白き牙 第2話
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 リアルでRPG。 冒険をしながら私が感じた事の一つ。
 兎に角先ず、行く先々でモンスターが現れる。 かってはこんな風にモンスターが大量発生して
 人々を襲う事は無かったらしい。 このモンスターたちの元締めは予想通り魔物の王、すなわち魔王。
 最終的にはコイツをやっつけるのが私達の目標。 うん、正にリアルRPG。

 で、とりあえず降りかかる火の粉は払わなきゃいけないわけだから、地道に倒していくのだが
 コレがそんなに順調にことが運ぶわけではない。
 確かにリオの魔法は強力だし、私のアルヴィオンファングも並のモンスター相手に
 遅れを取る事は無い。 しかし魔法には一日に使える限界数があるみたいだし、
 私のアルヴィオンファングも基本は只切れ味が鋭いだけの剣。
 初日にドラゴンを一刀の元に屠ったあれはどうやらまぐれで出た奥義のようなものらしい。
 自在に扱えるようになればあんな風に巨大な魔物を一刀で斬り伏せたり、
 一薙で複数の敵を一掃出来るようになるらしい。
 でもそれを自在に出せるようになるには相当な熟練が必要とされる。
 すなわち実戦を積んで経験値を積み重ねてレベルアップ。 正に……切りが無いから以下略。

 そんな未だ未熟な私達だから時に不覚をとり危険な目に会う事もある。
 でもどんな時もリオは私を見捨てたりしない。 自分を後回しにしてまで私に回復魔法を
 掛けてくれたり、魔力が尽きてシールドが貼れないのに身を呈して私をモンスターの攻撃から
 かばってくれたり。
 それは私がリオにとって救世の勇者だからなのかも知れない。 でも、それでも私は嬉しかった。

 もっとも四六時中敵モンスターと戦ってばかりじゃない。 モンスターがいない時、戦っていない時は
 リオがこの世界に付いて教えてくれる。 何せ私はこの世界のことは何も知らないのだから。
 リオとのおしゃべりのひと時は何ものにも変えがたいほど楽しい。
 先ず何と言ってもその話し方。 ちゃんと私のペースに合わせてゆっくりと丁寧に話してくれる。
 杓子定規にテープレコーダーのように話す学校の先生とは大違いだ。
 もしリオが学校の先生をやったのなら落第生なんて出ないんじゃないだろうか。
 そう思えるほど分かりやすく丁寧な喋り方だった。
 そしてその声の美しさも絶品だった。 よく通るとても済んだ綺麗な声は私を夢見心地に
 させてくれる。 其の美声は私の世界にきたら歌手になれるんじゃないかと思わせるほど。

 そして日を重ねるごとに私はリオの事がどんどん好きになっていった。 外見的な魅力だけじゃない。
 其の魔法の腕前も、知的なところも、優しさも、体を張って私を護ろうとしてくれる男らしさも、
 其の全てに私は魅了されていった。
 私は完全に恋に落ちた。
 そして私は望む。
 私が彼に魅了されたように、リオにも私のことを好きになってもらいたいと。

 情報収集も冒険の基本。 その為に色んな町や村にも度々訪れる。
 情報収集以外にも武器防具の新調や資金や食料等の調達などでも立ち寄る。
 もっとも武具に関しては私の場合武器は既に最高レベルのものを手にしてるので結果、
 私の場合防具のみだけど。
 資金の調達は大きく分けて2種類。 どちらもモンスターがらみで、先ず一つ目はモンスターの死体を
 換金する方法。 モンスターの爪や牙、角、そして骨や皮等は時に武器防具やマジックアイテムの
 貴重な材料になるとのこと。
 特に私が初日に倒したドラゴンはモンスタートしても素材としても最高レベルで、鱗なんか
 まるで鋼のように、いや鋼よりも硬くそれでいながら鉄よりはるかに軽く鎧や盾に最適だった。
 伝説の武器とは言え良くこんなの切れたものだと驚かされるほど。 お陰で当座の資金も確保できたほど。
 更に言うと既にこの鱗で私専用の鎧と盾をオーダ―してある。 完成して装備できるようになるのは
 未だ当分先だけど。
 もう一つは町や村の依頼を受けてモンスターを退治し報酬を受け取る方法。 大きく分けてこの二つ

