とらとらシスター 第4回
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 兄さんが告白を受けている、その事実に私は気が狂いそうになった。無謀にもそんなことを
 しているのは織濱さん、この高校での有名人。天衣無縫とはよく言うけれども、だからと言って
 何をしても許される訳ではない。実際彼女はこの高校の女王のように扱われているけれども、
 それとこれとは話が別だ。
 止めなければいけない。
 私の血が、それを叫んでいる。いつだって兄さんは私に優しくしてくれた、これからも
 きっとそうだろう。いつまでも永遠に、私の側に居てほしい。それだけ、たったそれだけの願いなのに
 織濱さん、いやさん付けどころか名前で呼ぶのももったいない。あの雌豚はそんな些細な願いさえも
 摘み取ろうとしている。
 そんなのは、許せない。
 兄さんはいつまでも私の兄さんなのだ。
 思えば、自然に体が動いていた。
 快音。
 その音と共に、開いた筈の扉が目の前に現れる。それを行ったのはもう一人の邪魔な雌豚で、
 それを見る度に毎回苛々してくる。本当に毎回毎回、何故私の邪魔をするんだろう。
 兄さんは優しい人だからいつも姉さんをかばうけれど、それに突け込んでいつもいつも、
 それに甘えて困らせてばかりいる。いつも優しく素敵な笑顔の中に苦笑が混じっているのが
 分からないのだろうか、いや分からないんだろう。天然を通り越してもはや馬鹿の世界に
 どっぷりと脳や脊髄まで浸っている姉さんは、そんな兄さんの苦しみなど分からないに決まっている。
 気が付かないどころか、気付こうとすらしていないんじゃないだろうか。

 そう考える度に、兄さんがかわいそうという思いと、姉さんに対する殺意が湧いてくる。
 兄さんも、そんな馬鹿な女は切り捨ててさっさと私と二人きりになれば良いのに。
 いけない。
 一瞬で兄さんとの幸せな未来を想像した私は、その魅力的な世界に囚われそうになった。
 私もまだまだだ、決まりきっている栄光に溺れるなど、修行が足りない。確実な未来だけれども、
 そんなので満足していては兄さんに申し訳ない。もっと幸せにならないと、更に兄さんには
 幸せになってもらわないと。
 いけないいけない。
 再び快楽の虜になりそうだった自分を戒める。これでは勝手に布団に入り込んで満足し、
 兄さんに迷惑をかけている馬鹿な姉と同じになる。もし相手が自分だったら兄さんも
 幸せだろうけれど、しかし私は我慢する。結ばれるまではお互いに慎みあうのが、
 たしなみというものだ。兄さんと結ばれるにあたって、これは大切なもの。
 そう自分に言い聞かせながら、今度はまともに扉を開く。姉さんも今回はまともだった。
 姉さんは勢い良く雌豚へと向かっていく。兄さんがそれに苦笑しているけれど、今回は仕方がない。
 何しろ、家畜に告白されているのだ、それは表情を曇らせるというものだ。
 こんなときばかりは、あの馬鹿な半畳も少しは認めても良いように思える。

 結果、雌豚は失礼な視線と共にこちらを尋ねてきた。姉さんの馬鹿な意見は耳障りだが、
 聡明な兄さんはきちんと訂正してくれる。私の意見も、きちんとフォローしてくれた。
 今はまだ在学中だし、大事にするような馬鹿な真似はしない。優しいから姉さんが取り乱さないように
 考えて喋るし、変な印象を与えるようなこともしない。その気遣いに私は誇りと嬉しさを覚える。
 それとも、周りが騒ぎ立てて私に構うのが嫌なんだろうか、そうに違いない。
 意外と独占欲が強いんですね、でも私はその方が嬉しいし、私も兄さんしか見えてないから
 大丈夫ですよ。安心して下さい。
 しかし、どんなに兄さんが立派な方でもこの雌豚はどんな方法を使ってくるのか分からない。
 なにしろ動物だ、まともな思考回路の人間では想像もつかないようなことをしてくるだろう。
 もしかしたらシンプルに、姉さんのように無駄に大きくて下品な乳で誘惑してくるのかもしれない。
 兄さんのように高尚で潔癖な人なら大丈夫だと思うけれど、一応警戒するに越したことはない。
 それが未来の妻の役目というものだ。
 取り敢えず兄さんの質問のフォローをすることにした。内助の効、というのもあるが、
 嫌々聞いている様子の兄さんにはこれ以上の負担をかけたくなかったのが一番だ。優しい兄さんは、
 人の意思を踏みにじろうとはしない。それが、どんなに嫌な相手であってもだ。
 美徳とは思うけれど、少し直してほしいとも思う。

