とらとらシスター 第33回
[bottom]

 三日月や星の見守る部屋の中に、粘着質な水音が響く。
「今日、は、いつ、もより、激しい、ね」
 微笑んでこちらを眺める姉さんが妙にいやらしく見えて、僕は腰の動きを加速させた。
 更に激しく獰猛に、粘膜と粘膜、性器と性器とを擦り合わせる。初めて姉さんとセックスを
 してから毎日続けているせいか驚く程それは馴染み、とろけて絡み付いてくる姉さんの性器は、
 恐ろしいくらいの一体感を僕に与えてくる。このまま溶けて混ざりあい、一つになるような、
 そんな感触が僕の性器を包む。
「姉さん、中に、出すよ」
 答えの代わりに強く抱きついてきて、僕の腰に脚を絡めてくるのはいつものこと。
 それが出してほしいという意思表示なのは分かっているので、一際深いところまで打ち込んだ。
 直後。
 姉さんの膣が痙攣して強く締め付けてくるのと同時に、子宮口を強くこじるようにして
 突いていた僕の先端から精液が出た。いつもより若干長い気がする放出時間の後、
 僕は姉さんの膣内から引き抜きながら、胸の上に倒れ込んだ。柔らかな双丘が顔に当たる。
 顔の形に合わせるように形を崩しながらも、適度な弾力で押し返してくる感触が
 何とも気持ちが良い。
 数秒。
 それだけの時間を置いて荒くなっている呼吸を調え、姉さんは小さく笑った。
「どうしたの?」
「ん、お姉ちゃん嬉しくって。何か今日、いつもより激しかったし。それに」

 割れ目から溢れてきている互いの液がブレンドされたものを、僕の指を使って掬い、
「いつもより量も多いし、濃いみたい」
 しゃぶるように舐める。
「不味いね、濃いから更にキツいかも」
 言われ、心が痛んだ。いつもよりも濃いという理由は単純、今日はサクラとしていないからだ。
 僕は元々弾数が多い方ではないので、それが顕著に表れたのだろう。
 そんなつまらないことを頭の端で考えながらも、それ以外の大部分で思うのはサクラのこと。
 愛し合う直前でそれが砕け、拒絶された痛みは本人にしか分からない。
 けれども、別れ際の痛々しい表情は誰の目にも分かる程それを訴えかけてきていて、
 それを思い浮かべると胸が強く締め付けられる。
「虎徹ちゃん、どうしたの?」
「何でもないよ、それより」
 内心を悟られないように笑みを浮かべ、無理矢理話題を代えるように、
「前から気になってたんだけど、どんな味がすんの? 不味いとか苦いとかはよく聞くけど、
 具体的にどんな感じ?」
「舐めてみる?」
 僕が首を振ると姉さんは楽しそうに笑い、
「何か生臭くてね。最初は少ししょっぱい感じなんだけど、飲み込むときに何かエグいのが
 来る感じ。しかも、喉の奥の方にその嫌な感じのがこびり付いて……」
「ごめん、もう良い」

 具体的に、と言うよりも生々しい感じの描写に具合いが少し悪くなってきた。
 それが僕の性器の中から出てきたものだということを差し引いても、絶対に飲みたくはないと思う。
 姉さんやサクラは嬉しそうに美味そうに飲んでいたから青汁のようなものだと思っていた
 けれども、方向性はかなり違うらしい。
 僕は軽く頭を下げ、
「ごめんなさい」
 それを聞いて姉さんは再び笑う。
「気にしないで、虎徹ちゃん。個人差ってものがあるらしいから、もしかしたら虎徹ちゃんのは
 他の人より飲みやすいのかもしれないし。他のは飲んだ事ないから分かんないけど」
 これは、フォローされているんだろうか。されているにしても、妙な話になったもんだ。
「それにね、あたし達は飲みたくて飲んでるんだからね」
 という訳で良質な蛋白質を頂きま〜す、と言いながら姉さんは僕のものに舌を這わせた。
 性器のものとはまた違う感触に背筋に震えが走るが、今はそれよりも大事なことがあった。
「姉さん」
「ふぇ、ふぁひ?」
 僕のものを口に含みながら喋っているせいで発音が不鮮明だが、聞くことは聞いているらしい。
 姉さんはたまに夢中になりすぎて、わざとなのかどうなのか、それとも天然なのか、
 人の話をあまり聞かないことがある。数少ない姉さんの悪癖だ。食事時もそうだけれど、
 口にものを含んだまま喋る悪癖もあり、治ってほしいと常日頃思っているのは僕だけの秘密だ。
 そんな現在進行系で悪癖を披露している姉さんに向かい、僕は吐息を一つ。

