Bloody Mary 第6話
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「あれ?ウィル、珍しいな。なんでお前が詰め所に居るんだよ?
『王の盾』の方はいいのか?」
 騎士団の詰め所に居る俺を見つけて訝しげに聞いてくる同僚。
「あはは……ちょっとね」
 昨日のことをありのまま話すわけにもいかないので、苦笑いしながら適当に誤魔化した。
 姫様に口付けされた翌日、いつも通り彼女の部屋へ行ったが、姫様は今気分が優れないと言って
 侍女に門前払いにされた。十中八九、昨日のことが原因だろう。
 そのまま帰るわけにも行かず、今はこうして詰め所の方で報告書を書いている。

 俺の頭の中は今、疑問符でいっぱいだ。
 一昨日の団長、昨日の姫様の行動は俺を狼狽させるには充分だった。
 ここ数日の間に俺たちの関係は大きく変わろうとしている。
 二人ともいったいいつから俺のことが好きだったんだ…?
 団長と出会って二年、例のデートの出来事までそんな素振りはなかった。少なくとも俺は気づかなかった。
 姫様に至っては出会ってから間もない。
『王の盾』の任務以外で会ったとすれば戦勝パーティーか『王の盾』の叙任式くらいだ。
 どうして俺なんかが好きなんだろう。いったいどうして。
 俺は自分の大切な人も守れなかったような―――
 思考がネガティヴな方向に流れそうになったので、考えるのをそこで一旦やめた。
「………ふぅ」
 どうやら俺は相当参っているみたいだ。というのも色恋沙汰はどうも苦手なのだ。
 恋愛なんてキャス以来したことないし、
 傭兵やってたころも師匠の子供のマローネに「お兄ちゃんは女心が全然判ってない」と
 よく呆れられたものだ。
 あの日以来、戦闘訓練ばかりしていたツケが今になってまわってきたらしい。
 ……弱った。

「おい、ウィル」
 一時休憩していると同僚に呼びかけられた。
「あ、はいはい」
「お客さんが来てるぜ、ベイリンとかって人」
 見ると、来客の窓口の方で師匠がこちらを見ていた。
「わかった。悪いけどちょっと出てくるよ」

 

 師匠と詰め所を出ると人目を避けるため、裏通りに移動した。
「早いですね。こちらに来たということは何かわかったんですか?」
「全部な。後はウラをとるだけだったから、あれからたいしたことはしてねぇよ」
「―――……」
 全部。ということはついに決着をつけられるってことか。
 長かった。この三年、血の滲むような日々だった。
 それも、やっと終止符が打てる。
「ウィル、最後にもう一度だけ聞くぞ。本当にいいんだな?」
「師匠、くどいです。その答えは一昨日したはずです」
「……そうか。」
 一度、俺の目を見つめた後、師匠は言葉を続けた。
「フォルン村を襲った連中、こいつらは北方のモルド傭兵部隊だ。傭兵といっても殆ど賊の類だったらしい。
 そのうち素性が分かったのが全部で十八人。で、そいつらの現在の所在は―――」
 モルド。そいつらがキャスを殺したヤツらの名前か。
 沸々と。腹の底で何かが蠢いているのが分かる。
「隊長のモルド以下七名は行方不明。残りの十一名は死亡している。全員、事件から一年以内にな」
「え…?死んでる?」
 拍子抜けした。キャスを殺した連中はもう既にこの世にいない…?
「そうだ。お前が騎士になったころにはもう死んでいたことになるな」
 くそが。俺が殺す前に勝手に死にやがって。
 自分の手で殺せなかったのは残念だが、死んだものは仕方ない。
 俺の三年に及ぶ復讐劇は呆気ない終わりを迎えた。
「―――それから、ここからが問題なんだが」
 ………え?
 だが意外にも師匠の言葉はそこで終わらなかった。
「死体の発見場所と、行方不明者が最後に消息を絶った場所な、全員が全員、国内なんだよ」
 何?師匠は何を言ってる?
「戦争を起こした原因を作った連中が王国内にいたんだよ。
 しかも不可解なことに程なくして全員姿を消したか死亡してる。
 ……これがどういうことか分かるか?」
 意味が、わからない。師匠は、いったい、何を、俺に、言おうと―――
「いいか、よく聞けよ―――」
 師匠は十数枚の紙きれを取り出しながら、おれに真相を語り始めた。


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