不安を胸に玄関のドアを開いた
秋乃さんが入院中彼女に無理言ってずっと病院に居た
だから家には一度も帰っていない
両親がいたらストッパーになってくれたのだろうけど
二人は8年前に他界していて今は三人だけ
きぃ・・・と音を立ててゆっくりと家の中をのぞいてみる
真っ暗だ・・・・中に入って居間に近づいていく
とんとん・・・とんとん・・・・料理の音?
規則正しい包丁の音に導かれて僕はゆっくりと廊下と居間を繋ぐドアを開いた
「あら、お帰り〜涼ちゃん」
一瞬自分の目を疑った
どういうこと?
その光景は僕がまだ秋乃さんと付き合うまえ・・・・あの穏やかな時間が流れていたときと・・・
同じだった
「お兄ちゃんどこ行ってたの?私お腹ぺこぺこだよ〜」
無邪気な笑みが僕を迎えてくれた
「こら、冬香ちゃん・・・・はしたない」
暖かな笑みが僕を迎えてくれた
「さ、お料理できたわよ・・・・涼ちゃんも早く座って」
料理のいい香りに釣られて僕は指定席に腰掛けた
その後はいつもと変わらず
間延び声で僕に甘える夏姉ちゃん・・・・
無邪気に僕にじゃれつく冬香
あの出来事が夢だったのではないかと思えるほど
なにも変わらない・・・・あの時のままだった
今日は待ちに待った涼さんとの初デート♪
し・あ・わ・せ・・・・あぁ
幸せに浸りつく前に私は涼さんにお二人の様子を聞いてみた
涼さんの答えは晴れやかな笑みと思いがけない一言だった
「え・・・・そうなの?」
私が小首をかしげると涼さんはうんうんとうなずいた
「僕もびっくりだよ・・・・でも、これで元通りだよ」
嬉しそうな涼さんに私も思わず笑んでしまった
よかった、二人は涼さんが以前話てくれた二人に戻ったのね・・・・
少し痛い思いをしてしまったけど、二人とは仲良くやっていきたい
それと謝らなくちゃ・・・・二人を病気だって決め付けちゃって
「今度、お家にお邪魔して・・・・良いかな」
「ほんと!あぁ、楽しみだな・・・・いつのする?」
最近元気がなかったけど・・・・ようやく涼さんは本来の明るさを取り戻してくれた
私の気持ちも軽くなって鼻歌なんてしながら私は涼さんの腕を取った
「う・・・・秋乃さん?」
「いいでしょ?私たち・・・・こ・い・び・と」
鼻先にちょんと指を乗せて私は笑んだ
「なんだからね♪」
恥ずかしそうに頬をかきながら涼さんは私の肩に手を回してくれた
少し人通りの多い商店街で私たちはつい最近まで羨ましいと思えてならなかった恋人たちのように
肩を寄せ合った
幸せ・・・・・
でも、楽しい時間はすぐに過ぎてしまった・・・・
デートの王道の映画そのあと昼ごはんをお洒落なお店で食べて・・・・
それで・・・・・もうおしまい、私の家に着いちゃった
「ここが秋乃さんの家か・・・・」
興味津々といった感じで涼さんが私と家を交互に見た
「じゃあ、もう夜も遅いし・・・・帰るね?」
しばらくして涼さんは私にそう言うと手を振って背中を向けた
「ま・・・・ま、ま、まま・・・・・・・待って!」
いかにも動揺していますよっていう声で私は彼を引きとめた
「よ・・・・よよよよ、よ・・・・・よか・・・・ったら家・・・・寄っていかない?」
涼さんは少し戸惑って見せてケータイを取り出した
「あ、夏姉ちゃん?僕・・・・今日遅くなるから・・・・うん、ご飯はいいよ」
なんどか涼さんはうなずくとケータイを切った
そして私の方を見て微笑んだ
「じゃあ、少しお邪魔させてもらおうかな・・・・」