姉妹日記 最終話(仮)
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 人ごみと騒がしい声の波の中で私はそっと標的に近づいた
 そして電車が来るのを確認し私は静かに気づかれないように小さな背中を押した
 瞬間の絶望感に満ちた顔が私に向けられた
 軽い罪悪感とこれでお兄ちゃんが戻ってくるという嬉しさが交差した
 電車に轢かれ肢体がバラバラになるとき私はある違和感を覚えた
 でも、もう気にする必要もない・・・・
 私はむせたふりをしてその場を足早に去った
 その後ケータイを取り出しお姉ちゃんに電話する
「もしもし、やったよ・・・・・」
 
 ふふ、あははは・・・・・やっと
 とうとうあの女を地獄に叩き落とすことが出来た
 嬉しさを隠そうともせずに私は笑み声を上げた
 そしてドアを開き涼ちゃんの所へ・・・・
 え・・・・どうして?
 階段を登るあの女、秋乃を見て私は呆然とした・・・・
 近づいてくるだけを感じ私はとっさに身を隠した
 しばらくして見たのは仲睦まじく階段を降りる二人の姿だった・・・・
 どうして?あの女は冬香が・・・・
 まさか・・・・・・

「ただいま・・・・お姉ちゃん」
 私が帰るとお姉ちゃんは暗い部屋で一人ぽつんと膝を抱えていた
「どうしたの?明かりも付けないで」
 電気をつけてお姉ちゃんの顔を覗き込む
「あんた、間違えたでしょ・・・・」
「え・・・・?」
 お姉ちゃんらしくない声に私は驚いた
 すぐに両手が私の肩を掴み押し倒した
「あんたが殺したのはあの女の妹だって言ってるんだよ!」
 そ、そんな・・・・
「前々から思ってたけど・・・・あんたってほんとバカ・・・・信じらんない!」
 罵声が飛び私をなじり肩を思い切り掴まれる
 そのまま何度も床に叩きつけられた
「痛い・・・・痛いよ・・・・お姉ちゃん」
「もう、だめじゃない!あの女殺せないじゃない!涼ちゃん私の物になんないじゃない!」
 そのままナイフを取り出した・・・・そして・・・・
「やめて!」
 迫ってくるナイフをすんでのところでかわして私はお姉ちゃんを押し返した
 華奢な身体が倒れ視線が私を射抜く
「もうダメよ・・・・だから、あんた殺して・・・・涼ちゃん拉致して・・・・・」
 その目は狂気に狂い定まらない視点がさらに恐怖を感じさせた
「死ね・・・・もう誰も涼ちゃんに近づけさせない」

 今日は秋乃さんと春乃さんと一緒に買い物に出かける予定だった
 いつまで経ってもこない春乃さんを迎えに行った秋乃さん
 一人で帰って着た秋乃さんに春乃さんは?と問うと行き違いになってしまったと言った
 こちらに来てないかと聞かれ僕が首をよこに振ると
『じゃあ、先に行こう・・・・待ち合わせ場所は・・・・メールで打って・・・・と』
 その後、つかの間の二人だけの時間を満喫するつもりだったけどいつまで経っても春乃さんは来ない
 突然春乃さんのケータイが鳴って彼女が出た
 すぐに彼女は慌てて駆け出して僕に何度か謝ると僕を置いてどこかへ行ってしまった
 何度か電話を掛けてみたけど返事はなかった・・・・
 しょうがないので僕はマンションまで戻ってきた・・・・
 ドアを開こうとした瞬間かすかな泣き声が隣の部屋から聞こえてきた・・・・
 ダメだと思いつつも僕は心配になり隣の部屋に入った
 すぐに真っ赤な鮮血が目に止まり僕は血の源を探した・・・・
「夏姉ちゃん!」
 駆け寄り血まみれの身体を抱きかかえるがもう息はなかった・・・・
「う・・・・うぅ」
 僕はようやく泣き声のことを思い出し声のする窓のほうに近づいた・・・・
「冬香・・・・・」
 僕の顔を見るや否や冬香は怯え身体を震わせた
「殺すつもりじゃなかったの・・・・もつれた拍子に・・・・」
「冬香・・・・おいで、一緒に・・・・」
「来ないで!」
 今にも飛び降りてしまいそうな冬香・・・・・
 僕は駆け寄ろうとしてやめて必死で冬香に呼びかけた
「大丈夫・・・・大丈夫・・・・だから」
「私・・・・ダメだよ・・・・お兄ちゃん・・・・お姉ちゃん殺しちゃったのに・・・・
 ぜんぜん悲しくないんだもの!!」
「冬香!」
「最後までお兄ちゃんのことしか考えられないのだもの・・・・だから、こうやって・・・・
 お兄ちゃんの心に刻むの・・・・私を・・・・一生」
 身を乗り出し冬香は飛び降りた
「冬香―――――!!!!!」
 冬香の小さな身体が地面に激突しぐちゃぐちゃになった
 冬香の最後の顔は笑みだった・・・・
 こうして、僕は大事な二人の姉妹を失った・・・・

 

 10年後・・・・
 僕は秋乃さんと結婚した
 あのとき秋乃さんもまた不慮の事故で妹の春乃さんを失っていた
 僕たちはお互いを慰めあい支えあってここまでやってきた
 愛し合った結果子供ができて僕たちは結婚した
 ようやくあの出来事も過去になり始めている
「パパ〜、一緒に遊ぼうよ♪」
「あ〜、愛も〜♪」
 この二人は僕と秋乃さんの愛の結晶・・・・
 双子の姉妹で名前は静と愛
 なぜか二人とも秋乃さん似ではなく僕に似ている
「いいよ、なにがいいの?」
「じゃあね、オママゴト!」
 静と愛は女の子らしくおママ事が好きらしい
 いつもどっちが奥さんになるかで喧嘩するので今は二人とも奥さん役をやることになっている
 いつものように僕がビニールシートに腰掛けた
 そして、いつもの穏やかな時間が・・・・
「はい、涼ちゃん・・・・ご飯ですよ〜」
 え・・・・・
 一瞬あの光景が頭をよぎった
 あのときのあの顔・・・・僕は忘れない
 静があの時の夏姉ちゃんの顔とだぶった
「お兄ちゃん、私のご飯の方が美味しいよ〜」
 お兄ちゃん・・・・?
 愛の顔が冬香と重なった
「今度は殺さないでね・・・・愛ちゃん」
「だめよ、お兄ちゃんは私のなんだから・・・・」
 このメビウスの輪は永遠に終わらないのかもしれない・・・・・
「今度こそよ・・・・涼ちゃん」
「私のものになるの・・・・・・お兄ちゃん」

 

 

 

 

 

 

THE END『メビウスの輪』


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