ただ寂しい。
それを誤魔化すためにお兄ちゃんの部屋に入った。
扉を閉めるとすぐにベッドに飛び込んだ。
シーツに顔を埋める。
「おにいちゃんの…におい…」
右手には昨晩お兄ちゃんが使っていたスプーン。洗わずに取っておいたものだ。
そっとそれを口に咥える。
「あむ……」
お兄ちゃんの味。お兄ちゃんの匂い。お兄ちゃんの味。お兄ちゃんの匂い。お兄ちゃんの味。
お兄ちゃんの匂い。
お兄ちゃんの味。お兄ちゃんの匂い。お兄ちゃんの味。お兄ちゃんの匂い。お兄ちゃんの味。
お兄ちゃんの匂い。
「ん…はっ…」
興奮が急激に高まってくるのが解る。下半身が熱い。
熱に浮かされながら、空いた左手を熱る秘部に運んだ。
「は…ぅっ……ちゅぷ……ふっ……おひー…ひゃん……」
左手を忙しなく動かし、右手でスプーンを何度もねぶる。
お兄ちゃんはあたしだけのものだよね…? (俺はマローネだけのものだ)
お兄ちゃんはあたしだけが好きだよね…? (俺が好きなのはお前だけだ)
お兄ちゃんはあたしだけを抱きたいよね…?(お前だけが欲しい。マローネ)
お兄ちゃんは――――――――
頭の中のお兄ちゃんがあたしの望む答えを何度も言ってくれる。
気が付けば、背中が限界まで反りあがっていた。
「ひ、ひもひいいよ……おひーひゃん、もっと…」
あたしだけの。あたしだけの。あたしだけのお兄ちゃん。
お尻が何度も突き出るようにうねり始めた。限界が近い。スプーンを口から離した。
「いひっ……ダメ…お兄ちゃん……ぁ…いれ、て…」
スプーンを浅く、自分の秘所に押し込んだ。
「はうっっっっ!!!!!!??」
脳が強烈な快感の信号で埋め尽くされる。
あたしはだらだらと涎を垂らしながら潮を吹いていた。
「はっ……はっ……はっ……はっ…」
絶頂の波が引いてくると、さっきよりもっと寂しさが込み上げてきた。
自慰後の疲れからか抗い難い眠気に襲われる。
――――――淋しいよ、お兄ちゃん……
あたしはそう心の中で呟きながら眠りに落ちていった。
「正直に言うとわらわはまだ物足りぬのじゃが…」
「お、俺は疲れました…」
どういうわけか旅のときと立場が逆転してる。運動量は旅の方がずっと上なのに。不思議だ。
夕暮れ時、俺がギブアップの宣告をして宿に帰ることにした。
今はそれぞれ自分の部屋に入るところだ。
「ウィリアム、ちょっとこっちに来い」
俺に手招きする姫様。
「なんです?ひめ……んむっ!?」
油断した。彼女に近づくとキスされてしまった。
今日は本当に姫様のペースに嵌りっぱなしだ。
「今日は楽しかったぞ、ウィリアム」
そう言うと笑って逃げるように部屋に入ってしまった。
「……」
ぼぅっと姫様の部屋を数瞬見つめる。
可愛い、と思ってしまう俺はやはり掌で踊らされているのだろうか…?
ポリポリ頭を掻きながら自室の扉のノブを捻ると。
……施錠が外れてる。合鍵は団長たちにも渡しているし誰かが開けたのかな?
一応警戒しながら扉を開けた。
「って、マローネか……」
マローネの姿を確認して俺は安堵した。
何の用事で入ったのか解らないがベッドの上で小さな寝息を立てて眠っている。
彼女の隣に腰掛けて様子を見ようとすると。
「お………ちゃん……にお……」
マローネがボソボソ何か言いながらゆっくり目を開けた。
「あ……れ…?」
「目が覚めたか?マローネ」
寝ぼけ眼のマローネが俺の目を見つめる。
少しづつ目に光が戻ってきた。現状を理解し始めたようだ。
「うひゃっ!!?」
マローネが慌てて飛び上がり右手に持つものを後ろ手に隠した。
……スプーン…?
「お前、食い意地張ってるなぁ……何もスプーン持ち歩かなくても…」
「い、いいでしょ!別に!」
なに怒ってるんだよ。変なやつ。
「それより、此処にいるってことは俺に何か用があるんじゃないのか?」
「え?あ、いや…その、何処、行ってたの?」
少し目を泳がせたがすぐに俺に質問してきた。
「あぁ、ちょっと街までな」
答えると少し俯くマローネ。
「………マリベル、って子と…?」
声がさっきより少し低くなっていた。
「そうだけど……マローネ?」
様子が変だ。こっちに来てからというものマローネはちょっとおかしい。
「その子のこと、好きなの?」
話が突然飛躍した。本当にどうしたんだよ、マローネ。
「急に何言い出すんだよ、お前ちょっと変だぞ?」
「いいから答えてッ!!」
マローネの張り上げた声が部屋に響き渡る。さすがに俺も動揺した。
「わ、わかったよ。
好き…かどうかはわからないけど……うん。大切な人ではあるかな」
とりあえず正直に答えた。
「…そう」
それだけ言って黙り込むマローネ。表情は髪で隠れてよく見えなかった。
…何かマズイことを言ったんだろうか…?不安になった矢先。
マローネがふらりと立ち上がった。夢遊病みたいで少し怖い。
そのままゆらり、ゆらりと部屋を出て行こうとする。
「おい、マローネ。いったいどうし――――もごっ」
呼び止めようとするとスプーンを口に突っ込まれた。
「……てやる。……てやる。……てやる。……」
最後に聞き取れない声でぶつぶつ独り言を言いながら部屋から出て行った。
「あいつ、本当にどうしたんだ……?」
咥えたスプーンは何故か少ししょっぱかった。