姉妹日記 第9話
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 僕はあの時、そう・・・・秋乃さんと付き合い始めたことを伝えた時のように二人と対峙して
 僕の決意を伝える
 二人は顔の上の部分に影を落として僕を見ている
 正直怖い、この二人と離れた僕なんて想像できない
 二人にとって同じことなんだろう
 でも、いい機会だ・・・・僕はもちろんだけど二人もそろそろ自立の時だ
「あの、僕・・・・準備があるから」
 正直かなり突然だったと思う、今日話してもう明日には引っ越す
 もう少し時間をと思ったけど秋乃さんがどうしても譲ってくれなかった
 彼女曰く先延ばしにしていたらまたずるずると行ってしまうかららしい
 二人を置いて僕は自分の部屋に戻ってとりあえず荷物と着替えとゲーム類をバックに詰めた
 家具等は備え付けなのでこれくらいの荷物でいいか・・・・
 僕は引越しの準備と二人にこの事を伝えるという緊張のせいで疲れた身体を横たえた
 
 気づいたときにはもう朝だった・・・・
 まだ六時か・・・・
 僕は二人に気づかれないようにそっと家を出ようと・・・・玄関に
「なにしてるの・・・・お兄ちゃん」
 僕はまるで泥棒のように慌てて声のした方へ振り返った
 そこには夏姉ちゃんと冬香が寝間着のままで立っていて僕を睨みつけていた
 額から滴る汗を拭って僕は二人をまっすぐに見つめた
 ここだ、ここで逃げたら僕はもう二度と二人から離れられない
 それは二人にとっても同じこと
 だから・・・・・
「僕・・・・行くね」
 最後じゃないけど僕は笑顔で別れよう・・・・
 僕は笑んだ後ドアノブを握った
 冬香が駆けて来てドアノブにかけた手を思い切り握る
「行かないで!」
 後ろから夏姉ちゃんが僕に抱きつきすがる
 冬香も無理やりに僕の手をドアノブから引き離すとそのまま腕に抱きつく
 僕は折れそうになる心を必死で鬼にして自由の利く左手でドアを開いた
「出て行かないでお兄ちゃん!」
 二人を引きずるようにして僕は一歩を踏み出した
「私たちを捨てないで!お願いよ!涼ちゃん!!!!」
 悲痛な叫びが近所中に響き僕の身体にすがりつき泣き喚く二人
「私も冬香も・・・・涼ちゃんがいないと生きていけないの!!!!」
 その瞬間彼女たちが僕に抱いている感情が家族へのそれではなく男女の愛情なのだと気づいた
 でなければこんな風にすがりつき泣き喚いたりしない
 そうだとわかった以上僕はさらに決心を強めた
「僕が好きなのは秋乃さんなんだ!」
「そんなこと言わないでよ!ずっと一緒に居てよお兄ちゃん!」
冬香が僕の腕を引き抜いてしまうのではないかというほど引っ張り膝を付き体重を思いきり掛けてくる
「僕と二人は兄妹なんだ・・・・」
 二人が望むような関係なんてありえないんだよ・・・・・
「無理だよ・・・・僕は秋乃さんを選んだんだ・・・・・僕が選んだのは秋乃さんなんだよ!」
 無理やりに二人を引き離した
 さすがの二人も男の僕の力を押さえこむことなど出来ずに僕はようやく二人から解放された
 そのまま振り返らずに駆け出す・・・・
「いや・・・・いやぁぁ!!!!!!」
「涼ちゃん!涼ちゃーーーん!!!!」
 悲しい断末魔のような声が聞こえた
 そうだ、今日から僕と二人は違う道を行くんだ・・・・・
 これでよかったんだよね・・・・・

「お姉さんたち大丈夫だった?」
 ダンボール箱を開きながら秋乃さんが僕にそう問う
 少し苦笑して見せると秋乃さんは少し申し訳なさそうな顔をした
 僕は彼女を安心させるために微笑んだあと作業を再開した

「ごめんね・・・・明日には全部準備できると思うから」
 男の僕と違って女の子の彼女にとって急な引越しで生活に必要なものを全部なんていうのは
 無理だったようだ
 今日は一旦実家に帰るので、彼女との同棲は明日から・・・・
「じゃあ、また明日ね・・・・ん」
 僕の頬にキスを贈って秋乃さんはこの部屋を後にした
 秋乃さんがいなくなって急に寂しくなってきた
「気晴らしにゲーセンでも行こうかな」
 実はここに来る途中新しいゲーセンを発見してうずうずしてたんだよな
 秋乃さんは『男の子ってみんなゲーム好きだよね・・・・』
 そう言いながらも僕のお気に入りのアクションゲームに熱中していた
 秋乃さんのことを考えて寂しい気持ちを少し和らげ僕は部屋を出た

「ふぅ〜」
 一仕事終えて僕は手に持ったコンビニの袋を床に置いて自分の腰を降ろした
 袋をあさって中からアイスクリームを出して口に運ぶ
 やっぱ、ゲームのあとはこれに限るよ
 小さな幸せを味わっているとケータイが鳴った
 メール?・・・・開いて見る・・・・・
〈お帰り、涼ちゃん・・・・〉
 え・・・・
 またケータイが鳴った・・・・
〈涼ちゃん私にもお帰り言ってよ〉
 それを読みきる前にまた鳴った
〈お兄ちゃん、帰って来て・・・・あんな女なんて忘れて〉
 僕はケータイを放って近くにあった座布団を頭にかぶった
 ケータイの着信音が鳴り響き何分かするとそれは止まった
 僕は恐る恐るケータイを取るとメールボックスを開いた

 

『冬香:お兄ちゃん・・・なんで返事くれないの?』
『夏美:今日の夕ご飯うまくできたのよ?はやく帰って来てね』
『冬香:お兄ちゃん、はやく返事ちょうだいよ・・・・!』
『夏美:どうしたの?もしかしてあの女に監禁されてるの?』
『冬香;お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!』
『夏美;はやく帰ってこないとお仕置きだよ涼ちゃん♪』
『冬香:今ゲームセンターを通りました』
『夏美:あの女いまいないんでしょ?今よ涼ちゃん逃げて!』
『冬香:今コンビニを通りました』
『夏美:待っててね、今すぐ助けに行ってあげるから』
『冬香:今自転車屋を通りました』
『夏美:待っててね、涼ちゃん・・・・・』

 最後のほうの文面に鳥肌が立った
 僕の家からこのマンションまでの道のりを思い出す
 ゲームセンター・・・・コンビニ・・・・自転車屋・・・・
 僕が朝通り先ほど通った道だ・・・・
 またケータイが鳴った

『冬香:今マンションに着きました』
『夏美:もうすぐよ、涼ちゃん』
『冬香:今階段を登っています』
『夏美:あと少し・・・・』
『冬香:今あなたの傍に参りました』

ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!
ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!
ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!ドンドン!
 ドアを叩く音がした・・・・・
「う、うわぁぁ!!!!」
 僕は頭を抑え込んで恐怖の叫びを上げた
 まさか、二人がここまでするなんて思っていなかった
「お兄ちゃん?いるんでしょ?はやく出て来てよ〜」
「涼ちゃん、お姉ちゃんよ?迎えに来たのよ?一緒に帰りましょ」
「電気はついてるようだからいるんでしょ?」
「もう、いたずらもほどほどにしないとお姉ちゃんほんとに怒るわよ?」


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