 雌豚といえば、今時宝塚の人しかしないようなポージングでうっとりとした表情をした。
 正直気持ち悪いのでさっさと消えてほしいと思う、兄さんもそう思っているに違いない。
 表情が、その事実を如実に物語っていた。
 口から出てきた言葉は、一週間前。
 それは、私にとって一種の記念日だ。初めは兄さんに引っ付きまわっている呑助を殺そうとも
 思ったけれど、兄さんと一緒に愛でていると安らいだ。今はまだ高校生なので子供は産めないが、
 その子が二人の愛の結晶に思えてきた。今にして思えば、今はあれは子供を持てない私達に対する
 神様からの贈り物だったのかもしれない。
 案の定、雌豚の答えも呑助がらみだった。携帯の待受を見て、頷いている。だが今はそんなことは
 どうでも良い。一週間も間を開けて、それなのに愛しているなんてどんな了見なんだろう、
 その神経が知れない。
 思ったらそのまま口から出てきて、返ってきたのはつまらない言い訳だった。
 本当に、この雌豚は。
 あまつさえ、再び兄さんに求愛行動をしてくる。
 思わず手が出そうになったとき、既に姉さんが突き飛ばしていた。いつもの行動は気に食わないが、
 兄さんに付く悪い虫を払うヤジや、こんな暴力だけは認めている。
 それに便乗する形になったのは嫌だったが、つい口から本音が出てしまった。

 だがモラリストな兄さんは姉さんの行動が気に食わなかったらしく、振り向く。
 それと雌豚が立ち上がるのは同時、偽善的な言葉を吐くと一方的に昼食を一緒にとる約束をして
 教室から出ていった。
 数秒。
 兄さんは吐息をすると、座るように指示をしてくる。下着はいつ兄さんに見られても良いように、
 寧ろ見てもらうためにいつも気を使っているが、他人に見られそうになるのは嫌だし、
 そもそも計算外だった。それに気が付いて注意してくれる兄さんはやはり優しい。
 それに、兄さんも他人に見られるのが嫌なのだろう。それとは逆に、
 よほど姉さんの行動に腹が立ったのか、初めて学校でお説教が始まった。
 お説教と言っても、姉さんに対する注意と私との将来に対する真摯な言葉だけだったので幸せだった。
 兄さんの美しい声でそんなことを言われて少し濡れてしまう、それも仕方のないこと。
 終わった後も腰砕けになった私を気遣い優しく立たせてくれたし、あの雌豚も祝福の言葉を私に向けた。
 それでも私の幸福は止まらない。
 邪魔者が二匹居る食事も、問題なし。聞けば弁当もあの雌豚が作ったものではないらしいので
 妙なものは入っていないようだし、そもそも雌豚の弁当には手を付けてもいない。
 兄さんはやはり私が一番のようだ。
 美味しそうに私の作ったお弁当を食べてくれている。
 唾液の混じった炊き込み御飯。
 愛液の入ったダシ巻き卵。
 その他にも色々、全て私の愛情のこもった自信作。
「美味しゅうございました」
 兄さんのその一言で更に濡れてくるのが自分でも分かる。
 自分でもはしたないとは思うけれど、それも兄さんが魅力的だから。
 責任、とってくれますよね?


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