Bloody Mary 番外編2 『出会い』
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「ざっと三十から四十人ってところか」
 林の陰から外をうろついている男たちを見回し、だいたいの数を見当付ける。
 攻め入ってきた割に数が少ないな…こいつら本当に侵攻する気があんのか?
 もしかしたら後ろに大部隊が控えてるのかも知れない。気を抜かないほうがよさそうだ。
「ベイリンの旦那、どうします?上の連中は人数を確認したら戻って来いってお達しでしたが」
「……そうだな」
 仲間の一人がオレに意見を乞うているところを考えるとやはりこのまま帰るのは納得行かないらしい。

 国境に位置するフォルン村が隣国に襲われたという知らせを聞いて王国は奪還部隊を派遣、
 オレたち傭兵旅団もそれに参加した。今は斥候としてオレ以下数名がフォルン村を偵察に来ている。

「とりあえず中に入って生きてるヤツがいないか捜せ。くれぐれもバレないようにな」
 他の仲間にも指示を送りオレたちは散開した。
 生きてるやつを捜せ―――そうは言ったものの。村の中のあちこちに石ころのように転がっている死体を
 見るとそれも絶望的だった。
(こりゃ侵略ってより虐殺だな……)
 適当な民家を見つけるとそっと様子を伺いながらその家に入った。どうやらここにはヤツらは
 いないようだ。
 その一室で一組の男女が横たわっているのが目に入った。……ガキか。
 年はオレの娘よりやや上くらいだな。
「待ってろ、今縄解いてやるからな」
 死んだように動かない少年の戒めを解いてやるが反応が鈍い。よほど非道い光景を目にしたのか。
 少女の方を見てみるとこちらはもう事切れているらしかった。死後一日ほどだろうか。
 念のため脈に触れようと少女の首筋に手を伸ばしたとき。
「うわぁぁぁぁッッッッッ!!!!!」
「うおっとッ!!」
 突然さっきの少年が狂ったように果物ナイフを拾ってオレに襲い掛かってきた。
 一瞬焦るが所詮ガキの斬撃。かわすのは造作もなかった。
 だが。
(こいつ―――)
 ガキのくせになんて眼してやがる。兵士が死の間際に放つ、修羅の瞳。そんな眼だ。
 到底十四、五の子供とは思えない。
 耳を澄ますとなにやらボソボソと呟いている。
「…だ…守るんだ………守るんだ……守るんだ」
 少年に警戒しながら横目で少女の亡骸に目をやる。
(このガキの知り合いか…)
 状況から察するに目の前で殺されたんだろう。くそったれが……反吐が出る。
 ガキの方を見据える。依然こちらにギラギラとした殺気を放っていた。完全に我を失っている。
 やれやれ、このまま放っとくこともできねぇな。気は進まないが荒療治するしかなさそうだ。
「無駄だな」
 ビクリ。オレの言葉を聞いてそいつは肩を震わせた。
「この女はもう死んでる。お前は―――守れなかったんだ」
「うっ……うぅ……うぅあぅ…」
 少年は嗚咽を漏らし、握っていたナイフを落とす。
「うぅぅ……うわぁぁぁぁぁぁ―――……」
 慟哭。オレは気が済む泣かせてやることにした。
 ――――――ってヤバイ。こんなデカい声で泣かれたら近くの敵兵に気づかれるじゃねぇか。
 オレはガキを黙らせ、手早く村を脱出することにした。

 

「生きてたのは全部で四人か」
「えぇ。しかも無傷なのは旦那の連れてきた子供だけです」
 本隊に戻った後、オレは生き残った村人の人数を確認した。
「おまけにその子供もショックで気が触れちまってますが……」
 さっき助けたガキを見ると、娘に何か話しかけられていた。
「お兄ちゃん、平気?痛いところない?」
 少年は膝を抱えたまま何もしゃべらない。大泣きした後はずっとこんな調子で、
 まるで人形のように動かない。
「マローネ、やめとけ」
「もー、おとーさんうるさい!」
 娘に怒られてしまった。オレ、今年で三十七なんだけどな。くすん。
「もう大丈夫、大丈夫だから」
 娘があやすように少年の頭を撫でる。その行為がそいつの何かに触れたのか。
「ごめん……キャス……ごめん……ごめん…」
 少年は泣きながらオレの知らない誰かに謝り続けた。


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