冷たさの中に在るもの 第2回
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「も、もう駄目。一歩も走れねえ。」

目の前には、真ん中に噴水のある中々に大きな公園。
時計は4:23を指している。
さっき冬姉から電話があったのは15分位だったから、

「やばいな・・・」

急いで公園の中を見渡すと、・・・・・いた。
噴水から少し離れた木の下のベンチに、彼女は座っていた。
ショートヘアで、洗いざらしのジーンズに半袖のシャツという極めてラフな格好だったが、
逆に、そのシンプルな服装が彼女の美しさを引き立たせていた。
目鼻もキリッとしていて、男の俺から見てもかっこいいと思う。
今は、よく言えばクール、悪く言えば無愛想という感じの表情である。

「・・・・・・・・・・・・・・」

は、いけないいけない。観賞している場合ではなかった。早く向こうに行かなければ。
って冬姉、何故にあなたの足元には原型のない空き缶(多分コーヒー)が何本も転がっていルノデスカ?
もしかしなくても俺のせいですか?3分の遅刻で?そうですか。
・・・・・・・それじゃ、俺は死刑宣告されたくないので帰るとしますね。
そう思って俺が足早に帰路に着こうとしたとき、

「どこに行くつもりだ?康明」

ピシッと何かがひび割れる音。
BACKをいつの間にか取られていた。
ヤバイヤバイヤバイ。今後ろを振り返ったら・・・・。
ギチギチと首が鳴っている。
それでも後ろからの威圧には耐え切れず

「もう一度言うぞ。どこに行くつもりだ?」

再度問いかけられる。
(ええい、くそ、もうどうにでも成れ!)
振り返ったその瞬間、

「ゴッ」

世界が真っ暗に反転した。

「うわあああああああああああああああ!!」

ガバ!という擬音がまさしく合うかのように、上半身を布団から起こした俺は、
大音量で絶叫していた。
「はあはあ、なんちゅう夢だよ・・」
悪夢を見ていた。それもとびっきりの。
そう、冬姉に殺されかける夢なんて・・・・。

しばらく深く呼吸をして少しは落ちついた。周りを見渡す。うん、昔のままの俺の部屋だ。
次に時計に目を向けると、針は丁度AM7:30を示していた。
「ということは、さっきのはやはり夢なんだ。」
そう思って溜め息をつく。

「ちゅる、ちゅぱ、じゅぷっ」
「うぁっ・・・・・・・・・・て、はい?」

そんな水気を含む音が、布団の中から聞こえてきた。
なんだか猛烈に嫌な予感がする。
意識が覚醒するにつれ、その違和感はむず痒いような感覚に、 そしてほのかな快感へと変化していく。
その理由を理解した俺は、いきなり布団を振り払う。

「ちゅ、じゅる、っぷは。やあ、やっと起きたか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
思考停止。

「中々起きないのだから心配したぞ?まあ下の君は私に反応して
すぐに起きてくれたのだがな。」
ははは、という笑いが妙に部屋に響く。
ナニヲイッテイルンデスカコノヒトハ。
「どうした?私の顔に何かついているか?」
「えっと・・・・・、俺さ、公園で冬姉に会った後の記憶が何故か無いんだけど・・」
「ああ、そのことか。何、愛しい姉の目の前で逃亡を図った愚弟を殴って気絶させて、
仕方ないから家に連れて帰っただけだ。」
うわ〜冬姉の中では敵前逃亡=死ですか
「・・マジデスカ・・・」

それから少し話をした後、
「そんで、何で寝てる間俺のにフェラしてたわけ?」
「心外だな。愛しい弟と2年も離れていたんだぞ?
少しでも早くお前を味わいたいと思うのは当然だと思うがな。」
いえ、十分に当然ではありませんよ?冬姉。
「大体、2年前に私の処女を奪ったのはどこの誰だったかな?」
ニヤリ、という音が聞こえた。
「うう、それを言われると・・・・・」

そう。何を隠そうこの藤田康明、2年前に従姉弟の処女を奪っていたりする。
でもあれは冬姉が俺が留学するのを聞いてその晩に押しかけてきたからというか、
それで俺も冬姉を悲しませたくなかったからというか。
「・・・と、ともかくあれはちゃんと両者合意の上でとやったことなんだから、卑怯じゃないか」
「分かっているさ。そもそもなぜお前の部屋に来たのかわかっているのか?」
「え、よ、夜這い、じゃないの・・・かな?」
「まあそれが第一目的だが、もう一つはだな」
クイックイッと時計を指す。時刻はAM8:00.え〜っと8時といえば・・・。
「あ、成る程。8時ならそろそろ学校の支度をしないとやばいねっ・・ということは・・」
「ふむ。転校初日に遅刻は最悪だと思うな」
「どわ〜〜〜〜〜〜!ち、遅刻だ〜〜〜〜〜〜〜!」

彼はそう言うと急いで学校の支度をして家を出て行ってしまった。

その後姿を2階の彼の部屋の窓から見送る。そして彼の後姿が見えなくなると、
窓を閉め再びまだ彼の体温の残る布団に潜り込む。

「・・・せっかちなのは変わらないな・・・。まあ他のところは結構変わってしまっていたが」
そう言いながら、先ほどまでの口内の感触を思い出す。アレは、2年前とは比べ物にならなかった。
身長が私よりも大きくなっていたのにも驚いたが、やはり一番の驚きはアレの成長だろう。
なにせ自分を貫いたものだ。今は愛おしくさえ思える。
彼には聞きたいことが沢山あった。
向こうの学校の事。2年間の海外生活での事。
そして・・・・手紙に混じっていた一本の金髪の事。
今日の一件はその事も関わっていた。(まあ態度には出さなかったが

思い出したらなんだか無性に彼に会いたくなってきた。
今すぐにでも彼を問い詰めたい。しかし会うための口実がない。
ふと弁当と言う単語が浮かんだ。
今日は、私は大学が休みだ。
ならば、姉が弟に弁当を持っていくのは当然のことではないか。
そう思うと体が勝手に動いていた。

「よし。一仕事するとしようか」

今日はよい一日になりそうだ。


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