姉妹日記 第16話B
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 二人で歩く並木道・・・・朝の清々しい空気を胸いっぱいに吸った
 少し前を歩く、彼の背中・・・・大きくて頼りがいのあるその背中
 彼・・・・涼さんには本当に感謝している
 自分を変えるきっかけをくれた
 人を愛する嬉しさをくれた
 思いは通じるのだと教えてくれた
「秋乃さん・・・・」
 振り返り、彼は私を見つめ微笑んだ
 その瞳に私の姿が映るだけで心が沸き心臓が跳ねた
 二人の間にあったわずかな距離を感じ私は駆け寄り肩を並べた
 肩が少し触れるたびに心臓が飛び跳ねた・・・・
 うぅ・・・・心臓に悪いよ
 涼さんは気取ることも無くいつもどおりに振舞っている
 なんか、私だけがドキドキしてるのかな?
 平然としている涼さんの横顔を見つめる
 頬が熱くなり顔を前方に戻して息を整える
 うぅ・・・・緊張する
 最初のデートのときはもう無我夢中でよく覚えていない
 逆に二回目の方が緊張するよ・・・・静まれ心臓・・・・
 うるさい鼓動は止まらずに私は急かした
「どれにする?」
「あ、え・・・・はい!!!」
 妙に気構えて私が答えると涼さんはくすくすと笑んで目の前の自販機を指差した
 う・・・・うぅ・・・・恥ずかしい・・・・・
 私は震える指でボタンを押すといつもの音と共に自販機から飲み物が出てきて、
 彼はそれを取ってくれた
「・・・・・」
 ラベルを見て涼さんは顔をしかめて、私を見た・・・・
「これ・・・好きなの?」
 私はろくに確認もせずにカクカクと機械のように頷くと涼さんの手から飲み物を受け取った
 涼さんがジュースを買うのを待って私たちはベンチに腰掛けた
「・・・・んむ」
 一気に飲み干した、それは物凄く不味かった・・・・ラベルを見ると不味くて話題の飲み物だった
 涼さんは興味半分でそれを買ったのだと思ったのか、様子をジッと見ていて
 私が不本意でそれを選んだのだと真っ先に気づき、自分の飲み物と私のを変えてくれた

 不味いことで有名なその飲み物を口にする涼さん
 あれ?これって間接キスじゃ・・・・
「あ・・・・ああ!!!」
 また変な声を出してしまった私に彼が不思議そうな顔して見つめた
「あ、いえ・・・・・なんでもないであります」
 赤くなる私を見、くすくすと声をあげ「不味い・・・・」
 と、言ってにっこりと笑んだ
 どうして、そんなに平然としていられるのかな?
 私なんてもうドキドキが止まらないし、緊張して失敗ばかりだし
 うぅ・・・・ごめんね、不出来な彼女で・・・・
 いつの間にか涙目になっていた私の瞳の下を涼さんの手が拭った
 そして、ゆっくりと手が繋がれた
「冷たくないですか?私の手・・・・」
 涼さんは何も答えずに微笑んで少し指の力を強めた
 その指の一本一本かた涼さんの温もりが私の中に流れ込んでくるようだった
 暖かい・・・・無意識に私が二人の手を頬に当てると涼さんは私の髪を撫でてくれた・・・・
 愛おしかった、この時間が・・・・
 離したくなかった、このぬくもりを・・・・
 どうしよう、涼さんが愛おしくてしょうがなくなってきた・・・・
「好きです、涼さん・・・・」
「僕もだよ・・・・秋乃さん」

「う・・・・ん」
 いつの間にか私は寝てしまったようだった
 昔のまだ、なにも無く穏やかだった時の時間のことを・・・・夢に見ていた・・・・
 私は頬を伝う涙を拭うと少しでも涼さんの近くに居たくて病室の前までやって来た
 深夜の病室、看護士さんに気づかれないようにしながら扉を開く
 そこには苦悶の表情を浮かべ、弱々しく息をする彼が居た
 こみ上げる涙が溢れ出し、私は右手を口元に当てた
「ダメよ・・・・お兄ちゃんに近づいたら」
 幽霊のような声がして振り返ると同時に私はその場に崩れた
 霞む視界の中で冬香さんの不敵な笑みが見えた
 お腹から流れる血を感じ私はうつろな瞳で血に染まった手を差し伸べ彼を見つめた
 涼さ・・・・・ん・・・・・・


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