 そうした訳で様々な町や村を尋ね歩いていく中、今日もある村に立ち寄る。
 そこはリオの生まれ育った村。 リオのお師匠さんは膨大な知識と資料を保有しており、
 それゆえ定期的に調べ物のため立ち寄っているのだと。
 リオの生まれ育った村と言う事で私は訪れる事を密かに楽しみにしてた。
 だけど立ち寄ったそこで私は衝撃を受ける事になる。 そこで知ってしまった。
 リオに恋人が居ると言う事を。
 彼女はリオの幼馴染で魔王を打ち滅ぼした暁には結婚する約束までしてると言う。
 愕然とした。 まさかそんな、異世界に来てやっと巡り合えたと思った理想の男性なのに!
 どこまでも私の男運の悪さは付いて回ると言うの!?
 そのときのショックは中学のときの初恋を裏切られた時の比ではなかった。
 一応言ってくが二股掛けられてたと言うかそんなのじゃない。
 リオはいつも私に優しくしてくれたが、そこには決して下心なんて無い誠実なものだったのだから。
 尤もそれはそれで少し寂しかったが。 何せ私の一方的な片想いだったのだから。
 でも諦められなかった。 諦めるつもりも無かった。
 幼馴染? 婚約者? それが何だって言うの? その娘がリオに何をしてあげられると言うの?
 ただ、村にこもってリオが使命を果たして帰ってくるのを待ってるだけじゃない!
 ただ、待つだけしか出来ない女。 そんな女に負けてなるものか。
 確かに知り合ってから未だ間もない。 でも既に幾度も共に死線を潜り抜けてきた。
 そしてこれからももっと多くの危難を一緒に乗り越えていくだろう。
 これから先もっと多くの時間を私はリオと過ごすことになる。

 そう、時間ならたっぷりあるんだ。 だから魔王を倒すそのときまでにリオの心を掴んでみせる。
 それに、いざとなれば私には切り札がある。
 切り札――それは私がこの世界で『伝説の勇者』であること。
 伝説では魔王はこのアルヴィオンファングでしか其の防御結界を切り裂き倒せないらしい。
 しかもこのアルヴィオンファング。 試してみたところ私以外には扱えないようだ。
 私が装備すれば、まるで手に吸い付くようにフィットし羽根のように軽く感じられ無類の切れ味を
 発揮してくれる。 だけどそんな伝説の武器も、私以外のものが装備するとたちどころに
 其の輝きを失い、只の鈍らと化すのだった。
 すなわち正真正銘私にしか扱えない伝説の武器で、と同時に私自身が魔王を倒しうる唯一にして
 絶対の切り札であると言う事。
 そう、いざとなれば世界の運命を天秤に掛けてリオに迫る事が出来るのだ。 尤もコレは最後の手段。
 この方法を用いれば確かにリオを手に入れられるだろう。 でも心までは手に入らない。
 表面では私を受け入れながらも心の底では私を蔑むかもしれない。
 だから、コレはあくまでも最後の手段。

 リオの村に入ると一人の少女が駆けてきた。
「おかえりなさい。リオ!」
 そしてリオに向かって抱きついた。 其の光景を見た瞬間、頭の血管が切れそうになるかと思った。
「ただいまコレット」
 そして小娘を優しく抱きとめるリオ。
 そんな光景にはらわたが煮えくり返りそうになるのを押さえながらどうにか平静を保つ。
 事前にココに来るまでの道のりでリオに幼馴染の恋人がいることを聞いてたから心の準備ができてた
 から良いようなものの、そうでなければこの場でこの小娘を切り捨てていたかもしれない。

「あら、コチラの方は?」
 私の存在に気付いた小娘はリオに問いかける。 私の心のうちなど知らないリオは其の小娘、
 もとい幼馴染に私を紹介した。
「ああ、紹介するよコレット。 この方こそ探していたこの混沌とした暗闇の時代を打ち払う勇者様、
 セツナさんだ」
 リオがそう言うと小娘は瞳を輝かせ
「本当!? 素敵! ついに現れたのね伝説の勇者さまが!」
 そして私の手をとり更に口を開く。
「勇者さまお願いします。 是非其のお力でこの世界をお救い下さい」
 私を見つめる其の瞳は見るからに素直で純真でヒトを疑う事を知らないと言った感じ。
 私がリオを想ってるなんて露ほどにも思っていないのだろう。
 とりあえず私は笑顔を作る。 リオの前で取り乱した嫉妬丸出しの顔なんか見せれる訳ないからね。
「ふふっ、そんな畏まらなくったって良いわよ。 あと、勇者さまじゃなくってセツナって呼んで」
 今のところは本音なんか出さない。
「分かりました。 セツナ様」
「様も要らないわ」
 焦る事は無い。 時間はたっぷりと有る。
「え、でもそんな……」
「じゃぁお友達になりましょ」
「え、そんな良いんですか?」
「勿論よ。 だってあなたは、私にとって大切な仲間であるリオの大切な人なんですから」
 とりあえずこの場は小娘に譲っておいて上げる。
「ありがとう! よろしくね。 セツナ!」
 そう言って小娘は笑顔で答えた。 本当、疑う事を知らない素直な性格ね。
 それならコッチはそれに合わせて策を練らせてもらう。
「コチラこそヨロシクね、コレット」
 それまでは小娘、いえ、当分の間はコレットって呼んであげる。
 その時が来るまでの間はお友達で居てあげるわ。


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