Cross Fire(仮) 第1話
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 私にはすべてを捧げていい男性がいます。

 5歳の時、私は生まれつき魔力と言うものが強いらしく、それを理由に魔道士の女に
 引き取られました。引き取られたと言うか、押し付けられたとでも言うのでしょうか。
 子供の、魔力の使い方を知らない私が、魔力を暴走させ村人に大怪我を負わせた事がありました。
 私は自分が何をしたのか分からず、ただ呆然とし、小さいながらも人々から向けられる
 悪意、嫌悪、恐怖と言った感情を、名前は知らないでも感じました。そしてそれは実の両親からも…。
 次の日から私は、引き取られるまで小さな部屋に閉じ込められました。食事は与えられますが、
 今まで他の子供と一緒に外に遊んでいたのに急に閉じ込められて、何がなんだか分かりませんでした。
 そして今までかわいがってくれた両親は、私を今思えばモンスターを見る目のように見ていたような
 気がします。
 その生活が一月続き、私はやっと外に出られましたが、わけも分からずその魔術師の女に
 引き取られました。私に愛情を向けてくれた両親が、負の感情を私にぶつけてくる事は幼心にも
 分かり、心は軋み悲鳴を上げていました。それが、今の私の性格、暗く人見知りな性格を形成する事に
 なったのでしょう。
 そして…、私は彼女の連れていた子供、シュンと会ったのです。
 
          ―――――――――――――――――

 ゴルラント王国王都のレンジャーギルド。そこに今、私はいます。レンジャーとは、王国に忠誠を誓う
 騎士や魔道士が表立って動けない問題や、住民から依頼された問題を解決する見返りに報酬をもらう
 商売です。要請される問題は、物騒な物から迷子のペット探しまで幅広いです。
「アイラ、マスターに次の依頼をもらったよ。それと、前回の報酬。」
「そうですか。」
 笑みを浮かべながら、私の座っているテーブルの向かいに座る男性が私の大切な人、シュン。
 彼と私は、この国での成人年齢の16になると同時に王都のギルドに登録をしてもらい、
 コンビを組んで仕事をしています。彼の両親は宮廷魔道士と名うてのレンジャーだった
 らしいのですが、彼が生まれて間もなくある事故に巻き込まれ亡くなってしまって、彼は父の姉で、
 私達の育て親のリーリア義母さんに引き取られたそうです。
「前回は大変だったね。なかなか強いモンスターでさ。結局アイラの魔法の方が効いて、
 僕はあんまり役に立ってなかったよね。」
 申し訳なさそうに言う彼の言葉を聞いて、私はすぐに訂正した。
「そんなことないです、私一人だったら勝てませんよ。それに助けてもらってるのはこっちも同じです。
 シュンが敵の注意を引き付けているから、私も魔法の詠唱に集中できました。」
 確かに、前回の敵はシュンの剣術や体術が効きにくかったけど、その分彼は私の盾になって
 くれました。役に立たなかったなんてとんでもないです。
「ですけど、あんなに体中傷だらけになって…。あんまり無理はしないで下さいね。私は…」
 あなたが死んだら生きてはいけない。そう言いそうになって口を噤んだ。
「分かってるよ、心配なんでしょ。大丈夫、体の丈夫さには自信があるから。」
 シュンが私に笑いかけてくれました。それを見て、私もつられて笑顔になりました。
「あ、いたいた!」
「よう、二人とも。元気そうで何よりだ。」
 そう言って私達の会話に割り込んでくる雑音が来ました。

