とらとらシスター 第14回
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 水っぽい音が聞こえる。
「何だ?」
 この感触は、何なのだろう。柔らかいものが口に押し付けられ、
 そこから延びるぬめった物体が唇の間から口内へと侵入して動いている。
 触手のようなそれは、僕の舌を絡めとり、暴れて奥へ奥へと進んでいく。
 これは、夢か。
 違う。
 温かいそれの感触や、何か鋭いものが肩に食い込む痛みが、これは夢ではなく
 現実だと伝えてくる。だったら何が起こっているのだろうか。
 手元の携帯をいじって時間を表示させると時刻は12時丁度、シンデレラの魔法が解ける時間。
 彼女は元の姿に戻ったけれど、僕はどうなったのだろう。
 ぼんやりとした頭で視線を回してみれば、視界に入ってくるのは
 緩やかにウェーブのかかった虎毛色の長い髪の毛。あんなことがあった後でも、
 姉さんはやっぱり僕の隣で寝ているらしい。やっぱり、姉さんは姉さんだ。
 いや、もしかしたらあんなことがあった後だからこそ、僕の隣で寝ているのかもしれない。
 辛いときには家族の温もりが一番の薬になることを、僕はよく知っている。
 それにしても、さっきから続いているこの音は何だろう。
 寝ているところを起こすのは悪いと思うけれど、姉さんは基本は夜型だ。
 起きているかもしれないという可能性の方が高いし、
 この音や感触を何とかしてくれるかもしれないと声をかけようと思い、口を開く。
 だが、声が、出ない。
 それはそうかもしれない、口の中に物が詰まっているんだから。

 それをまずどかそうと思って唇を動かしながら舌で押し返そうとすると、
 それはより積極的に動いてきた。先程よりも激しい動きで僕の舌に絡み、跳ね回る。
 更にはくぐもったような声も付いてきた。
 声が表すのは、
「…………ほれ、ふ、ひゃん」
 
 多分虎徹ちゃんと言っているんだろう、それは僕の名前。
 何故、僕の名前を呼ぶんだ。僕をそう呼ぶのは、姉さんだけの筈だ。
 待てよ。以前にも、と言うか昨日も同じようなことがあった気がする。昨日は夜中に姉さんが、
 僕の隣で自分を慰めていて、破廉痴具合いを確認した筈だ。
 何度も同じようなことがあるとは思いたくないけれど、そのパターンで行くと、
「姉さん?」
「なぁに?」
 違っていてほしいという願いを込めて目を開いてみれば、
 僕と顔を重ねた姉さんの笑みが広がっていた。無理矢理に顔を引き剥がすと、
 僕と姉さんの唇の間に透明な糸の橋が携帯の光に照らしだされた。
 その光景で、嫌な予感が的中したことが分かる。
 それと同時に湧き上がってくるのは、激しい後悔と、青海への申し訳の無さ。
「キス、を、した?」
 喉が酷く渇く。
 現実を受け入れるために一言ずつを絞り出すように言うと、一層増してきた。
「美味しかったぁ、もう一回」
 唇の端から唾液を垂らしながら淫らに微笑んで、姉さんが柔らかい両手で僕の頭を包んだ。
 そして、再び唇を重ねてくる。

 何が起こっているんだ、僕と姉さんは姉弟同士で、こんなことはしないし許されない筈。
 いくら姉さんが破廉痴でも、こんなことは異常すぎる。普通は考えもしないようなことなのに、
 どうして現実に起きているんだ。姉さんが僕に依存をしたり好きだと言っているのは
 分かるけれども、それは家族としてのものじゃなかったのか。
「好きだよ、虎徹ちゃん」
 僕から唇を離すと、いやらしく微笑む。
 これは、そういうことなのか?
「触って、虎徹ちゃん」
 姉さんが体を起こしたことで、どんな状態なのかが一瞬で伝わってきた。
 裸。
 白い肌が月の灯りを反射して、夜の闇の中にぼんやりと浮かんでいる。
 視る者を吸い込んでしまいそうなほどに妖しく光るその肌はただひたすらに淫猥で、
 恐怖すら湧き上がってくる。半裸は昨日も見たけれど、それとは比較にならない程の魅力が、
 そこにあった。
 濡れた秘所も口元も、昨日と殆んど同じような筈なのに全く違って見える。
「早くぅ、ね。虎徹ちゃん」
 甘い声が脳髄の中にまで染み込んで、思考の奥底までもを侵蝕してくる。
 姉さんは僕の腹の上にただ座っているだけなのに、肌が重なる感触が快くて、
 声と共に体の自由を削っていく。普段なら軽く身を捻れば脱出出来る状態なのに、
 拒否しようとしても、声も力も出ない。それどころか、逃げようという気力も、殆んど無い。