「口にものを入れたまま喋らないの、それより」
「うん」
 口からものを出したが、今度は豊かな膨らみで挟んできた。複数の種類の液が混ざった液が
 潤滑油となり、挟んでいるものの弾力と相混じって独特の快感を作っている。
 思わず声が漏れそうになるが、それを堪えて姉さんを軽く睨んだ。もしかして、
 わざとやっているのではないだろうか。
「乳から手を離しなさい」
「えぇ、じゃあお姉ちゃんどうすれば良いの!? まさか、あ、足!? 足なのね!? うん、
 少しマニアックだけどお姉ちゃん引いてるのを隠して頑張る!!」
 隠してねぇ!!
「あんまり器用じゃないから下手かもしれないけど、許してね?」
 僕は姉さんの頭にチョッピングをして黙らせ、
「姉さん、さっき言った『あたし達』の『達』って何?」
「? 複数系を表す言葉だよ?」
 そうじゃなくて!!
 睨むように姉さんの顔を覗き込むが、しかし返ってきたのは見当違いな程に優しい笑みだった。
 どうやら僕が言いたいことは分かっていて、少しからかっていたらしい。姉さんの場合、
 こんなボケをしても普段とあまり変わらないので分かり辛い。
 否、それよりも、
「知ってたの?」
「あはっ、うっかり口が滑っちゃった」

 やはり姉さんは、僕がサクラともしていたことは知っていたらしい。冷静に考えてみれば、
 当然かもしれない。夜中に姉さんとしていることをサクラが知っていたのだ、
 それに比べて格段にばれやすい夕食前という時間にサクラとしていたのだから、
 気付くのは当然かもしれない。なるべく声や音は出さないようにしていたけれども、
 分かる人には簡単に分かってしまうだろう。
「サクラともしたの、怒ってる?」
 答えは言葉ではなく動きで来た。昼間、泣いていた僕にサクラがしたように、
 顔を胸に埋めるようにして掻き抱かれる。性格は違っていてもやはり姉妹、
 同じような行動をとったり、根の部分で繋がっている。
「でも、今日はしてないんでしょ? いつもより濃いのもそれかな?」
 答えられずにいる僕に対して、言葉は続く。
「サクラちゃんと、何かあったの?」
 これで言葉は終わりだ、と言うように抱く力が強くなった。
 温かい。
 仄かに甘い香のする胸の中、言っても良いかもしれないと思った。心の中で留めておくには
 重すぎるし、こうして今、僕を受け止めてくれている姉さんならどうにかしてくれる
 かもしれない、という希望を持って。
 顔を上げると、相変わらず姉さんの笑みがある。
「サクラが」
 細く息を吸う。
「青海を」
 言ってしまえ。
「殺した」
 短いが確かに言いきり、大きく吐息をした。
「そう」

 対する姉さんの返事も短いもの、特に何を言う訳でもなくこちらを見つめている。
 人が死んだというのに、しかも身内が殺したというのに動じた様子もない。
 ただ、次の言葉を待つように僕を抱いたままだ。
 数分。
「姉さん、どうしたら良い?」
「どうしたいの?」
「分からない」
 そう、分からない。
 どちらを見ても道がない。
「許しちゃえば?」
 何を言っているんだ?
「怒りたくても怒れない、離したくても離せない、嫌いたくても嫌えないから虎徹ちゃんは
 悩んでるんでしょ? なら許しちゃえば良いんじゃない?」
 そうなのか?
「現に、晩御飯のとき何も言わないサクラちゃんをかばったでしょ?
 それは、嫌いたくないってことだよ」
 そうかもしれない。
「ここからはあたしの気持ちだけどね、サクラちゃんを嫌わないでほしいな。青海ちゃんには
 悪いと思うけど、サクラちゃんは虎徹ちゃんが好きだからやったことだし」
 姉さんの言葉は止まらない。
「あたしも、サクラちゃんには悪い人にはなってほしくないから。姉妹だし、家族だしね」
 家族、だから。
「ま、これはあたしのワガママだけどね。良かったらサクラちゃんのことや、あたしの今の言葉を
 胸に留めておいてくれると嬉しいな」
 サクラを許せば、そのまま青海を切り捨てることになる。
 だから許せない。
 許したいのに、許せない。
「おやすみ、虎徹ちゃん」
 僕が考えている間に姉さんは手早く寝間着を着ていたらしく、そう言うと僕の頬と唇のそれぞれに
 キスをして部屋を出ていった。
 数秒。
 なんとなく窓の外を見た。
「どうすりゃ良いんだよ」
 見守ってくれているだけで、月も星も答えてくれない。


[top] [Back][list][Next: とらとらシスター 第34回]

とらとらシスター 第33回 inserted by FC2 system