Bloody Mary 2nd container 後日談1
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「別に聞いてなくていいよ、アシュリーは」
 ジュディスさんから貰った布巾で汚れたカウンターを拭きながら、わざと機嫌悪そうに睨んだ。

「ん〜?そんなこと言っていいのかなぁ〜?
あなたがご所望の、高額報酬の仕事持ってきたんだけど?」

「…ッ!?」

 うぐっ…。自分の意志に反して耳がぴくりと動いてしまった。

「ふっふっふっ。やっぱり相当困ってるみたいね、ウィル君」
 俺の反応を見て手応えアリと判断したのか、邪悪な笑みの形に唇を歪める。
 アシュリー・ガウェイン・ロットがいつにも増して悪巧みを考えている証拠だ。

 オークニーを治める領主であり、この辺り一帯の交易を管理する南方通商組合の会長でもある、
 ロット伯。
 彼女はそのロット伯の娘さんで、ロット四姉妹の長女だ。
 剛健質実なロット伯から、どうしてこんなおちゃらけた娘が生まれるのか甚だ疑問ではあるが、
 残念ながら正真正銘、実の娘である。
 いや、たくましいという点では確かにロット伯と共通するところか。
 だけどその持て余したパワフルさを、俺たちをからかうことだけに費やすのはいかがなものと思う。
 今回のように突然現れては団長や姫様を嗾けて騒動を起こし、それが半ばオークニーの
 名物になってしまっているのだ。
 ある日、旅行ガイドブックに俺たちのことが紹介されていたのを知ったときは死にたくなった。

 とにかく彼女の話に乗ると必ずエライ目に合う。だから普段は彼女が現れそうなところは
 意識的に避けていたのだが。
 この酒場は彼女がよく出没する場所のひとつだということを今の今まで失念していた。
 でも、まぁ捕まってしまったものは仕方ない。今は俺一人だし、もしかしたら大丈夫かもしれない。

 警戒心を最大限に高めつつ、尋ねる。

「なんだよ、高額報酬って」
 ああ。ノッてしまった。きっと無事では済まないと解っているのに、
 訊かずにはいられない自分が腹立たしい。

「ふっ。聞きたい?」
 もったいぶって腕を組むアシュリー。
 そのくせ、もぞもぞと肩を揺らして早く言いたそうだった。

「聞きたくないけど、聞きたい」

「何それ。………まぁいいわ。
 ウィル君は毎年この時期に、とある祭りが催されるのを知ってる?」

 えらく長そうな前フリだなぁ。
 突っ込みたかったが、敢えてその言葉は飲み込んだ。

「……祭り?」

「あら。今年もやるのね、アレ」
 俺が首を傾げる横で、ジュディスさんが空になったカップに再び珈琲を注ぎながら言った。
 ジュディスさんは『祭り』が何のことなのか知ってるみたいだが俺にはてんで話が見えてこない。
「俺は去年此処にはいなかったから知らないんですが……何ですか、祭りって」

「ん〜、簡単に言えばミスコンね」

「みすこん?」
 なんだろう。聞き慣れない言葉だな。

「そう!ミスコンよ!ミス・オークニー・コンテストッ!!」
 アシュリー嬢が突然発作でも起こしたように声高に叫ぶ。

「南方通商組合が主催する、この街で一番熱くて壮大な祭典ッ!
 オークニー含む周辺都市から女神と謳われる美女たちが一同に会し、誰が最も美しく可憐か、
 鎬を削る神聖且つ熾烈な儀式!!
 それがミスッ!!オォォォクニィィィィ………クォンテストォォォォッッッッ!!!」

 まるで決め技の如く絶叫しているアシュリーを余所に、何となく冷めた気持ちで珈琲を飲んだ。

「…で、それが高額報酬と何の関係があるんだ?まさか優勝賞金が、とか言わないよね?」

 

