煌く空、想いの果て 第5話
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 これは悪夢だ。
 襲いかかってきた梓に体を押し倒されて、ベットに沈む俺。
 小柄な梓がこれだけの力を出せるはずがない。男である俺が本気でどかそうとしてもビクともしない。
 すでにぎっちしと固定された俺は抗う手段を持つことはできなかった。
「や、や、やめるんだ。梓っ、んっん」
 俺の言葉を騙されるように甘いキスが口を塞ぐ。口内に入り込んできた梓の舌は求めるように
 唾液が流し込まれる。
 その感覚は体中に電気が走り、男の本能に火が付きそうになる。
「だ、だめ。翔太君は未来永劫わたしのモノになるための誓いなんだから」
 そう言って、更に二度目のキスで口を塞ぐ。梓のキスが俺の理性を奪って行く。
 かつては好きだった女の子とするキスに興奮を覚えない男はいない。
 俺は自然に梓を求め始めていた。
「っんんん」
 唇と唇を離れた時が互い唾液が繋がって糸を引いていた。それを見て、梓は満足笑みを浮かべる。
 俺の体の上に体を預けている梓が頬を舐め始める。
「翔太君が私を避けている理由がわかったんだよ」
「うん?」
「あの屋上で私が他の男とキスしてた翔太君が誤解していたでしょ。本当に何もなかったのに、
 翔太君が先走って、私に彼氏がいると思ったのかな?」
 えっ?
「ううん。そんな人間はいないよ。私が好きなのはいつも一人だけ。私はずっと翔太君の事が好き。
 好きで好きでたまらない程に愛している。これが生涯偽らない私の正直の気持ちなんだよ」
 それじゃあ? 全て俺の誤解だったのか?
 勝手に思い込んで、俺は梓を避けていた。本当は何もなかったのに、俺が良ければやったこと全てが
 梓を傷つけていた。
「だから、あの泥棒猫に発情していることは許してあげるから、私だけを愛してよ」
 泥棒猫? ああっ!!
 咄嗟に猫乃の笑顔が脳裏に浮かんでいた。交際して短い間だが、梓に彼氏がいると思い込んでいた時に
 あいつの笑顔がどれだけ俺は癒してくれていたのか。
 今、本能に任せて梓とやってしまうと猫乃はどうなる?
 恋愛で傷心したあの悲痛を、俺の身勝手のせいで猫乃も味わうことになるのか?
  猫乃を傷つけるのか? 笑顔が似合っている彼女を。
 少なくても、梓と肉体関係を結ぶことは間違っている。
「私ね。ずっと、翔太君にこうやって甘えたかった。ずっと、寂しかったんだからね」
 俺の胸に頬摺りする梓の表情はどこか幸せそうに赤く染まっていた。
 梓の幸せも壊したくはなかったけれど、俺は……。
 今は……。
 猫乃の彼氏なんだ。
 だから、俺は猫乃の彼氏として相応しい行動を取る。それがけじめって奴だよ。

「もう、やめよう。梓」
「し、翔太君」
「今はお前とこういう関係になるのは間違ってる」
「間違いじゃないよっっ!! 私と翔太君は結ばれる運命なんだよ。だから、抱いてよ。
 私のことを見捨てないでっ!! ずっと傍にいさせてよっ!!」
 悲痛に篭もった叫びが俺自身の決心が揺らいでしまう。
 梓が俺を想う心がちゃんと届いている。例え、梓を壊れてしまっても、俺だけは拒まない。
 ちゃんと、受け入れてやる。
 だから、今だけは俺の我侭を許してくれ。
「頼むからどいてくれ……。お願いだ」
「い、嫌っ!! 私はあんな泥棒猫に負けないんだから。翔太君を私のモノにするんだ。
 ううん、私は翔太君のモノなんだよ。だから……」
 押さえ付けられた体が更に重くのしかかってくる。梓の一体どこにそんな力があるんだろうか、
 俺がどんなに抵抗しても無駄であった。
 
 その時、着信のメロディが流れた。
 俺のズボンのポケットから流れるメロディの設定は一通のメール。
 淀んでいた部屋の空気は一気に拭き飛んだ。
 無言で梓は俺のズボンのポケットから乱暴に携帯を取り出す。
 そして、手慣れた手付きでメールを確認すると梓の顔が怒りの形相へと変わってゆく。
「やっぱり、元凶はさっさと片付けないといけませんねっ!!」
 鬼の形相に変化した梓が俺に興味をなくしたのか、部屋を飛び出した。梓が激怒した原因だと
 思われるメールは、恋人である猫乃からであった。
 その内容は、ごくごく普通の内容であった。

 先輩。
 今、私は居残り課題で残ってます。
 その課題は今は恥ずかしくて見せられないんですけど
 完成したら真っ先に先輩に見せてあげますから。
 先輩を想って、わたしは描きます。
 タイトルはもう決まってるんですよ。

 「私の愛する人」

 PS

 今日、先輩の家に泊りに行っていいですか?
 私たちもそろそろ、エッチとかしてもいい頃だと思います。

 これを見て、梓は何で激怒をした?
 部屋から抜け出して、どこに向かった。
(やっぱり、元凶はさっさと片付けないといけませんねっ!!)
 あの狂気に犯された梓がするべき事は、まさか……。
 邪魔者になった猫乃を殺すってことか?
 最近のゲームでは、寝取られた主人公を奪うためにヒロインは奪った相手を虐殺して、
 愛を取り戻すゲームが社会的ブームを興した。
 そのブームはあらゆる分野において、最高潮の売り上げを見せた。
 時を同じく、現実世界でもおとなしい恋する少女がゲームと同じように鋸や剣や槍など言った
 武装をして、相手を虐殺する事件が多発している。
 ゲームの影響が現実世界に侵食されるかのようにこのヤンデレブームはこの国のあちこちに
 事件として起きるようになった。
 その加害者は語る。
 ある怪しい老婆が自分の背中を押してくれる商品を売ってくれると。
 その商品を手にとると、自分が抑圧していた心の闇の部分を引き出してくれる。
 その商品を使った女の子たちの悲痛の叫びで、女の子は種割れして覚醒する。
 老婆の存在は長年警察は追っているが、その存在は掴むことはできないと聞く。
 最後に老婆は商品の代金はタダでございますという噂だが、そんなもん嘘ぱっちらしい。
 老婆が望むモノ。
 それは、女の業。
 嫉妬・三角関係・修羅場。
 それらを演出をして、自ら楽しむ傾向があるらしい。
 老婆はその磨けば光る原石を探しては商品を売り付ける。そして、惨劇を心存分に楽しむ。

 もし、梓が老婆に商品を買ったことで狂ってしまったなら。
 惨劇は起きる。
 恋人の猫乃の切り裂かれた死体と共に明日のニュースを飾ることだろう。
 そんなこと、させるわけにはいかないっ!!
 猫乃を殺されるわけにも、梓は殺人者するわけにはいかない。
 急いで、梓の後を追わなければ。

 でも、居残りの課題が終わってないって事は学校か。
 一体、何の課題なんだよっ!!


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