Bloody Mary 第9話
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 拒絶された拒絶された拒絶された拒絶された拒絶された拒絶された拒絶された拒絶された
 拒絶された拒絶された拒絶された拒絶された拒絶された拒絶された拒絶された!!!!

 昨日から何度もループしている光景が現実になる。
 私の目を一度も見ず私の脇を抜けていくウィル。
 足が諤々と震え出す。
 何。ウィルの今の態度。デートのときキスされたのが恥ずかしいから?
 いや。ウィルは照れであんな態度を取るような人間じゃない。
 そ、それじゃあ……
 恐怖が。絶対的な恐怖が私に襲い掛かってくる。
「あ……あ…あぅ…あ…あ……」
 知ってる!どうしてか分からないけどウィルはあのことを知っている!!
 ち、違うの……ウィル。私は何も知らなかったの……私はウィルの味方、だよ?
 だから、待って……私を捨てないで…私を置いていかないで。

 置いていかないで置いていかないで置いていかないで置いていかないで置いていかないで
 置いていかないで置いていかないで置いていかないで置いていかないで――――

 どんどん離れていくウィルの背中に向かって声を出そうとしているのに
 身体が引き攣って声どころか瞬きすらできなかった。
 呼吸ができない。意識が朦朧とする。

 茫然自失の中、ウィルを追って王女が駆け足で通り抜けていった。
――――嘲笑っていた。こちらを見ながら。
 ……そうか。あの小娘が。
 王女なら納得がいく。どういう経緯で事件のことを知ったのか分からないが
 ウィルに告げ口でもしたのは間違いない。
 殺してやる。ウィルに二度と付きまとえないように足を切断し、生きたまま内臓を引きずり出して
身体をバラバラに引き裂き街にばら撒いて晒し者にしてやる。
 王女への怒りとウィルへの恐怖をない交ぜにしながら私の意識はそこでぷっつり切れた。

 

 何分そうしていたのか分からない。気が付くと意識が途絶えたときのままそこに立っていた。
 頭がくらくらする。
「ウィルを追わないと……」
 私は彼の後を追って駆け出した。
 ウィルに話さなくちゃ。私は何も知らなかったんだ、本当はウィルの味方だって。
 精神誠意話せばウィルだってきっと分かってくれる。ちょっと困った顔しながらも笑ってくれる。
 私を抱きしめてくれる。
 そうしたら邪魔者の王女を殺して二人で生きていくんだ。あはっ。
 うん。大丈夫。きっと、だいじょうぶ。
 そう心の中で繰り返しながら食糧庫の前を通りかかったとき、何故かおかしな音が聞こえた。
 なに…?この音。まるで動物の息遣い。
 音の出所を探ると食糧庫の扉がわずかに開いていた。
 嫌な…予感がする。この中を見てはいけない気がする。
 見たくない。でも見ないと。よせ。でも中を確認しないと。
 そこにはウィルはいない。でも一応確かめてみないと。
 自問自答を繰り返しながらゆっくり扉の隙間から中を窺う。

 

 そこには。

 ウィルと。

 あの小娘が。

ケモノのように交わっていた。

 

「あ………ぎ……」
 怒りと悲しみと。憎悪と恐怖と。許容量を超えた信号が脳に伝わってくぐもった声が漏れる。
 何が起こっているの?この意味不明な光景はなに…?
 なんでウィルと王女が――――
「はぁ…はぁ…はぁ…も、もう……」
「射精して、くれ……な、かに欲しい……っ……ウィリアムの…せい…えき」
 ウィルの腰の動きが速くなる。ウィルの腰に足を絡める王女。
 ウィル、どうして?どうしてそんな女なんかとしてるの…?そんなのより私を使ってください。
 私なら何だってしてあげます。ウィルの望むことならなんでも。
 だから、お願い…その女とそんなことしないで。
 私以外の女の胎内に私だけの精子を射精さないで…!
 打ちひしがれながら自分の秘所をまさぐる。
「わらわも…んっ……あ、あ、来る!来る…!」
「くっ…!」
「や、あ、あ、ああぁぁっ!!」
 二人が硬直する。
 ウィルが私以外のおんなの子宮に精を放っている。わたし、いがいの。

 サラサラと。

 サラサラと。

 私の中の何かが零れ落ちていく。

 二人にやや遅れて、私も密かに絶頂を迎えた。

 

 

 

 姫様との情事を終えて、俺は後悔した。
 快楽を貪っている間は忘れられていた行為が、今は更なる罪となりその重さも加わって俺にのしかかる。
 何をした、俺は。
 罪悪感から逃げたい一心で姫様を抱いた。彼女の好意を利用して。
 下衆め。俺はキャスが死んで以降、不幸を撒き散らすだけの存在だ。
 俺みたいなヤツは他人と関わっちゃいけない。
 そうだよ。他人と関わるからまわりがどんどん不幸になるんだ。
 気づけば当座のやるべきことは決まった。
 ――――よし。
「ふーむ……誰か居たような気がしたんじゃが……気のせいか」
「姫様」
 扉のところで何やら独り言を言っていた姫様に声を掛ける。
「む、どうしたんじゃ?ウィリアム。
 あ、もう一回というのは無しじゃぞ。これ以上遅くなると侍女たちが心配するからな。
 まぁどうしてもと言うのなら……」
「姫様、聞いてください」
 深呼吸をひとつ。
 俺はゆっくりと自分の決意を言葉に紡いだ。

「――――俺、騎士を辞めようと思います」


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