BLOOD 本編 第2章
[bottom]

 少女の赤い瞳は見るものを深く吸い込んでしまいそうなほど澄んでいた
 その瞳のさきにある物を少女は苦々しい思いを込めて見つめていた
 もう少し・・・・・もう少しだ・・・・少女は自分に言い聞かせて今にも噴出しそうな心を鎮めた
 鳥たちが舞い飛び歓喜の声がここまで聞こえてくる
 少女にはその声は耳障りでしかない
 唇を噛み締めて先にそぼえる大国とその中心の真っ白な城を見つめた
 鐘の音がここまで響いてくる
 口にひろがる血の味を感じながら少女は小さくつぶやいた
「行きます・・・・・」
 手に構える剣を振って血を払うと少女は今の外見には似つかわしくない澄みきった声でそう言った
 少女の顔はまるで作ったかのように整っている
 この世の美をすべて独り占めしたかのようなその外見の少女の容姿は今は赤く染まっている
 誰にものかもはや確認できないほどの返り血に染まった少女は唯一色が赤ではない青い髪を
 掻き分けて微笑した
「・・・・・ゼル」
 悲しい旋律があたりに響いた

 華が舞い空の鳥も踊る
 国中が祝賀ムードの中の中心の男女は前が見えないほどに作られた道を進む
「浮かない顔ですね?」
 赤い髪をなびかせて少女は銀髪の少年にそう問う
 少年は少し悲しげに微笑むと空を見上げた
 自分はなにがしたかったのだろうか・・・・
 ダークグリーンの瞳から涙が零れ落ちた
「泣いて・・・・いるのですか?」
 少女がまた問うと少年はまた悲しげに笑んだ
 悲しげな少年の頬に少女の指が触れる
 二人はなにを語るでもなく歓喜に沸き喜びを直接的に表現する民衆に手を振った
 美しい旋律があたりに響いた

 退屈だ・・・・それが率直な感想だった
 周りは盛り上がっているけど私にとってはいつものと変わらぬ光景にしか見えない
 闘技場に目線を落ちして私は何度目かのため息を付いた
 円状の舞台の上で細身の女性といかつい男が剣を交えている
「・・・・・・」
 こんなのいかに彼女が強いかを国や他国にアピールするための行事に過ぎない
 勝つのは彼女だ・・・・リルス・レリエル
 私を保護する護衛部隊の隊長
 エイリアはしなやかな動きで男の鈍足な攻撃を回避しその首筋に磨ぎ覚まされた切っ先を向けた
 男が恐怖で身を下げるとエイリアはなんのためらいもなく腹を殴りつけた
 全身が痙攣したかのように男がビクビクしだす
 リルスが男に背を向けると男はまるで地響きをたてるかのよな勢いでその場に大きな身体を横たえた
 わかりきっていた結末に私はまたため息をついた
「おお、さすが巨乳怪力魔人プレシア!」
 大きな歓声に私は退屈な時間を一瞬で忘れ去った
「うるさい!」
「げふ!」
 歓喜の集中する先は若い男女の姿があった
 一人はすごく顔立ちの整った少年
 そして綺麗な青い髪が印象的な人形のような綺麗な顔立ちの少女だ
 少女はなんのためらいもく円状の舞台の淵にいる少年にとび蹴りをかました
 その後ろには巨漢が泡を吹いて倒れていた
 この少女がリルスの決勝の相手?
 私は自嘲気味になりながらも少し楽しみが増えたような気がした

「・・・・・・」
「・・・・・・」
 いつになくリルスが本気なのだと感じた
 今まで彼女が本気を出したところなんて私は見たことがない
 それが今は息を切らし肩を激しく上下させている
「弱ってるぞ〜、短髪のお嬢さん〜、早くその暴力魔人のプレシアを退治してやれ〜」
 左目を青くした少年がおどおどしながら淵から声を掛ける
「・・・・誰のために私が戦ってると思ってるんですか!」
「・・・・はて?」
「ゼルが優勝商品のキーオブザトワイライトが欲しいって言うから私は・・・・」
「にやり・・・・」
 下品な声を上げて少年が笑んだ
 すると少女は顔を真っ赤にして
「ち、違いますから!あなたのためじゃないですから!」
 緊張感のかけらもない・・・・呆れてしまいます
 現にリルスも呆気にとられて相手が隙だらけにも関らす呆然としている
「いまじゃ!叩けーーーーー!!!!」
 少年が大声を上げると少女はハッと息を飲んで攻撃を仕掛けた
 逆に隙を取られたリルスの剣が天空に舞いしばらくして円状の舞台に突き刺さった

