Bloody Mary 2nd container 第21話B
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 これでも俺はアリマテア王国騎士団の元『王の盾』だ。
 並の相手では太刀打ちできないくらいの腕は持っていると自負しているし、
 ある程度の危機も切り拓けるだろう。自惚れ…ではないはずだ。

 だが。

 まさに今の状況は絶望的としか言いようがない。
 もはや手も足も出ない、文字通りの意味で俺はそこまで追い詰められていた。

「くっ…!」

 万事休す―――――か。
 近づいてくる脅威に奥歯を噛み締めた。
 残念ながら、今の俺にこの戦況を打開するだけの力は持ち合わせていない。
 いくら歯を軋ませたところで事態が好転することはないのだ。

「ま、待ってくれ!考え直した方がいい!」

 浅ましくも。俺は命乞いをした。軽蔑するならしてくれてかまわない。
 だけどこれ以外に戦況を変える方法が思いつかなかったとだけ言い訳させてもらおう。

「「ふっふっふっふっふっふ……」」

 敵は二人。俺の命乞いをあざ笑うように唇を歪ませた。
 相も変わらず二人は徐々に俺との距離を詰めてくる。プライドを捨てた命乞いは
 一時の足止めにもなりえなかった。
 完全に手詰まり。
 膨れ上がる恐怖が、臨界点を突破した。

 

 

「も、もうやめましょっ!?ねっ!?後生ですから!」

 

 半べそでそう言った。
 乱れた着衣、ベッドに手足を縛り付けられた格好とが相まって情けないことこのうえない。

「男らしくないぞ、ウィリアム。いい加減諦めるが良い」
「そうですよ、ウィル。極東地域の諺に『据え膳喰わぬは男の恥』なんていうのがありますし」

 その諺は今のこの状態に当てはまるのか…?いやいや。そんなことはどうでもいい。

 団長と姫様が、とうとうベッドに膝を乗せた。
 早朝の自室、目が覚めたらこんな状況だった。俺、ただいま絶賛ミサオの危機。

 実を言うと二人に襲われるのは初めてじゃない。
 白状すれば、この半年間今みたいなことが多々あった。
 理由がどうだったにせよ、団長と姫様を抱いたことが原因らしい。
 アリマテアで姫様と。オークニーで団長と。二人を抱いた事実によって、
 それまで絶妙だったバランスが崩れた。
 始まりは『どっちが床の上で俺に強く愛されたか』と二人が言い争ったときだ。
 喧嘩を止めるつもりで間に入ったのに、気付けばなし崩し的に二人同時に抱いてしまった。
 うん、今は反省している。
 それからと言うもの。二人の喧嘩が白熱すると、どちらがより俺に好まれているか証明するため、
 性技で決着をつけるのが通例になってしまった。

 ……というわけで。
 今日も俺は二人に襲われるらしい。

「ややややっぱり、こーゆーのはいけないんだと思うデスよ?」
 恐怖が言語中枢まで侵し始めたようだ。吐いた台詞がおかしい。

「…とかなんとか言いながら。身体の方はやる気まんまんのようじゃな?」
 俺の逸物を指差しながらほくそ笑む姫様。
 つられて股間に目をやると…分身が起立していた。………俺の馬鹿。

「さて。前回はおぬしが先に口でしたから…今回はわらわから行かせてもらうぞ。
 異存ないな?マリィ」
「……っ。まぁいいでしょう。ですが本番は私が先ですからね!」

 こそこそと。なにやら二人が俺をどう料理するか算段している。
 こういうときだけ息がぴったりなのは勘弁してもらいたい。

 ……このスキになんとか抜け出せないだろうか。
 腕を思いっきり引いてみたが、痛いだけでびくともしなかった。
 縛っている縄に目をやると、腕がちょっと赤くなっていた。…二人とも酷いや。
 ベッドとの結び目の方はと言うと、これまたご丁寧にきつく縛り付けてある。
 なんて念の入りようだ。
 とても脱出できそうにない。……これまでか。

「何しておるのじゃ?」

「ひゃふっ!?」

 突然圧迫感を感じた。……えと、その…股間に。

「ひっ、姫様!?そそそんなトコ握らないでっ!」

「ほんと〜にか?こっちは『もっと触って』と脈打っておるが」
 しゅっしゅっ、布越しにしごき立てる。緩急をつけたその動きがこれまた
 とてつもなく気持ち――――――じゃなくて。

「くっ…」
 嗚呼。天国の母さん、キャス。ごめんなさい。俺、汚されちゃったよ……。

 股間から伝わってくる刺激が、除々に理性を削り取ってゆく。

 俺の身体がいつまでもつか解らない。……こうなれば最後の手段だ。"救援要請"しかない。
 この家のどこかにいるであろう助っ人の名前を叫ぼうと大きく息を吸い込んだ。…そして。

 

「シャロ――――――んんーっ!?」

 くちゅくちゅ、くちゅくちゅ。

 ……あら?
 決死の声を遮られ、口内が淫猥な音を響かせている。
 何かが俺の歯茎をなぞるように這い回っていた。
 眼前には団長の赤みの差した顔。

 ……団長に口内を犯されていた。

「……ぷはっ……オイタは駄目ですよ、ウィル」
 ディープキスをしていた団長が唇を放してそう言った。酷く官能的な顔が劣情を誘う。

「むっ…?ウィリアム!マリィの接吻ごときで硬くするな!」
 俺のモノの変化を、文字通り手に取るように解った姫様が非難の声を上げる。
 ……ごめんなさい、姫様。これも男の性というヤツです。

「あはっ。嬉しい!もっとしてあげますね♪」
 本当に嬉しそうな団長の笑顔がこれまた一段と可愛――――――って待て待て。
 流されるな!ウィリアム!

