とらとらシスター 第21回
[bottom]

 兄さんは私の中に出したあと倒れ込み、一緒にベッドに横になった。
 ゆっくりと膣内から竿を引き抜くと、精液や愛液、処女でなくなった証の血が混ざった液体が
 垂れてシーツに染みを作っていく。それをもったいないと思ったけれども、
 未だに割れ目に残っている痛みや絶頂に達した脱力感のせいで体が動かない。
 止める方法もなくてひたすらに垂れ流しているのがとても悔しい。
 ま、良いでしょう。
 そう、それ以上に幸せな気持ちが心に満ちていて、そんなことすらどうでも良くなってくる。
 痛みも何も関係ない、今は繋がることを出来たのをひたすらに喜ぶだけだ。
 甘い余韻を楽しむように軽く目を閉じると、すぐに兄さんの顔が浮かび上がってきた。
 コテツミンも十分に補給できて、文句の付けようもない。
 いや、少しはある。
 これは多分麻薬のようなもので、ある程度持たされると次から次へと欲しくなり、
 中毒のようになってくる。器の容量は無限大、いやもっと大きいのかもしれない。それを更に、
 もっと、少しでも多く満たすべく荒い息のままで倒れている兄さんに抱きついた。
 きっと私も同じような状態だろうけれども、男の人は回数に限界があるからその分
 一回ごとの疲れも激しいんだろう。逆に女は殆んど無制限だし、私は普段から何回も達するように
 一人でしていたから妙な体力が付いていたのかもしれない。
 それでも、普段よりずっと疲れた

 

 けれど。

 

 それでも、腕にちゃんと力が入ったことはありがたい。まるで玩具を誰にも渡したがらない
 幼い子供のように、全力で抱き締める。私はそんなタイプの子供ではなかったけれど、
 今ならその子の気持ちが分かる気がした。
 誰にも渡したくない、
 これは私のものだ、
 渡したらどこかへ行ってしまう、
 壊れてしまう。
 いくつもの不安が心を襲ってきて、その分力が強くなる。それは独占欲と言うよりも、
 恐怖に近いものがある。自分の存在を支えているものが消えるということは、
 それだけで大きな恐怖になってしまう。
 だけれども、逆に抱き締めている間は安心感が心を包み、それらの不安から守ってくれるし、
 支えに対する愛情も深まっていく。そうすればする程に失うときの辛さが増すというのに、
 愚かにも人間は常にそうして生きてしまう生き物だから。人だけが持つ愛というものは、
 そうして流れに身を置いていて、幼子はそれを無意識に理解し、行動をしているんだろう。
 兄さんがたまに言っている、
『誰かの側に居たいと思うことは、その人が隣に居ないことを覚悟すること』
 という言葉がある。
 割り切りも愛には必要だという意味だけれども、私はそうは思わない。
 それが大人へと向かうのに必要ならば大人になんかなりたくないし、
 兄さんの隣から離れるつもりも、例えどんな用事でも兄さんに離れてもらうつもりもない。
 今は例え無理だとしても、いつか邪魔者を全て消して完全に結ばれたときにはそうしたい、
 しなければならない。

 二人だけの完全世界がそこに存在するためには、そうすることが必要だ。
 そのために、少し意地の悪い方法も使ったのだから。
 最初は酷く思われるかもしれない、それこそ少し恨まれるかもしれない。
 そうなることは辛いけれども、結果的に救われて真実を知ったら絶対に私だけを見てくれる。
 一時的にでもそんな感情を持たれることは辛いけれども、未来の妻として耐えながらも
 頑張っていこうと思う。
 今は、小さな愛情を向けてくれているだけで幸せです。
 口には出さないけれども、心の中で囁くように呟く。
 兄さんも、少し怒ってはいるけれども、私を嫌ってはいない筈だ。
 自分でも酷い方法だと思ったことなのに、初めて経験する私を気遣ってか
 丁寧に体をほぐしてくれた。怒りも恐怖も混ざっていただろうに、
 それでも一度私を絶頂に導いてから入れてくれた。
 正直な話、私にも多少の恐怖心というものはあった。
 兄さんに嫌われることは絶対にないと分かっているからそのことに不安はなかったものの、
 物理的な痛みにどうにも弱い私はそのことだけが不安だった。
 私の口が悪いのは元々の素質や兄さんが素直な私を誉めてくれたのもあるけれど、
 一番の理由はその弱さを隠すはったりだ。まぁそれは別の話、今は関係ないこと。
 それは兎も角として、その兄さんの気遣いで少しは痛みが減ったし抱かれている間は
 痛みよりも幸せが勝っていた。友達に聞いていた話よりもずっときつい痛みにも、
 耐えることが出来た。