「…」
「あ、こんにちはジンバさん、ミーシャさん。依頼を探しに来たんですか。ほら、アイラ。
 挨拶しないと。」
「…こんにちは。」
 シュンに言われて、仕方なく私は挨拶をしました。彼らは私達より先輩のレンジャーで、
 王都のギルドの中でも腕前はかなり上のほうです。特に、ジンバさんはシュンのお母さんの
 弟子みたいなものだったらしく、よく私達の様子を見に来ます。
「ああ、まあな。前回の分の報酬がもう尽きそうだからな。誰かさんのせいで…」
「ちょっと、それってどういう意味よ!あんただって武器の補修と強化といってかなりを
 使ったじゃない!」
「お前の方が間違いなく使ってる。しかもほとんどが、酒代だ。俺の有意義な使い方に文句を
 言われる筋合いはない。」
「なによもう!シュンく〜ん、ジンバがあたしをいじめるの〜」
「う、うわっ。抱きつかないでください!」
 …。この年増!ミーシャさんも軽いスキンシップでやっているのでしょうが、それでもむかつきます。
 シュンも顔を赤くしたりして。確かに私にはあんなに胸はないけど、いつだってシュンとその…シュンが
 望むなら、セックスだってしていいんですから!
「…痴話ゲンカを見せるためにここにきたんですか。やるなら他の所でやってください。」
 せっかくシュンと、二人のゆったりとした時間が取れそうだったのに邪魔されて、私の言葉には
 棘が出ていたのでしょう。ジンバさんはシュンの方を見て、困った顔をしました。
「どうしたんだ、シュン。今日も不機嫌だな、アイラの奴。」
「いや、僕に聞かれても…」
「あら、アイラちゃん妬いてるの?かわいい〜」
 …。流石に頭に来ましたよ。軽く魔力を練って…。
 ボン!
「わっ!」
 彼女の顔の前で軽い爆発を起こさせました。
「さっさとシュンから離れてください。」
「分かったわよ、アイラちゃん冗談が通じないもんね。ごめんね、シュンくん」
「いえ、こちらこそすいません…。」
 シュンが謝るのを見て、また胸にもやもやが起きてきます。ミーシャさんなんかに謝る必要なんか
 ないのに。…分かっています、この感情が醜い嫉妬なのは。いっそのこと、自分のこの抑えてる
 感情、シュンに対する好意を彼に言えば、少しはこの感情が出てくる事がなくなるのでしょうか。
 …ないですね。仮に恋人になったとしても、彼に言い寄ってくる泥棒猫が出てくる可能性はあります。
 それに、告白する勇気が出ない理由があります。
 彼の私に対する気持ちが異性ではなく家族だったら、拒絶されたら…もう生きていけません。
 だったら今の関係のままでいれた方がいくらかましです。かといって、他の女と彼が付き合う
 なんてのも許せるかといったら…許せないでしょうね。
 まず誑かした雌犬を捕まえて、まず槍の柄でボコボコに殴って、ええ突き刺して一思いに
 逝かせるなんてことしません動けなくなったらゆっくりと槍を突き刺すか空気を炸裂させて
 火傷をつくって……ふ……ふふふっ
「アイラ?どうしたの、急に笑っちゃって。」
 はっ、いけない。表情に出てたのかな。さっきまで考えた事を思い出します……
 どこまで自己中なんでしょうか、私は。だけど……それだけシュンのことが大事なんです、
 シュンがいなかったら今の私はいません。誰にも……誰にも渡しません。
 

 アイラが急に不機嫌になってしまったが、僕は別段驚く事はなかった。彼女は、僕と叔母さん以外には
 無愛想な態度を取る。ジンバさんとミーシャさんは結構魅力的な人だと思うんだけど、ジンバさんとは
 9年、ミーシャさんとは5年、僕らと出会ってから経ってる今も無愛想なままだ。だからといって、
 アイラが悪い子な訳ではない。これでも出会った頃より他人にずいぶん心を開くようになったと思う。
 アイラが無愛想なのは、昔のことがあったからなんだろう。僕には、父さんと母さんの記憶はないが、
 肉親に拒絶されるのが、しかもまだ5歳だった彼女がどれだけ傷ついたのかは、想像を絶するもの
 だったと思う。だから、アイラを支えてあげたい、守りたい。僕は心の中でそう誓いを立ててる。
 
 シンバさん達に挨拶して、僕らはギルドから出た。二人とも特に込み入った用事ではなく、僕達の
 様子を見たかったらしい。
「久しぶりに話すことができて良かったね。」
「…そうですね。」
 アイラはあの後、二人から話しかけてこないと話さなかった。やっぱりからかわれたのが
 癇に障ったのかな。
「それじゃ、家に戻ろうか。叔母さんも待っているだろうし。」
「はい。」

