白き牙 第4話
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 魔将軍を倒したと言う事実は瞬く間に世間に知れ渡った。
 私のことを聞きつけてきた多くの国が援助を、或いは王家のお抱えの騎士などが私とのパーティーを
 組む事を申し出てきた。
 どの国も狙いは一つ、私に尽力する事により魔王を倒したと言う大義名分が欲しいのだ。 
 魔王亡き後の世界の宗主国になる為に。

 最初の頃は来るものを拒まず受け入れてた時もあった。 各国の思惑がどうであれ利用できるものは
 させてもらおうと。
 でも、私達の仲間が長く勤まるものは殆ど居なかった。 彼らが弱かったと言うより私達が
 強すぎたのかもしれない。
 そうした訳で入れ替わり立ち代り色んな人たちとパーティーを組んでみた。
 そんな中、今はある姉弟の騎士と組んでる。 名前を姉がシビッラと、弟をコージモと言った。
 腕前は、正直今一つだった。 だが貴族として高い地位を持っていたのかパトロンがいるのか
 武器防具やマジックアイテムは潤沢に持っておりそれなりに冒険の助けにはなった。
 だけど、正直虫の好かない連中だった。 二人とも所謂美男美女なのだがどうにも気障で
 馴れ馴れしい。 男の方は私に必要以上に媚るわ歯の浮くような台詞は吐くは、
 女の方はリオに色目を使うわ!!
 だから私はこんな連中と一緒に居たくなかったんだけど、何より折角のリオと一緒の時間を
 邪魔されたくないし。
 だけどリオは折角の申し入れなのだから組もうって。 リオは疑う事を知らない純粋な性格だから。
 まぁそこがリオの良いところでもあるんだけど。 それに確かに組むなりのメリットも
 無いわけじゃないけど……。

 ある日の夜私達は最寄の村で宿を取って休んでいた。
 夜も更けた頃同室のシビッラががさごそと起き、部屋の外に出る。
 こんな夜更けに何の用事かと思ってそっと後をつけてみる。
 人気の無い所で立ち止まるとそこに弟のコージモも現れる。
 なにやら内緒話でもしてる様だ。
 私はそっと聞き耳を立てる。

<あんな小娘さっさと手篭めにしちゃいなさいよ>
<そう言う姉貴の方こそどうなんだよ。 あの魔導師の小僧に未だ手間取ってるじゃねえかよ>
 一体何の話?
<私よりアンタの方が重要でしょうが。 あの勇者の小娘を惚れさせることが出来れば魔王を倒した時
 その手柄は我が一族のものなのよ?>
<分かっているよ。 だけどその為には姉貴にも頑張ってもらわねぇといけねぇんだよ。
 あの小娘、あの小僧に惚れてやがるからよ。 だからあの小僧を先に何とかしてくれよ>
<あぁ、それなら大丈夫よ。 あの子、小娘のことなんか全然眼中に無いみたいだから。
 ま、考えてみりゃ当然よね。 あんな香水よりも血の臭いが、ドレスよりも鎧が似合うような
 色気もクソも無い小娘>
<ハハッ違いねぇや。 あんな血生臭い女、勇者でもなければ俺だって近づきたくも無ぇぜ>
<アハハハ。 それもそうね。 そう言う意味じゃアンタもとんだ貧乏くじよね>

 ア、アイツラアアアアァァァァ!! ブッ殺してやるっっ!! いや……落ち着け。
 確かに私の腕ならこんなゴミども簡単に消せる。 だからと言ってイキナリここで消してしまっては
不信がられる。 
 そう、ジッとチャンスが訪れるのを待ち、殺る時は細心の注意を払って殺らなきゃ、ね。
 そして、其の機会は意外と早くやってきた。