 ボタンを外す手際の良さや愛撫などは多分姉さんに教わったもので、
 そのことは少し悔しいけれども気にしない。大切なのは未来、前を見ることだ。
 そこに立っているのは兄さんと私だけ、他には誰も居ない。
 兄さんもそれが良いですよね。
 答えは先程から腕にじんわりと伝わってくる、少し高めの体温で分かる。
 良い匂い。
 擦り付けるように額を胸板に付け、ボタンのとまっていない胸をお腹に当てる。
 腕だけだった体温が沢山伝わってくるのが何とも心地良く、まるで揺り篭のような感覚に
 思わず眠りたくなってくる。
 不意に、圧迫感。
 少し驚いたものの、それが兄さんの腕だと分かると途端に嬉しさが込み上げてきた。
 膣内に出してくれた後は何も話さずに一緒に横になっているだけだったから、
 追い出しはしないものの私を少しは怒っているかもしれないと思っていた。
 けれど、それだけではないらしい。前戯のときもそうだったけれども、
 現に今、私の小さな体を包むこの感触はそれだけではないことを言葉以外で伝えてくれる。
 そんな兄さんだから、誰にも渡したくない。
 今は何を考えているのだろうか、突然私を抱き締めていた力が強くなり、
 体が小さく震えていた。閉じていた瞼を開くと悩んでいるような顔の兄さんが、
 私の顔を見つめている。
 言葉に出してくれないのは、私に言えないことなのか、言いたくないことなのか。
 せめて少しでも心の支えになれるようにと、
 私はここに居ると、
 唇を差し出した。

 兄さんの唇の感触は、返ってこない。
 だけれども、もはや痛いまでになった力で考えていることは分かった。
 迷って、いるんですね。
 唇の動きだけで問掛けると、兄さんは悲しそうに目を反らした。
 これはもう答えを言っているのも同じだ、今の兄さんの頭の中に渦巻いているのは
 青海さんのことだろう。私を抱く決意をしたのも青海さんの名前を出したから、
 青海さんに嫌われるのを恐れたからなのだろう。怒っていても私を気遣い、
 反抗しながら優しく抱いた。
 それも全て青海さんのためなのか、この場に居ない泥棒猫に嫉妬の気持ちが沸き上がる。
 辛い、と言うよりは悔しいという感情が強い。
 鈍い痛みが胸の辺りに溜り、少し息が苦しくなる。
 何故、こんな気持ちになるのだろうか。ついさっきまでは兄さんのことで頭が一杯で、
 心の器は幸せで満ち溢れていたというのに。言葉では表現できない澱が底の方に不気味に溜って、
 こちらを扇っている。
 兄さんが悩む理由は何だろう。
 酷いことをしてしまったから?
 兄さんとセックスをしたから?
 今の表情を見てしまったから?
 答えは分かっている筈なのに、それは思考の片隅にこびり付いているだけで
 前に出てこようとしない。淀みと一緒にこちらを眺めているだけだ。
 それが、堪らなく辛い。
「兄さん、愛しています」
 言葉の重みの分だけ、腕に力を込め直した。


[top] [Back][list][Next: とらとらシスター 第22回]

とらとらシスター 第21回 inserted by FC2 system