いつか見た夢 第1話
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「朝だよ、起きて?幸治くん」
 静かな動作でゆっくりと俺を揺する
「おはよう」
 無気力に答えると少女は穏やかに笑んだ
 この子は幼馴染の響子だ
 小さい頃から一緒だという理由なのかこいつの面倒見はすさまじい 
 洗濯・・・・しかも下着もだ
 なにかと不在がちな両親に変わって飯の面倒も見てくれている
 好意・・・・違うな、ひとつ上の年の俺に憧れの念を抱いている
 いまのこの状況がいつまで続くかわからないが・・・・
 終わらないのかもしれない・・・・前に一度同じ大学の女子とデートに出かけた時だ
 帰ってきた俺を出迎えたのは暗がりに一人座り俺の名を呼ぶ少女だった
 そして翌日・・・・また同じ大学の女子とデートしている時だった
 突然メールが来た・・・・〈コロナが大変なの・・・・助けて!〉
 コロナは昔俺が見つけた野良犬でその後響子の家族が引き取ってくれた
 悲痛な文章に俺は慌てて響子の家に向かうと・・・・
 泡を吹きその場に横たわるコロナとその傍らで泣きじゃくる響子だった
 急いで獣医に見せるとなんとか大丈夫・・・・だと言われた
 散歩中になにか食べてしまいそれが元でこうなってしまったのだろうと
 一安心する俺の横で同じように笑む響子に俺はなぜか恐怖を覚えた
 一週間・・・・また俺は同じ大学の女子と一緒にデートをしていた
 この間の埋め合わせにと・・・・さんざん付き合わされる予定だったが
 またメールが来た・・・・・〈また・・・・・コロナが・・・・・助けて〉
 俺はまた必死で響子の家に向かった
 そこのはまた同じ光景が・・・・
 おかしい、このとき俺はそう思った
 それから同じ大学の女子と出かける度にメールが来た
〈またコロナが・・・・・〉
〈幸治くん・・・・早く戻ってきて!〉
〈幸治くん・・・・・幸治くん・・・・私どうしていいかわからないよ〉
 それから俺はクラスの女子と出かけなくなった
 正確には出来なくなったが正しい
「はやくしないと遅刻だよ?」
 俺ははいつものように解釈すると立ち上がった
 ぶっちゃけた俺は朝には強い方だ
 すぐに起きれるし男だから準備も早い
 ではなぜそうしないのか・・・・・理由はもちろん響子だ
 大学に入ってからというもの響子の独占欲が強くなっていくような気がする
 去年の今頃だったか・・・・帰りが遅い俺をずっと待っていた響子は笑顔で俺を出迎えてくれた
 しかし、俺は見てしまった・・・・彼女が俺のケータイを隠れて見ている所を
 女じゃないとわかったのか一安心という感じで響子は笑んだ
 そして日記のようなものを取り出した
 一瞬見えたその日記の中身に俺は自分の目を疑った
 なかには写真が何枚かあってそれはすべて俺の写真だった
 それもページをめくるたびに違った服装の俺が・・・・
 毎日こんなことを・・・・・?
 俺は幼馴染に恐怖した
 朝勝手に出かけようものならどうなることか・・・・

「幸治さん・・・大事なお話があるのですが・・・・よろしいですか?」
 彼女は以前デートをした菜穂さんだ
 この大学のプリンセスで絶大な人気を誇っている
 難点なのが少し内気なところだ
 俺がうなずくのを確認すると彼女は俺の手を引いて人気のないところまでやって来た
「突然ですいませんけど・・・・・言います!」
 俺と彼女の間を風が吹きぬけた
「好きです・・・・・私と結婚を前提にお付き合いしていただけないでしょうか」
 時間が一気に止まる
 俺も・・・・彼女と同じ気持ちだ
 初めて人を愛した・・・・・
「ご、ごめんなさい・・・・私ったら・・・・・あの、初めてお逢いしたときやさしそう  
 人だなと思って・・・・それから自然とあなたを目で追うようになっていました、
 それから日に日に想いが募って・・・・・だから!」
 拒絶の言葉がでると思ったのか彼女の言葉は途切れない
「好きです・・・・・いえ、愛しています・・・・私は恋愛経験ゼロがから・・・・大人の駆け引き
 みたいなことは出来ませんが・・・・私はあなたにすべてを捧げる覚悟で す・・・・操も・・・・
 心も・・・・」
 言葉でよりも俺は行動で自分の気持ちを伝えることにした
 顔を真っ赤にして言葉を紡ぐ彼女をゆっくりと抱きしめる 
 耳まで赤く染まっている
「ありがとう、俺も同じ気持ちだよ・・・・・それと、ごめんね?キミにここまで言わせてしまって」
 内気な彼女がここまでしてくれるなんて
 それだけこわかっただろうか?
 思うだけで胸が締め付けられた
「本当にいいのですか?・・・・私・・・・子供っぽいし・・・・美人じゃないし」
 彼女は・・・・どうやら自分の魅力に気づいていないらしい
 プリンセス・・・・その言葉が似合う女性は彼女だけだ
 よく言う大学のアイドルやマドンナなどという次元ではない
 彼女の美は完成系・・・・
 俺の今まで出逢った女性は友達とギャーギャー騒いでいるだけのうるさい存在でしかなかった
 けど・・・・彼女は違う
 まさに大和撫子・・・・夫を立てるタイプだ
「そんなことない・・・・綺麗だよ・・・・菜穂」
 その言葉に安心したのか彼女は俺に身を預けた

「ただいま・・・・・」
 電気が付いているということは・・・・響子はいるのか?
「おかえり・・・・」
 穏やかな笑みが俺を出迎えてくれた
 響子は俺の持っているカバンを受け取るとニコっと笑んだ
 ・・・・彼女は知っているのか?
 同じ大学に通っているのでもう俺と彼女が・・・・・
「ご飯、もうすぐだから・・・・着替えて来て」
 階段を登りながら俺は安心の息をもらした
 どうやら彼女も俺への感情をただの憧れだけなのだと気づき始めたようだ
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ドアが開かれた瞬間俺は息を飲んだ・・・・
 赤・・・・赤・・・・・赤・・・・赤・・・・・赤
 周囲を包みこみかのような赤に血の匂い
 部屋の中心にはずたずたに裂かれた俺と菜穂の写真・・・・
 その横には近所の野良猫の頭だけと前足だけが置いてあった
「・・・・・・ぅ」
 強烈な恐怖とその色に俺はむせてしまった
「どうしたの?」
 響子がなにごともなかったかのようにニコニコしながら俺の背中をさする
「気分が治ったら、ご飯にしましょうね?」
 彼女の笑みに俺は恐怖と逃げられない・・・・という言葉が頭を覆い尽くした


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