 王都の東地区にある魔道具(魔力増強の指輪や、杖など)の店が僕達の家だ。多少ガタがきている
 けど、古い趣のあるいい家だと、僕は思ってる。
「叔母さん、ただいま。」
「ただいま、お義母さん。」
 …返事が返ってこない。また寝てるのかな。店の前にも休業って書いてたし。僕らは家の奥の
 リーリア叔母さんの部屋へと向かった。

「う〜、もう少し寝かせて〜。」
「駄目ですよ、そろそろ注文された品を、完成させなくちゃいけないじゃないですか。
 私も手伝いますから頑張りましょう。」
 アイラが叔母さんを起こして、工房へと引っ張っていく。昼ごはんを食べてから眠くなって、
 惰眠を貪るのが叔母さんの日課になってる。ぐうたらしている面もあるけど、僕達を女手一つで
 育ててくれた大切な家族だ。過去には、父さんと一緒に宮廷魔道士となり、二人とも
 次期宮廷魔道士長を狙える実力者だったらしいけど…なんで辞めたかは話してくれないし、
 僕も聞こうとはしてない。そのことには触れてはいけない、そんな感じがするから。
 叔母さんの魔道具はなかなか好評を得ており、魔道士はもちろん、レンジャーや魔法も使う
 魔法騎士なども店にやってくる。僕は、魔法の資質は治癒・強化などの体内の気を活性させるの以外は
 0だし、元の魔力のスペックが低い方だから、魔術具の作製は手伝う事が少ない。叔母さんいわく
「顔とくそ真面目な性格はカインそっくりなのに、髪や瞳の色と資質はヤヨイの方を受け継いだ
 みたいだ。」
 らしい。
「僕は夕飯の買い物にいってくるから。二人とも頑張ってね。」
「わかりました、頑張ります。」
「ん、わかった。寄り道はするんじゃないよ〜。」

 

 相変わらず、この時間の市場は人で賑わっているなぁ。僕みたいに今晩の食事の買出しや、
 武具店に立ち寄る冒険者、交易商の人達、いろんな人がいる。
「おう、坊主。いつもご苦労さん!」
「あら、シュンくん。いらっしゃい。今日は何を買っていくの?」
 とりあえず、一通りいつもの店によって食材は買い終えた。さて……帰るとしよう。
「そこの君!」
 急に呼び止められ振り返る。
 僕は呼び止めえてきた人を見た。赤い髪に、僕と同じくらいか少し上の年頃と思える顔立ち。
 服装は普通だが、容姿はとても高貴に思えた。
「す、すまんな、いきなり。」
「い、いえ。……どうしました?」
 その人は、僕をジロジロと見ていた。何か変なところでもあるんだろうか?
「あの〜、何か僕の格好変ですか?」
「…いやっ、そんなわけではない。……君は珍しい剣を持ってるな。」
 ? ああ、カタナのことか。やっぱり珍しいのかな。王都のレンジャー達の中では僕とジンバさん達
 ぐらいしか使ってないだろうし。あとは冒険者がたまに使ってるぐらいかな。
「これは、カタナといって東方の地域の剣みたいなものです。」
「そうか……、君はレンジャーのシュンだな」
「え、どうして僕の名前を!」
「……」
 問には答えず、僕をじっと見て何か考えてるようだ。なんだろう、少し気まずいな……。
「あの…。」
「ああ、すまん。いきなりだが、今からわたしと手合わせしてもらえるか?」
「……はぁ!?」
 思わず間抜けな声を上げてしまった。いや、だれでも街中でいきなりこんなこと言われたら
 びっくりするでしょ。
「駄目…か」
 どうやら僕の反応を拒絶の意思と取ったらしい。すごく残念そうな顔をしてる。う……ん。
 ちょっとくらいならいいかな。
「分かりました…とりあえず理由をきか「本当か!ありがとう!それでは付いてきてくれ!」
「わっ!ちょっと!」
 僕は、いきなり彼女に引っ張られて家の方向と逆に連れて行かれた。ごめん、アイラ、叔母さん、
 帰るのは遅くなりそうだよ……。


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