「虎徹ちゃん」
 気が付いたら、両手は自然と姉さんの乳へと伸びていた。
 僅かな力でも簡単に形を変えるけれども、弾力で掌を押し返してくる。
 指の間から溢れる乳房が、何ともいやらしい光景を作り出していた。
 僕の掌の中心に当たっている固くなった部分と、口の端から糸を引いて垂れている唾液、
 それと一緒に僅かに漏れるかすれたような声で姉さんが酷く興奮しているのが分かる。
 目が会うと、姉さんは三日月型に口の端を歪ませた。
「虎、徹ちゃ、んに、触っても、らえて、お姉ちゃ、ん、とって、も、気持ち良、い」
 姉弟。
 途切れ途切れではあるけれども、発せられた『お姉ちゃん』という単語に、意識が引き戻される。
 更に、冷静になって頭に浮かんでくるのは、多分僕以外は皆知らない、青海のはにかんだような、
 だけれども彼女らしい笑顔。
 僕と好き合っているではないけれど、
 僕を好いてくれている、
 付き合っているという証の表情。
 姉妹を僕離れさせるために付き合い始めたのがきっかけだけど、それでも、
 それなのに好きになり始めている女の子を裏切ることになる。
 これでは、けじめがつかない。
「姉さ…」
 三度目の、キス。
 駄目だ。
 頭の中に強く思い浮かべていた青海の笑顔が、もやがかかったかのように霞んで、薄れていく。
 代わりに密度を高めていくのは、唇や掌、姉さんの肌から伝わってくる温い感触。
 甘く妖しく艶めいた姉さんの声が、更に思考の器を溶かしていく。

「虎徹ちゃん」
 何だろう。
「手、止まってる」
 動かすべきじゃない、今が止め時だ。
 僅かに残る理性で歯止めをかけようとしても、手の動きは止まらない。それどころか、
 どんどん激しくなってきている。限界が大分近いのか、姉さんの舌の動きや呼吸、
 声も荒さを増してくる。激しく聞こえる水音は、股間をいじっているからだろうか。
 やがて姉さんは乳に僕の頭を埋めるようにして抱き込み、
「も、だめ」
 体を一瞬だけ硬直させて、ゆっくりと力を抜いた。
 肩で息をしていながらも、恐ろしく強い力で僕の頭を抱えている。
 いや、もしかしたらそうではなくて僕の力が足りないせいかもしれない。
 顔を柔らかな感触で包まれ、
 僅かな汗の匂いと女性特有の甘い匂いを吸っていると力が入らなくなる。
 数分。
 小さく姉さんが体を動かすと、密着していた肌が少し離れた。
 体温が消えるのを、もったいないと思うのと同時、
「もう良いよね」
 という声が聞こえてくる。
 何が良いのだろうか。
 もう今日はお開きなのだろうか。
「姉さん、それは」
 どんな意味で、と言おうとする前に言葉が途切れる。
 股間から今までに感じたことがない程の快感が伝わってきた。視線をそちらに向けてみれば、
 姉さんが白く細い指で擦りあげていた。
「虎徹ちゃんも、こんなになってるし」
 優しい声が鼓膜を震わせるのと同時、姉さんは体を起こすと僕の先端を股間に当てがい、
 ゆっくりと腰を沈めてきた。少し奥へと進むと、僅かな抵抗がある。

「んっ、痛っ」
 だが一瞬。
 一気に姉さんが腰を落とすと、根本まで飲み込まれた。
「姉さ…」
「大丈夫だから」
 月の光を反射するのは、一雫の涙。
「やっと、一つになれたね」
 待て待て待て待て待て待て待て待て。
 青海のことを思い出したときの比ではないくらいに意識が引き戻されたが、それも短い間だった。
 姉さんが腰を動かし始め、その度に思考がえぐられていく。
 目が覚めてから何度こんなやりとりをしたのだろう、ブレーキをかけるチャンスなどは
 幾らでもあった。それなのに引き擦られていくのは、何故なんだろうか。
 いや、そんなことはどうでも良い。
 そんな考えすら薄れていった。
「気持ち、良い? 虎徹ちゃ、ん」
 答えようにも、快感が強すぎて言葉が出ない。姉さんが腰を浮かせ、
 沈める度に言いようのない感触が伝わってくる。姉さんの膣内は熱くぬめり、
 全体を包んで絞りあげ、摩擦の度にヒダが絡みついてくる。気持ち良いと聞いていたけれど、
 これはそんな生易しいものじゃない。頭がおかしくなりそうな、それこそ甘い毒薬のようなものだ。
「お姉ちゃんね、辛かったの」
 鈍痛。
 胸に置いた手の爪を立てながら、姉さんは微笑む。
「虎徹ちゃんがよそ見ばっかりして、青海ちゃんやサクラちゃんばっかり見て。特に、青海ちゃん。
 昨日会ったばっかりの女の子に、あんなにデレデレして」
 聞こえている筈なのに、意味が分からない。
 快感以外の感覚が、無い。

「だから、もう我慢出来なくなっちゃった」
 言い終えると僕にキスをして、姉さんの腰の動きが激しくなった。強いうねりと締め付けに、
 我慢が出来なくなってきた。絶頂が近いのが、感覚で分かる。
「も、出る」
 抜こうとして腰を引くが、それをさせまいと余計に押し付けてきた。
 不味い、このままでは本当に中に出してしまう。
「姉さ、ん、駄、目だって」
「今日は、大丈夫な日だから」
 限界が近い。
「それに、虎徹ちゃんの子供だったら産みたいし」
 もう、無理だ。
「我慢、しなくて良いよ。虎徹ちゃんの尊敬する殺虎さんの、
 パパやママも兄妹だったみたいだし、大丈夫」
 舌を絡める激しいキスと、押し付けられる乳の感触、熱い膣内。のせいで思考力が
 一気に削られていく。
「あはッ、出てる出てるッ」
 出して、しまった。
「ね、もう一回」
 呟きながら、もう何度目か分からないが唇を重ねてくる。
「大好きだよ、虎徹ちゃん」


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