Cross Fire(仮) 第3話
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 明らかに敵意を持った視線で見てきた。それが、わたしとシュンのパートナーのアイラとの
 初めての出会い。
 何が気に触ったのかは知らないが、初対面からあんな不躾な態度を取られたら不快になる。
 まぁシュンもいるのだし、みっともない所はみせたくない。我慢してとりあえず挨拶をする。
「いいぞ、シュン。私が言う。王宮騎士のレイナだ。君がシュンのパートナーなんだな。
 よろしく。」
「…よろしく」
「ああ、よろしくな。」
 ふっ、しっかり挨拶のできる教養は有るみたいじゃないか。少しは見直したぞ。
「君の事は、色々シュンから聞いたよ。彼はよっぽど君の事が大事なみたいだな。」
 それを聞いたとたん、彼女は少し優越感を帯びた目で私を見て、シュンは少し照れたように頭を掻いた。

 ……この女!

 まったく!シュンはここに来るまでこの女の話ばかりをしてた。こんなに遅くなって
 心配してないだろうかとか、もしかしたら探しに出てないだろうかとか。
 少しはわたしの事についても聞いてくれてもいいじゃないか……。

 なんだろう……

 なんとも言えない胸を締め付ける想いと、腹の底に溜まるどろどろとした黒い物。
 ああ、これが嫉妬なんだ。
 父上のような立派な騎士になりたい…その事に一心に取り組んできたから…こんなの知らなかった。

 シュンから優しい感情を受ける女が
 妻でもないのにシュンは自分だけの物の様な態度を取る女が
 たった今、シュンの隣に寄り添うように立ってる女が 

        嫌いだ   
 
 見てろよ。時間はゆっくりとある。彼らの絆は固いらしいが、わたしが付け込む隙もあるはずだ。
 強固な城壁は攻め急がず、じっくりと対策を練って攻める。それが戦術のセオリーだ。
 今は、この黒いといったらいいんだろうか、どろどろとした感情をシュンに見せないよう振るわなければ。

「ここが、僕達の家です。家には叔母さんも居るはずなんですけど…アイラ、叔母さん怒ってるかな?」
「大丈夫ですよ、シュンが悪いんじゃないんですから。いざとなったらその人に弁明をさせれば…。」
 こちらを見て、これ見よがしにアイラさんが言ってくる。…ああ、また黒い感情が現れる。
「レイナ、名前があるんだからそう呼んで欲しいな。ア・イ・ラさん。それに、言われなくても
 こっちが無理を言ったんだ。シュンが何か言われたらそうする。」
「……。」
 なるべく、棘を隠したように言ったつもりだが、シュンには気付かれてないよな?
 おっと、なかなか睨んでくると怖い顔をするじゃないか。だがやめた方がいいんじゃないか?
 愛しの彼が近くにいるのに。
「アイラ、よしなよ。僕が応じたんだからレイナさんのせいじゃないよ。」
「……シュンがそう言うなら。」
 ふっ、いい気味だ。汚い言い方をすれば、
ざ ま あ み ろ
 と言ったとこだな。
 はっ、いけないけない。叙勲を受けたばかりとはいえ、王宮騎士であるのだから自制心はしっかり
 持たなければいけないのに。
「ごめんなさい、レイナさん。少しアイラは気難しいとこがあるんですけど、根はいい子ですから。
 許してあげてください。」
「なに、気にしてない。大丈夫だ。」
 やはり優しいな、シュンは。シュンに免じて許してやるか、アイラさん。 

「ふ〜ん、シュンをゴルランド王国騎士団に迎えたいと。そう言うことですね、レイラさん。」
 紅茶をすすりながら、シュンの叔母上殿であるリーリアさんが言った。今は、わたしは
 シュン達の家である、魔道具の店『紅の翼』の客間にいる。
 今は、目的の一つである家族への挨拶と、スカウトの報告をしている。シュンも交えて
 話がしたかったが、あの女に「シュンは私と料理の準備をしなきゃいけないんです!」と
 言われて、台所に引っ張られていった。
 幼馴染で同居人だかなんだか知らないが、遠慮という物を知らないらしいな。
 あの女、いや、女じゃない

 犬だ

 シュンには尻尾を一生懸命振って媚を売り、他の人間にはキャンキャン吼えて威嚇する雌犬。
 ふむ、我ながらいい例えじゃないか。まったく…雌犬が!犬畜生が!人様に媚を売るなど
 言語道断だ!身を弁えろ!…いや雌犬だから媚を売るのか。

 目障りだな

「レイナさん?」
「あ、ああ、申し訳ありません。少し考え事を…。失礼しました。こちらから押しかけてきたのに
 ボーッとしてしまって。」
 っと、しまった。ついつい考え事をして失礼な事を。すぐに謝って頭を下げる。それにしてもなんだ、
 こんなに嫌な事を考えるとは…どうしてしまったんだろう、わたしは。嫉妬というのは、
 こうも人を変えてしまうのか、それとも自分が異常なのか。

 でも、胸に湧き上がる黒い感情は確かに存在をし続けた。


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