 私達がある村に立ち寄った時そこの村長に依頼を受けた。
 近くの洞窟にモンスター達が住み着いて度々村を襲い困っているのだと。 私達は二つ返事で引き受けた。
 そして洞窟の探索中、大した戦闘も無くある程度進んだ時、突然足元が崩れた。
 罠!
 咄嗟に気付いた私は壁に刃を付きたて開いた方の手でリオの手を掴んみ落下の難を逃れた。
 だが腐れ姉弟の二人は対応できずそのまま落下。 ザマアミロ!! だが当然顔になんか出さない。
「大丈夫でしょうか」
 相変らずリオは優しいな。 あんなヤツラ心配してやる必要ないのに。
 そう、コレでくたばってくれれば万々歳なのだがそうも上手くいかないでしょうね。
「確かに心配ね。 よし、私が下りていって助けてくる」
 私は手頃の場所にロープを縛り付ける。
「そうですね。 では……」
「あ、待って。 リオはもしもの時のためにココに残って」
「でもセツナ一人では……」
「大丈夫よ。 直ぐにあの二人を見つけて戻ってくるから。 じゃぁ行ってきます」
 そう言って私は崩れて出来た穴に向かって飛び込む。
「危ないと思ったら、直ぐに戻るかロープを引っ張って合図を送るかしてください。
 くれぐれも無茶はしないで下さいね!」

 下に降り立つと私は二人を探す。 勿論助けるためなんかじゃない。
 折角降って沸いたこのチャンス、活かさせてもらうわ。 フフ……。

 暫らく進むと剣戟の音が聞こえる。 音のした方を見れば、居た。
 敵は1,2……6匹ってところね。 豚のような面構えの亜人種型モンスターの一種オーク。
 手には各々剣や槍、斧などを持っている。
 オークなど、モンスターとしては下級の部類。 幾ら数で押されているとは言え、
 あんな相手に苦戦してるとは相変らずへッポこな腕前ね。
 それでもマジックアイテムとかに頼ってるお陰か時間を掛ければどうにか勝ちそうだ。
 でも勝たれちゃ困る。 やはりあんなモンスターに倒される事に期待するより自分で
 手を下さなきゃ 駄目ね。
 私は抜刀してモンスターに斬りかかる。 一匹につき1,2秒。
 全てのモンスターを片付けるのに10秒とかからなかった。
 やっぱこんなモンスターに苦戦するなんてアイツ等へっぽこだわ。
 そのくせ嘗めた事抜かしてくれたものね。 まぁ良いわ。 其の耳障りな口ももう聞かずに済むものね。
 私の思惑なんか知らずコージモは歩み寄ってくる。
 私はしゃがみこみ、今倒したオークの手から剣を拾い……
「ありがとうございます勇者さま! お陰で助かり……」
 私に向かって馴れ馴れしく歩み寄ってくる気障男に向かって投げた。
 剣は狙い違わず喉に突き刺さり一撃で絶命させる。
「いやああぁぁぁぁ!? コ、コージモ!? ゆ、勇者さま、い一体どうなさ……」
 あー五月蝿い。 でもこの耳障りな金切り声もコレで聞き収め。
 私は今度は斧を拾いシビッラに向かって投げつける。 これも狙い通り阿婆擦れの頭に見事命中。
 アハッ真っ二つに割れてまるで石榴みたーい。
 無事害虫駆除完了。 二人に刺さっている武器は何れもモンスターのもの。
 傍から見ればモンスターとの戦闘で命を落としたようにしか見えない。
 これで邪魔者は消えた。 一仕事終えた私は清々しい気持で充実した達成感に包まれていた。
 おっと一段落つくには未だ早いかな。 早くリオの所に戻ってココのボスモンスターを
 一緒にやっつけると言う本来の仕事が残っているんだから。
 んー、それにしても久しぶりに二人っきりに戻れると思うと自然と頬が緩みそうになる。
 でもまだ笑うには早い。
 一応仮にも『仲間』は既にモンスターに殺されてました、と報告するのに笑顔は不自然だモノね。


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