「違うわよ。言ったでしょ、南方通商組合主催って。私がそのコンテストの司会進行を
 努めることになってるの。同時に人員の派遣もね。審査員枠が足りなくて困ってたんだけど、
 ちょうどいい人材がいるのを思い出して此処に来たわけ。
 だからウィル君にはミス・オークニーを決める審査員の一人としてそのお祭りに
 参加して欲しいのよ。勿論報酬は弾むわ」

 拍子抜けした。
 審査員がどんなことをするのか良く解らないけど……アシュリーが持ち込んだ依頼にしては
 至極真っ当だ。
 隣町まで護衛、とかに比べれば内容も楽そうだし。
 だけどそれだけに不気味だ。彼女が只の善意で仕事を持ってきてくれるわけがない。
 以前彼女から受けた依頼で『下着ドロ退治』なんてのがあった。
 渋々よく盗まれると聞いた住所に実際行ってみたら、そこはオークニーでも指折りの
 高級娼婦館だった。
 それ以上の詳細は思い出したくもないが……あのときは本当に酷い目に合った。
 きっと今回も何か企てているのだろう。
 …これには何か裏がある。俺は直感でそう感じた。

「そんなんでいいの…?」

「えぇ、それだけよ。
 ………ただし。条件があるの」

 ――――――来た。
 やっぱりまだ何かあるのか。どうりで話が美味すぎると思った。
 これでもし本当に何もなかったらアシュリーが頭の病気にでもかかったんじゃないかと
 心配していたところだ。

「…条件って?」

「――――――――――――そうね、ここからは"みんな"にも話した方が都合が良さそうかな」
 顎に手を当てて一瞬思案した後、扉の方に目を向けながら一人呟く。

 ……嫌な、予感がする。
 ここで断ってしまった方がいいと、本能が全力で告げていた。

「あの、やっぱ俺さ……」
「皆さーん、もういいですよー!入ってきてくださいっ!」
 俺の声を遮るほどの大きな呼び掛けで、酒場の外に向かって話しかけ始めた。
 ……悪寒が止まらない。アシュリーは誰に向かって話してるんだ…?

 

 固唾を呑んで扉を注視していると。
 ギィ、とアシュリーが登場したときとは対照的に遠慮がちな扉の開き方で。

「あ、あはは…」
「きっ、奇遇じゃな」
「………」

 三人が揃いも揃って入ってきた。その三人が誰かは言うまでもあるまい。

「な、なんで……」
 同じ場所に、揃ってはならない面子が揃ってしまった。
 嫌な予感は次第に現実へと加速してゆく。

「わたしが呼んだの。ウィル君がジュディス女史にひん剥かれてるって言ったら
 皆すっとんで来てくれたわ」
 ……おもっきり嘘じゃん。みんなもいい加減アシュリーの虚言に惑わされるのはやめてほしい。
 まぁ確かにちょっと危なかったような気がしないでもないけどさ。

 少し呆れて三人を見つめていると、みんなと目が合った。
 直後、居心地が悪そうにそれぞれそっぽを向いたのは、俺が責めているとでも思ったのだろうか。

「い…いえ私はただお目当ての仕事はあったのかな、と思いまして…」
「わらわは散歩の道すがら此処に寄っただけじゃ」
「……なんとなくです」
 どれも嘘なのは明白だ。……というか約一名、言い訳にすらなってない人がいるが。
 まぁこの際みんなが此処に来たことは後回しだ。今はそれよりも。

「なんでみんなにも話した方がいいんだ?」

「鈍いわね。此処にいる三人にはミスコンに参加してもらいたいのよ」

「………は?」
 何か、今。アシュリーがとんでもない発言をしたような気がした。

「ちょっと待ってくれ。条件っていうのは……もしかしてソレ?」
「もしかしなくてもソレよ」
 当然ッ、とふんぞり返るアシュリーは置いといて。

 えーと。
 『三人』ってのは、団長と姫様と、シャロンちゃんのことだよな。
 で、彼女たちがその"みすこん"とやらに参加するわけだ。それが今回の仕事の条件。

 ……あれ?おかしい。酷い条件かと思ったのに。よく考えれば大したことじゃなかった。
 アシュリーの提案にも関わらず、無茶なところとか俺が酷い目に合う要素とか何ひとつ見つからない。
 これだけ役者を揃えといてアシュリーが何も仕掛けて来ないのは不自然だ。
 彼女が俺たちという格好の獲物を目の前にして何もしないわけがない。絶対。断じて。
 疑う余地もなく。
 あ、いや。別に俺が捻くれてるワケじゃなくて。
 この半年間、彼女が引き金を引いた騒動の数々を思い返せば、誰だって不審がるだろう。
 それくらい彼女は毎度のごとくちょっかいを出して来ているのだ。

