白き牙 第5話
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 ちょっとヤバいかなぁ……。
 現在戦闘中。 私達は何時に無く苦戦を強いられていた。
 対峙する敵は白骨巨人――ジャイアントスケルトン。
 名前の通り巨人の白骨死体が術により動き回るようになったモンスター。
 最初率いてた術者の死霊使いさえ倒せばコイツラもくたばってくれると踏んでたのだが、
 当てが外れた。
 真っ先に術者を斬り伏せたと言うのに
 コイツラはお構い無しに私達への攻撃の手を緩める様子は無し。
 この白骨巨人結構強い、と言うより私との相性が悪いと言った方がいいだろうか。
 苦手なのよね。 こういうリーチの長い敵って。
 しかもただでさリーチが長い上に使ってる得物も槍状の武器。 何より動きが想像以上に速い。
 普通このサイズのモンスターというのは自重のお陰で動きがトロイのが定石。
 なのにコイツラは骨だけで軽いお陰か術者の腕のお陰かありえないほど素早い。
 こうなるとリオの魔法が頼りなのだが残念ながら既に打ち止め。
 でも時間を掛ければ倒せない相手ではない。 実際既に何体かは倒し元の屍に戻り残りは二体。
 だけど長引けば受ける痛手は決して軽くは無い。
 私がダメージを受ける分には未だ良い。 それよりも心配なのはリオだ。
 いつもリオは自分の事より私のことを気遣ってくれる。
 その心遣いは嬉しいんだけどリオが傷つくのを見るのは私にとっては何よりも辛い。
 だから、一刻も早くコイツラを片付けなくちゃ。

 その時横から人影が飛び出した。 背丈は私より少し小さいぐらい。
 動きやすさを重視した軽装の鎧を身に纏ったその戦士風の人影が手にした武器は長い柄の……
 槍? 薙刀? だが其のボリューム、
 刃の大きさはそれ以上でこういう武器の名前は確かグレイブ……。

「ハァッ!!」
 其の人影――戦士は気合と共に声を発しグレイブを一閃した。
 長いリーチの其のグレイブの一撃は白骨巨人の武器を手にした腕を確実に捕らえた。
 そして武器を手にした白骨巨人の腕が砕け散る。
 武器を失った事によりリーチが、そして其の驚異も半減した巨人に私は斬りかかる。
 そして腰骨の上、肋骨の下にある背骨に向かって一閃。
 上下の支柱を断ち切られた巨人の上半身が崩れ落ちる。
 そして其の上半身の心臓に当たる部分――死体を操ってる中枢核に刃を突きたてる。
 コレで残るは一体。

「せいっ!!」
 その時掛け声が耳に届いた。
 掛け声のした方を見れば先ほど私達の前に割って入ってきた戦士。
 だが其の手には先ほどまでの武器――グレイブは無く姿勢は腕を振りぬいた投擲後のような姿。
 視線を廻らせれば最後の一体の心臓部分には深々とグレイブが突き刺さっていた。 
 状況から察するにグレイブを投げ最後の一体に止めを刺したのだろう。
 音を立て崩れ落ちた白骨巨人に向かって戦士は歩いていきグレイブを引き抜いた。

 改めて見ると其のグレイブの刃は標準サイズのそれより二周りほど大きかった。
 ボリュームで言えば戦斧の一種バルディッシュに近いぐらいだ。
 攻撃力の大きさは今見たとおりだが、成る程其の大きさなら納得もいく。
 というよりあれだけ大きければ重量も相当だろう。
 それを振り回し更には投げて見せるとは其の筋力は改めて驚嘆に値した。
 今まで色んな戦士を見てきたが、この戦士のそれは明らかに群を抜いていた。

 グレイブを引き抜いた戦士はこちらを振り返った。
 見たところ年の頃は私とそう変わらないだろう。
 顔立ちは中々整っており女性と見紛う……いや、どちらとも判別しがたいと
 言った方が良いだろうか?
 片目は髪で隠れ其の髪の下から大きな傷跡が見える。傷を負い潰れた目を髪で隠してるのだろうか。
 いや、そんな詮索より先ずは礼を言うべきよね。
「ありがとう。 お陰で助かったわ」
「いえ、それほどでも。 ボクがでしゃばらずとも十分切り抜けられてたでしょう」
 散らばる屍の数は全部で八体。 うち殆どは私とリオで倒したもの。
「そんな事無いわ。 お陰で大分助かったわ」
 確かに言う通りあのままでも全て斬り伏せられただろう。
 でもお陰で少ないダメージで切り抜けられたのも事実。

「私からも礼を言わせて下さい。 ありがとう御座いました」
 声を発したのはリオ。 だが其の声を聞いた瞬間戦士の顔に驚きの表情が浮かぶ。
「リオ……にいさん?」
「え……? 若しかしてあなた……クリスですか?」
 リオの声を聞きクリスと呼ばれた戦士の顔には驚きと戸惑い、そして喜び
 それらが混ざったかのような表情が浮かぶ。
 そしてリオも其の顔に笑みを浮かべ戦士――クリスに向かって駆け寄り抱擁した。

「え? 何、二人は知り合いなわけ?」
 私が問い掛けるとリオは振り返り答えてくれた。
「ハイ。 このコはクリスと言って幼い頃モンスターに襲われ身寄りがなくなったところを
 一時的にお師匠様に引き取られ私と暮らしてた時もあるのです。私にとって弟みたいな存在です」
 ――弟、そう聞いて私は少しホッとした。
「そう。 リオにとって弟みたいなのなら私も是非仲良くしたいわ。あ、自己紹介まだだったわね。
 私はセツナ」
 私がそう言うとリオも続けて口を開く。
「クリス。 このセツナさんはね、何と伝説の勇者様なんだよ」
「勇者……様?」
「そうだよ。 クリスも聞いたことないか? 無敗を誇ってた魔将軍が打ち倒された話を」
「あれってこのヒトとリオにいさんのことだったの?」
 戦士は、クリスは驚いたような表情で私に視線を向けた。
「勇者さまなんて大げさよ。 そうよ今私はリオと魔王討伐の旅をしてるの。 ヨロシクねクリス」

 外観からは性別が判別しがたかったが弟分なら男ってことよね。 なら安心か。
 正直コレット以外にも恋敵が現れるのは勘弁して欲しいから。
 それにこのコ、今も目の当たりにしたのだが強い。
 このコなら今までのヘッポコたちと違って仲間になってくれれば
 確実に頼もしい存在になってくれる。
 それに何よりリオとは馴染みの仲みたい。 そんなコとは仲良くしたいしね。
 だから親愛の念を込めて手を差し出したのだが、え?
 一瞬クリスの視線に敵意のようなものが見えた気が――。

「ええ、共に戦いましょう。 魔王軍を打ち滅ぼす為に」
 そう言ってクリスは手を握り返してくれた。 顔には屈託の無い笑顔を浮かべて。
 其の笑顔に私は先ほど感じた敵意が勘違いだったと胸をなでおろす。
 そうよね。 このコが私に敵意を向ける理由なんて無いわよね。
 魔族によって家族を奪われてるこのコにとって魔王を倒せる可能性を秘めた私は救い主のはず。
 それに男の子なんだからリオを巡る恋敵なんて事も無いしね。

 そして其の日から私達のパーティーには頼もしい仲間が一人増えたのだった。


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