Bloody Mary 第13話A
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 城は異様な雰囲気だった。
 手当てをされている兵士、固まって怯えている侍女たち、何か口論している騎士。
 城門付近にはいくつかの死体袋が転がっていた。
 まさか本当に団長が―――――
 侵入したという賊が本当に団長だったのか確認したくなったが、姫様の安否も気になる。
 すぐに城の中に向かおうか迷っていたそのとき。
「ウィル!」
 口論していた騎士の中に知り合いがいたらしい。 俺を見つけると急いでこちらに走ってきた。
「丁度良かった!ウィル、お前すぐ姫様のところへ行ってくれ!」
「なぁ、本当に―――」
「話は後だ!お前が辞めて姫様の『王の盾』がいないんだよ!
 団長が姫様を捜してるらしい!このままだと姫様が危ない!!」
 血の気が引いた。なんで、団長が姫様を……?
「それに団長は今トレイクネル卿殺しの容疑者―――」
「くそッ!!」
「あ!おいウィル!」
 同僚の話の途中で駆け出してしまった。
 ゲイル=トレイクネルが死んだ?団長が疑われている?
 俺が辞めてからいったい何があったんだ―――
 フォルン村のときと同じ悪寒が身体を包んで酷く寒い。

 姫様の自室に向かって走る。無事でいてくれと祈りながら。
 極度の緊張のせいかすぐに息があがってしまう。
 自分の身体に鞭を打ちつつ、ひたすら走った。
 やがて見えてくる姫様の自室の入り口。
(扉が――――開いてる!!)
 全身に戦慄が駆け巡る。一瞬そこで走るのをやめたくなった。鼓動が更に速くなる。
 ―――――姫様!!
 開かれた扉の前で立ち止まり、姫様の無事を―――――
「―――!!!!」

 

 だけど。

 そこに立っていたのは。

 誰かの鮮血を浴び、狂おしいほど鎧を紅く染め上げた、

 血まみれのマリィ団長だった。

 

「あ……あ……」

(なんだ、部屋一面に広がる紅いコレは―――――)

 団長がこちらに気づいて不思議そうな顔をする。
「あれ?ウィル、どうして此処に?
 あ、それより見てください!ほら!ウィルの敵、ちゃんと殺してあげましたよ!」
 楽しそうに両手を広げ、くるりと一回転。

(ベッドの上にある、あの赤い塊は何なんだ…?)

「これ、ぜ〜んぶあの王女の血ですよ!あはっ。
 あ、違うか。変な蠅が飛んできたからそいつの血も混ざっちゃってるんだった」
 童女のように笑う。

(団長が左手に持ってるソレはいったい何なんだよッ!!!)

「とにかく!あの王女は徹底的に殺しておきましたよ!ほら、これ!」
 得意気に左手に持つ物を俺に見せた。
 キャスの最期の瞬間と同じ苦悶の表情。それは、姫様の――――首だった。
「う……」
 バチバチバチッ
 脳髄が痛みを伴ってスパークする。

「うわああぁぁぁぁッッッッッッ!!!!!!!」
 無様に泣き叫びながら俺は剣を抜いた。
 また!また守れなかったッッ!!
 今度こそ、言い訳する余地もなく見殺しにした!!

「どうして私に剣を向けるんですか?大丈夫です、安心してください。私はウィルの味方ですよ。
 ウィルの仇はみんな私が殺してあげますから。こんな風に!」
 左手をプラプラさせる。
「……やめろ」
 わからない。自分の感情が。ただ頭が痛い。
「はい?」
「姫様を放せって言ってるんだッ!」
 どうして俺が叫んでいるのか本当に理解できない、といった表情で姫様の首を投げ捨てた。
「なんでまだ怒ってるんです…?これだけしてもウィルは私を許してくれないんですか?
 ウィルの代わりに復讐してるのに。」
 団長の言っていることが分からない。いや、わかりたくない。
「私を褒めてください。いい子いい子、してください。
 私の側を離れるなんてもう言わないでください。私と一緒に居てくださいよッ!!」
 俺の、せい……?
 俺が騎士を辞めたから…?
 俺のせいで姫様が死んだ…?
 俺のせいで団長はおかしくなった…?
 手が震え、持っている剣がカタカタと音を鳴らす。
「あ、そうか。まだ足りないんですね?
 これから陛下にも死んでもらいますから。他の人たちもなるべく早く殺します。
 そうすればウィルも私を許してくれますよね?」
 また、俺の所為なのか……
 剣を取り落としそうになって、慌てて構え直した。
 とにかくこのまま団長を行かせるわけにはいかない。
 これは俺の責任だ。俺が選択を間違えたからこんなことになった。
 だから俺が、団長を止めないと。
「行かせない」
 それだけ言うのが精一杯だった。
 つい先日まで尊敬していた上司に剣を向ける。
 気がどうにかなりそうだ。
「そこを通してください。
 ウィルは強いんですから手加減なんてできませんよ?痛い思いしちゃいますよ?
 私が味方だって証拠もすぐ見せます。だから剣を収めてください」
 曇った瞳を俺に向ける団長。
 彼女はもう、俺の知ってる団長じゃない………
 そう決断すれば身体はなんとか動いてくれた。
「わぁぁッッッ!!!」
 型も何もあったもんじゃない。団長に向かってただ我武者羅に剣を振るう。
 だけどそんな太刀筋が通用する筈がない。
「もう。大人しくしててください」
 俺の斬撃を軽くいなし、こちらの体勢が崩れると
 もの凄い速さで突きを繰り出してきた。
 目前にまで迫る団長の剣先。
 必死で身体を捻るものの、体勢の崩れた俺にかわせる道理もなく。
「ぎっ!!?」
 あっさり直撃し、激痛と共に俺の世界は暗転した。


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