 ――――――まだ。
 きっとまだ驚天動地の罠が隠されているに違いない。

「ひとつ訊きたいんだけど、"みすこん"って何するんだ?」
 訊かない方が良かった気もするが、これから起こる事象を鑑みるとそうも言ってられない。
 俺はさっきから思っていた疑問を口にした。

 この国ではどうやら"みすこん"という単語は認知されているらしいが、
 アリマテアでは――――――少なくとも俺は、それがいったい何なのか全く知らない。

 仕事を引き受ける前に"みすこん"の詳細を訊いておく必要があるだろう。

「今回のお祭りに限って言えば、煌びやかに着飾った格好で観客の前に出て一芸を披露するの。
 それを審査員…つまりウィル君ね。ウィル君がそれを審査して誰が一番かを決める。
 そして見事、ミス・オークニーの座を獲得した栄誉ある女性は南方通商組合の
 イメージキャラクターとして通商組合の利益向上に努めて貰うことになってるわ。
 というか、コンテストはイメージキャラクターを決めるためのオーディションとしての
 側面の方が大きいわね。あんだぁすたん?」
 アシュリーが饒舌にコンテストの内容を説明する。
 なるほど。アリマテアで年に一度行われていた剣舞大会に似てるな。
 あっちは出場するのは女性じゃなくて騎士だったが。

 聞いた限りではコンテストそのものには問題なさそうだ。

「ちょっと待ってください!人前に出て芸をするんですか!?」
 首を縦に振ろうか迷っていると、アシュリーの後ろに控えていた団長が突然異を唱えた。

「…何か問題でも?」
 俺ではなく団長が異見するのは予想外だったのか、機嫌が良さそうだった顔をしかめて振り返る。
「わッ、私、そんなの恥ずかしくて出来ません!人前で醜態を晒すなんて、そんな……」
 自分がコンテストに出てるシーンでも想像したらしく真っ赤になって言葉尻を萎ませた。
 以後はもじもじしながら小声で何やらブツブツ言っている。

 そういえばそうだった。
 この人、人望は偉く厚い割に人前に出ると無茶苦茶緊張するタイプなんだった。
 騎士団長就任の演説で壇上に上がる際、前のめりにぶっ倒れたっていうおバカなエピソードが
 あったのを今になって思い出した。
 あれは衝撃的だったなぁ……なんて俺はしみじみ思うわけですが。
 当の本人は何を言うべきだったか頭から抜け落ちるくらいパニックだったらしい。
 確かその後の演説も噛み噛みで、終いには半べそになる始末。
 それを眺めていた騎士たちは唖然とする者、エールを送る者、身悶えてその場に転がる者と
 様々だったが。
 とにかくその失敗がトラウマになったようで、以降の演説では一言二言喋ると
 すぐ引っ込んでしまうようになった。
 詰まるところ、団長は極度の上がり症なのだ。

 だけど、団長?
 オークニーの人たちにはもう充分なくらい醜態晒してますよ?俺たちは。

「…ふふっ。大丈夫よ。あなたたちにはそんな迷いが吹き飛ぶくらいの報酬を用意してるわ」
 渋る団長にじゅるり、と舌なめずりしながら近づくアシュリー。う〜む……邪悪だ。
 さらにこそこそと団長に耳打ちしている。
 あ、団長が黙った。報酬に釣られたか?なんて餌付けし易い人なんだ。
 もし彼女に尻尾があったなら、きっと千切れんばかりの勢いで左右に振っていることだろう。

