Bloody Mary 2nd container 第3話
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 師匠の紹介で旅の宿屋――――――暫く滞在する冒険者向けに長期宿泊させてもらえる宿に
 俺たちは連れてこられた。
 ベイリン傭兵旅団の皆もここに泊まっているらしい。
 俺たちもそこで暫く過ごすことにした。
 それはいいんだけど。

「ねぇねぇお兄ちゃ〜ん」
 歩いている最中、やたら俺にくっついて離れないマローネ。
 歩きにくいったらしょうがない。おまけに背後から六つの白い目が俺を見つめている。
 胃に穴が開きそうだ。
「しばらくは一緒にいられるねっ」
 嬉しそうに俺の腕をぎゅっと絡める。こいつ、こんな甘えん坊だったか…?
 ……う〜む。しかしマローネのヤツ、半年会わないうちにまた一段と成長したな。
 特にむ……あっ!痛い痛い!!背中の視線が猛烈に痛い!!

「ウィル、本当に三部屋で良かったのか?」
 部屋に案内される途中で師匠に尋ねられた。
「えぇ。やはり妙齢の男女が同室というのは問題があると思いますし」
 色々危険だからな。主に俺が。
 と、そうこうしているうちに宛がわれた部屋に到着した。
「よし、部屋は手前からウィル、トレイクネルの嬢ちゃん、一番向こうの若干広めの部屋が姫さんと
 メイドさんの部屋だ。
 それからウィル、明日オレの部屋に来てくれ。話がある」
「わかりました。一階でしたよね?」
 話ってなんだろ?仕事を紹介してくれるんだろうか?
「じゃあお兄ちゃん、また後でね」
 やっとマローネが開放してくれた。
「ん、後でな」
 俺に手を振りながら師匠と共に階下へ降りていくマローネ。
 …よし、とりあえず荷物を整理するか。
「それじゃあ、みんな。荷物をせい……」
 三人を振り返ると。
「裏切り者」
「女たらし」
「私の方が巨乳」
 それぞれ俺に捨て台詞をぶつけて部屋に入って行った。
 ……とほほ。

 

 

 

 翌日の朝、部屋を訪ねると中で早速師匠が酒をあおっていた。朝っぱらから酒かよ。
「ウィル坊ちゃん、お久しぶりッス」
 部屋にはもう一人、傭兵旅団のメンバーのロブさんが師匠の酒に付き合っていた。
「ロブさんもお元気そうでなにより」
 挨拶すると彼は俺に珈琲を用意してくれた。
 二人の様子を見ながら椅子に腰掛ける。……何かちょっと変な空気だな。
「ウィル、お前こっちに来て仕事のアテはあるのか?」
「いえ。冒険者の斡旋所にでも行って依頼を受けようと思っているんですけど」
 やっぱり仕事の話か。その割にはやけに雰囲気が重いな……どうしたんだろう?
「ならちょっとオレたちの仕事を手伝わねぇか?」
 師匠が空になったコップにまたなみなみと酒を注ぐ。
「それは俺も願ったり叶ったりですが……いったいどうしたんですか?」
 そこでやっと俺は先程から感じていた違和感を口にした。
「……」
 師匠とロブさんが顔を見合わせる。
 二人が嘆息した後、ゆっくりロブさんの方が口を開いた。
「…それはアッシの方から説明させてもらいます。
 今回のお仕事、要は西の町への荷物運搬の護衛なんですが…ちとこれが厄介でして」
「厄介?」
 聞く限りではベイリン傭兵旅団なら朝飯前でこなせそうな依頼にしか思えない。
「えぇ。ここから西の町に行くには険しい山道を通らなきゃならねぇんですが
 どうも最近その道が物騒なんス」
「物騒って…山賊でも出るんですか?」
 まぁ山賊が出たところで旅団はおろか師匠一人すら相手に出来なさそうだけど。
「有体に言えばそうです。ですがこの山賊、どえらい手練れが首領やってるらしくて。
 ここ最近の犠牲者が右肩上がりなんすよ。荒くれ者を束ねてるってだけで相当なもんなのに
 山賊のくせにやたらめったら統率が取れてるとかって話で」
 ……凄いと言えば凄いけど何か眉唾っぽいなぁ。
「いくらなんでも嘘臭くありません?それ。
 犠牲者が増えて噂だけが一人歩きしてるように思うんですけど」
 俺の言葉を聞いて何故かロブさんは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「オレもそう思ってたんだがな……どうやらマジっぽいらしい」
 師匠がグッと酒を流し込む。
「オレの知り合いがよ、その山賊退治に行ったらしいんだが……
 返り討ちにあった」
「え?」
「その知り合い、言っとくが腕はオレが太鼓判押せるぜ。そういうのが五人揃って出かけて、
 帰ってきたのは一人。
 致命傷を負ってな。で、そいつも一部始終をロブに話してポックリ逝っちまった」
「…ってソレ、本当にヤバくないですか?」
 その返り討ちにされた五人がどれくらい強いかは解らないが、師匠が言ってるんだから
 相当なものなんだろう。なのに殺された。
 ……この仕事は危険だ。
「まぁな。かといって途中で受けた依頼を降りるわけにもいかねぇ。
 相手がどれくらいの人数でどれくらい強いのかもわからない。だが出来るだけ安全に事を運びたい。
 っつーわけで今は少しでも人の手を借りたいんだよ」
「俺でよければ構いませんが……あ、それなら団長にもお願いしておきましょうか?」
「そうだな。あの嬢ちゃんが居てくれりゃ百人力だ。頼めるか?」
「わかりました。伝えておきます」
「その仕事までまだ日はある。それまでこの街に慣れとくんだな。
 あ、そうだ。ロブ、聞いてくれよ」

 話題が変わって空気が軽やかになった。ってか軽すぎない?
「ウィルのヤツよー、三人も女連れてやがってよー…まったく最近の若いヤツは性が乱れてるよな?」
「ぶっ!」
 飲んでいた珈琲を吹いてしまった。
「いけませんね。坊ちゃん、重婚できる国はまだここから西っすよ?」
 あー…忘れてた。ここの傭兵の人たちはいつもこうなんだった。
 重い話をした後は必ず最後に何か冗談を言って場を和ませる。いいことなのかも知れないけど…
 いつも俺が槍玉にあげられるんだよなぁ。
「誰が本命なんだ?」
「勘弁してください…」
 いいから教えろよー、と追求してくる師匠。このオッサン、酒が今頃まわり始めたな。
 うーん、どうやってこの酔っ払いを掃除しよう。
 師匠に肘で突かれながら考えていると。

「お兄ちゃんっ!!」
 バンッと扉を勢いよく開け放ち、マローネが部屋に入ってきた。
 なんでちょっと慌ててるんだよ。
「お兄ちゃんはこの辺、詳しくないよね?あたしが案内したげる!
 だから、ほらほら!早く行こっ!?」
 俺の腕をしきりに引っ張る。楽しそう、というより必死に見えなくもないのは俺の気のせいか?
「わかった、わかったからそんな引っ張らないでくれ」
 俺の困惑の表情を見て我に返ったのか、「ごめん」と言って俺の手を放してくれた。
「それじゃあ師匠、ロブさん。俺はちょっと街を見てきます」
 二人に断ってから俺は席を立った。
「おー、行ってこい行ってこい。
 ―――――ただし、避妊はしろよ?孫の顔を見せてくれるっつーんなら別だが」

「娘の前で下ネタ吐くなっ!!」
 このオッサンは最後に余計な事を言わにゃ別れられんのか、まったく。


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