるかい?今日のお弁当よりも美味しいのを作ってあげよう」
所々の単語を強調しながら問い掛けてくる姉二人。
気持ちは嬉しいが、お二人の額に浮かぶ青筋が怖いです。
「あ〜、それだけど…俺今日泊まりだから」

ピシッ

……なんだろう、今の何かが瞬間冷凍されたような音は。
「た、辰真…泊まりって、どういうことだい…?」
椿姉、体の動きがギシギシ言ってるって。
「そ、そうよ、ど、何処に、誰と泊まる気なの、お姉ちゃん許しませんよっ?」
焦っているのか、愛用の薙刀を取り出す楓姉。いや、普通に危ないから。
「友達の家。今晩家族が居ないから遊びに来いと命令系で」
「「その友達は男、それとも女っ!?」」
ほぼ同時の言葉。物理的な圧迫感すら感じる。これが言霊というものだろうか?
「お、男だって」
そう、残念ながら男である。
名前は牧原 貴葉。今の学校に入学した時からの友人。
あまりの仲の良さに、漫画同好会によってホモ説まで流された。
ぐっすん、俺はノーマルだってば…。
「そ、そうか…男ならまぁ許してあげよう…」
「そ、そうね…許してあげるわ…はぁ…」
物凄く残念かつ嫌々ながら許してもらえました。
姉二人の事は好きだが、どうにも過保護でいただけない。
前にクラスの女子に遊びに誘われたら物理的に阻止された。
主に刀と薙刀使われて。
一応納得はしてもらえたが、二人のテンションはどん底。漂うオーラもどんよりブラック。
はて、何故に落ち込んでいるのだろうか…?

「泊まり…泊まりか…一日とはいえ、おやすみもおはようも、キスもハグもできないなんて…あぁ、
私はこの地獄に耐えられるだろうか…」
「せっかく、せっかく私が夕食の当番の日なのに…料理を食べてもらえないばかりか、おやすみのキスも
おはようのハグもできないなんて…地獄だわ…」

なにやら二人はブツブツ言いながら、朝食をノロノロと食べる。
そろそろ学校へ行かねばならない時間だが間に合うのだろうか…?


[top] [Back][list][Next: しゅらばとる その4]

しゅらばとる その3 inserted by FC2 system