「…詳しくは後でね」

 餌付けが終わったのか、団長の様子に満足して俺に振り返り。

「お三方より先にウィル君に了解を取り付けておきたいの。
 どう?引き受けてくれるかしら?
 もしもそっちの中から誰かがミス・オークニーに選ばれれば、この先暫くは
 食い扶持に困らなくなるわ。
 審査員の報酬も入るし至せり尽くせり。断る理由なんかないはずよ?」

「……そうだな」

 正直言って引き受けたくはない。彼女と関わるとロクな目に合わないのは骨身に染みてるからだ。
 かと言って。
 このままでは以後の生活に支障を来たすのは確実。それだけに目の前でチラついている報酬は
 喉から手が出るほど欲しい。
 皆の生活と俺の一時の災難。天秤にかけるまでもない。

「わかった。皆が構わないのならその仕事、引き受けよう」

「おっけぃ♪それでこそウィル君ね!」
 指を鳴らして小躍りするアシュリーの様子を見て、ちょっとだけ後悔した。

 

「……待て。わらわはまだそのコンテストに出場するとは言っておらぬぞ」
 今度は姫様が不服そうに腕を組み、異を唱えた。

「…出ないの?」
 アシュリーが不敵に微笑みながら姫様に尋ねた。

「そうは言っておらぬ。さっきの口ぶりではウィルへの報酬だけでなくわらわたちの分を
 別に用意しておるのじゃろう?
 その内容如何では引き受けても構わぬ、ということじゃ」
 ふっ、とこちらも邪悪な笑み。

 ……わぁ。二人とも悪徳官僚みたい。

「私も先に報酬の詳細を聞いておきたいです」
 耳打ちされたときは詳しく聞かされてなかったのか団長も姫様の意見に同調した。

「……いいわ。ウィル君の了解も得られたことだし、あなたたちへの報酬が何なのか発表しましょう」

 期待に満ちた団長と姫様の表情を眺めて満足そうに頷く。

「こちらで用意した報酬は残念ながら一人分。つまりこの中で一人しかその恩恵に与れません。
 ですから、報酬を与えるのはコンテストで審査員から一番ウケの良かった人に贈呈しようと思います。
 けど報酬を一人に限定させてもらった分、内容は満足できると思うわ」

 そこで言葉を溜めるように息を吸い込み。

「そして……ウィル君の心をガッチリ掴んだ人への報酬はッ!
 豪華帆船を一日貸し切り、大好きなあの人と船上で二人きりのディナー!!
 勿論、南方通商組合が全面バックアップ!」

 大げさな発表におお〜っ、と歓声が上がった。
 心なしかシャロンちゃんの目も輝いていた。

「食事時、船は沖に出るから他の二人に邪魔されることは絶対ナシッ!
 二人だけの甘いひとときを思う存分堪能してください!!」
 調子に乗って益々饒舌になるアシュリーを、三人が食い入るように見ている。

 ……まずい。
 マズイマズイマズイマズイ。
 これだ。これだったんだ、アシュリーの悪巧みは。
 コンテストという隠れ蓑を使って、三人が俺を巡って血肉の争いをするのが真の狙いだ。
 こんな見返りを用意されたらどんな理由があろうと団長たちは断らない。
 相手を蹴落としてでも優勝しようとするだろう。
 しかも今度はお祭り。傍観者の数も今までの比ではないはずだ。
 もし、そんな大衆の前で騒ぎを起こせば……今度は周辺都市まで俺たちの悪行が
 囁かれることになりかねない。
 やはり。この依頼を引き受けたのは早計だった。なんとかアシュリーの暴言を止めないと。
 このままでは祭りがメチャメチャになる。

「ちょっと、待――――――」
 だが、俺の制止の声を振り切り、アシュリーが決定的な一言を告げた。

 

「しかもッ!!
 沖に出たまま船の上で一夜を明かしてもらいます!そしてご用意した部屋には
 豪華絢爛なダブルベッド!!
 つまり――――――誰にも邪魔されずあんなことやこんなこともし放題!!やったネ!!」

 

 ピシリと。

 

 瞬時に、酒場が。……否、世界が凍りついた。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…………………

(な、なんだよ………これは。まるで奇妙な冒険をしたくなるような、
 この空気はいったい何なんだよッ!?)