 私は苦々しい思いを押しとどめることなく下に降り円状の舞台の淵に来た
「ずるいではないですか!不意打ちなんて!」
「うるさい!うるさい!勝てばいいんだよーーーーだ!」
 子供ですか?あなたは・・・・・
 少年が大声を上げて舌を出した
「ゼルが勝ったわけじゃないのに・・・・かっこ悪い」
「俺はお前が俺の為に戦う姿が見たかったんだ・・・・」
 また少女が首まで真っ赤に染めて地面をふんずけた
「あなたのためじゃありません!」
「愛を感じたぞプレシア・・・・・お父さんはうれしいぞ」
「だから、私は惚れてもいないし愛してもいませんから!」
「素直じゃないな・・・・プレシア」
 また関係ない話を・・・・
「こんな試合無効です!」
 私は苛立ちを隠すことなく少年を睨んでそう言った
「そんな〜いけず〜、姉ちゃん・・・・まけてくれよ」
「ダメです!」
「ならどうしたら納得してくれるんだ?」
 納得?そうですね・・・・
「あなたがリルスに勝利できたのなら・・・・いいでしょう」
 少年は少し不安げな顔をした・・・・当然ですね
 正面から戦ってリルスに勝てる分けないものね・・・・
 どうやらバカじゃないみたい
「いいよ・・・・なんてったって俺つお〜いし」
 しかし軽いのりで舞台に上がると少年はプレシア・・・・そう呼ばれた少女の手の剣を取った
「ゼル・・・・・」
「心配してくれてるのかい?」
「そ、そ、そ・・・・そんなことないじゃないですか!なんで私があなたの心配なんて・・・・
 しなくちゃいけないんですか!」
「はいはい・・・・心配せずに見ていてくださいませ」
 少年がそう言うと今度は少女が淵に下がった
「いいですか・・・・リルス・・・・あなたに敗北は許されません」
「わかっておりますメシアさま・・・・」
 リルスは鋭い眼光で少年を睨みつけた

「下がってください・・・・メシアさま」
「ええ・・・・」
 私が淵に下がると同時にリルスが剣を下段に構えて少年に向けって行く
 少年はどこ吹く風という感じでやる気なさげに剣を構えた
 そして目を閉じた
 数秒の間のあとに開かれた瞳を確認すると同時に私は自分の目を疑った
 気づいたときにはリルスは倒れ少年の剣には鮮血が付いていた
 私はまた怒りを抑えることなく舞台に上がり少年の頬を叩いた
「条約を読まなかったのですか?殺してはならぬと・・・・」
「よく見てものを言え・・・・俺が誰を殺したって」
 驚くほど冷たい声に私は全身を射抜かれたかのように動けなくなった
 な、なに?この感覚は・・・・・
 重い動きで私が背後で倒れているリルスのほうへ目をやった
 え・・・・血どころか怪我すらしていない
「ご、ごめんなさい・・・・私、あなたの剣に血が付いていたから」
「血・・・・?」
 少年は驚きで目を見開いた
 なんかなにごとにも動じないって感じだけど
 驚いた顔になぜか私は興味を引かれた
 ただのギャップだろうけど・・・・
「・・・・?あなたの目・・・・・不思議ですね左右で違う」
「な・・・・・!」
 近くで見てその瞳に違和感を感じた
 右目の色が赤
 左目の色が青
「あんた・・・・見えるのか?色が・・・・・」
「ええ、それがなにか?」
 少年はなにを思ったのか私の前に突然ひざまずいた
「あなたを探しておりました・・・・・もう一人の姫君」
 少年はすっと立ち上がると私の頬に口付けた
「え・・・・・」
 こんなことされたのは初めてだった・・・・・
 頬から全身にかけて熱が伝わる
「あなたは・・・・・・いったい」
 にっこりと少年が笑むと同時になにかが少年の頭にぶつかった
 それでもまたにっこりと笑む・・・・またなにかが少年の頭にぶつかった
「さすがに剣はやめてくれよ・・・・・プレシア」
 少年が顔を私から横にずらすとそう言った
 私も続くとプレシアと言われた少女の後ろにはどこから持ち出したのか樽と剣が山のように
 積まれていた
「嫉妬深いな・・・・プレシアは」
「・・・・・っ!」
 心なしか投げられる樽の数が増えたような気がする
「誰が嫉妬なんて!してません!してませんから!誰があなたのことで嫉妬なんて!!」
「取り乱すプレシアも可愛いな〜・・・・・ぐへ!」
 止めとばかりにモロに顔面に樽を食らい少年は倒れた
 これが・・・・私と少年・・・・いえ、ゼルとの出逢いでした


[top] [Back][list][Next: BLOOD 本編 第3章]

BLOOD 本編 第2章 inserted by FC2 system