「ちょっと、だんちょ……んむっ」
 止める間もなく再び団長の舌が口腔をまさぐり始めた。
 いけないと解ってても恍惚とした気分になってくる。思考も大分狭まり始めていた。
「……わらわも負けてはおれぬな……」
 俺たちの様子に当てられたのか、とうとう姫様が俺の逸物を着衣から開放した。
 団長の顔で遮られてよくは見えなかったけど、分身が程よく温かい。おまけに。

「んっ…ちゅっ……んんっ……むぐ……ちゅぷっ――――――」

 姫様のくぐもった声と時折聞こえる水音。
 どうやら。本当に口淫を始めたらしい。
 否が応でも聞こえてくる二人の魅惑的な声。俺も、すっかり雰囲気に飲まれていた。

「んっ…ちゅぱ……気持ち、いぃですか…?」

「……わらわの方が良いに決まっておる。なっ?ウィリアム」

 ……えーと、あの…そんなの、決められません。…どっちもいいです。
 ぼーっとしたまま答える。

「むぅ。いつまでも優柔不断だとそのうち刺されるぞ」
「もう。はっきりしてください」
 二人は頬を膨らませながらも、気を取り直して愛撫を再開した。

 

 ただただ、快楽を貪る時間が過ぎていく。僅かに残った理性の片隅で
「結局、今回も流されてしまったな」と考えながら。だけどその理性も次の瞬間、
 木っ端微塵に吹き飛んだ。

「……っ!姫様、もう…イキそ……」

 団長と続けていた接吻を中断し、そう伝えた。

「んぐっ……んっ!んっ!んっ!んっ!んっ!んっ――――――」

 それを聞き入れた姫様が加速度的に首を上下させる。その口内では舌が
 俺自身を絡め取るように這い回っていた。

「ひっ、姫様ッ!イ、イクッ……!」

 間もなく解き放たれる欲望の塊を吐き出そうと下腹部に力を込め、そして。

「イッ――――――あ…?」
 吐き出せなかった。もう少しで絶頂に達せるはずが、直前になって姫様が唇を離したのだ。
 もどかしさに背筋を反らせながら、思わず呟く。

「な、なんで……」
 俺の苦しげな表情を見て二人がくすくす笑った。

「どうしたのじゃ?」
 熱に浮かされたような顔で微笑み。

「ほれ、どうしたのか言うてみぃ」
 自身の艶やかな黒髪を束ね、その毛先で俺の先端を擽る。

「う……」
 いくら腰を振っても快感が得られない。…イキたい。イキたくてイキたくてたまらない。
 言ってしまおうか、どうしようか迷っている俺の耳元で、団長が静かに囁いた。

「『イかせてください』って言えばきっと最後までしてくれますよ?」

 ねぇ?と団長の目配せを受けて、姫様が肯定するように一際強くモノを擦り上げた。
 ああ。イキたい。全部、吐いてしまおう。この思いも。下腹部で蠢く白い欲望も。

「……てくださぃ…」

「え?何ですか?ウィル。よく聞こえませんでした」
 俺の耳を甘噛みしながら囁く。もう我慢の限界だった。
 俺は、恥もプライドも金繰り捨てて懇願した。

「イッ…!イかせてくださいっっっっっ!!!」

「あはっ。よくできました♪」
 団長が楽しそうに笑い。
「ウィリアム!わらわたちに、射精すところ見せるがよいっ!ほらッ!ほらほらッ!!」
 姫様は爆発したように手の中にあるモノをしごき上げた。

「がっ……はっ…!」
 快楽の信号が脳全体に伝わり、世界が真っ白に染まる。快感を貪る以外の思考はとうに費えていた。

「イ゛ッ……グッ………ッッッ!?」
 痛みを伴うほど大量の塊が尿道を駆け上ってくる。

「「射精して!!」」
 二人の声を合図に。

「があああぁぁぁぁぁっっ!!」
 ばちばちと脳髄が弾け、俺は咆哮と共に欲望を放出した。
 噴き出した白い粘液が大きく弧を描く。

 そして。

 

 

「どうかされましか、ウィリ――――――」

 

 ぱたっ。ぱたたっ。

 

 いきなり扉を開けたシャロンちゃんの女中服に降りかかった。
 

 

「「「―――あ」」」

 

 

 三者三様の間抜けな声で、霧散するピンク色の空気。

 やがて訪れる嵐の前の沈黙の中。
 俺の部屋で四体の銅像が固まっている。
 そして沈黙を破ったのは。

「……何か弁明することは御座いますか?ウィリアム様」

 シャロンちゃんの抑揚のない声だった。

「あう…あうあう…あうあうあうあう………」
 ただ陸に上がった魚のように口をパクパクさせる。それが俺の弁明だった。

「――――では死刑です」
 無感動な瞳の中に、俺ははっきりと見た。世にも恐ろしい怒りの炎を。

 

「いやあああああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!!」

 

 

 さわやかなオークニーの朝の下、俺の絶叫が響き渡った。
 本日も晴天なり。オークニーは至って平和だ。………俺以外は。


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