 さっきまで、どちらかと言えば和気藹々としていた雰囲気が一転、今は異様なほど殺気立っている。
 朝のさわやかな空気が淀み始め、酒場がいきなり暗くなったような錯覚を覚えた。
 無論、その原因は団長たちにある。

「……ッ!……ッ!……ッ!」
 団長が落ち着きなく視線を彷徨わせ、姫様とシャロンちゃんから距離を置く。
 その瞳は今にも二人に斬りかからんばかりの獣染みた眼だ。

「フーッ!フーッ!フーッ!フーッ!!」
 姫様はもっと酷い。
 こっちは眼どころか呼吸まで猛獣さながらに、団長とシャロンちゃんの二人を睨みつけていた。
 ところでその構えはジュディスさんに習った格闘術の型ですか…?
 明らかに相手を殺すための構えなんですけど。

 ……恐い。無茶苦茶恐い。
 戦姫の様相に立ち返っている団長が恐い。
 唯一身体能力が常人だった姫様が拳法を習って、どれだけ強くなっているのか解らないのが恐い。
 アシュリーが悪の親玉よろしく、「ふはははははは」と高笑いしているのが恐い。

 だ、誰か……助けて。みんなを止めて。
 救いを求めてきょろきょろと周りに視線をやると、空気が変わる前とさほど変化していない
 シャロンちゃんが目に入った。

 

「………」
 狂気に満ち溢れているメンバーの中で唯一人、シャロンちゃんだけは冷静だった。
 …良かった。俺は、まだ独りじゃない。独りじゃないなら、俺はまだ戦えるんだ。
 良かった……良かったよぅ。

「シャロンちゃん……」
 すがるような瞳で彼女に近づく。そしたら。

 

「コーホー……コーホー……」

 

 …………あんたもかい。

 あの、シャロンちゃん?
 ポーカーフェイスで冷静さを装ってるつもりなんだろうけど、おもっきり暗黒面が出てるよ?

「それじゃ、ウィル君。
 お祭りは次の祝祭日だから。審査員の詳細やその他もろもろは追って連絡するわ」
 ふふ〜んと鼻息を唄いながら意気揚々と酒場から退場するアシュリー。

「え?あっ、ちょ……」
 無情にも俺に背を向けて出て行こうとする彼女の背中に手を伸ばす。

 この状況を放置したまま帰るつもりかよ!どうしてくれるんだよ、これ!
 祭りの日までみんながギクシャクしたままになっちゃうだろ!?

 だけど怒りよりも絶望の方が勝っていたのか。どうしてだか声が出ない。
 結局、俺に出来たのは思いを何ひとつ罵声にして飛ばせないまま、
 アシュリーが出て行くのを見送るだけだった。

 

「あ………あぁ……」
 絶望。恐怖。人間不信。
 あらゆる負の感情が鬩ぎ合い、俺はその場に座り込んだ。

 終わった。俺には止められない。どんなコンテストになるか全く想像できない。
 ただ、解るのはきっと只事では済まないだろうと確信にも似た予感だけだった。

「……ッ!……ッ!……ッ!」
「フーッ!フーッ!フーッ!」
「コーホー……コーホー……」

 相変わらず三人は凶暴化したまま、眼でお互いを牽制し合っている。
 予感は的中しそうだ。

「あらあら。今度のお祭りは楽しくなりそうね」
 無言のいがみ合いを続ける三人を眺め、のほほんとグラスを拭くジュディスさん。
 嗚呼、俺にも彼女のような何事にも動じない強心臓が欲しい。

「頑張ってね、ウィルちゃん」

 ジュディスさんの間延びした声を聞きながら、今度の祭りはきっと血祭だな、とふと思った。


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