生きてここに… 本編 第26章
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体中の力が抜けていく
もうダメだって私にはわかるの・・・・
だからね・・・・聞いて・・・・最後だから
「仁ちゃん・・・・本当はね恋人だなんて・・・・嘘なの・・・・・私の片思いだったの」
最後だから・・・・最後になるから
涙が止まらない
仁ちゃんの涙も私の頬に落ちてきた
泣かないで仁ちゃん・・・・・
「ごめんね、嘘なんて言って・・・・・ごめんね?」
仁ちゃんはゆっくりと首を振った
ずっと謝りたかった・・・・
「でも、好きなの・・・・・愛してるの」
本当の意味で伝えることができた
あなたが好きです・・・・愛しています
私がひとつ誇れるものがあるとすれば仁ちゃんへの想い
他にはなにもない
たった一つでいい・・・・・それだけで充分
「奈々・・・・・」
奈々?いま仁ちゃん奈々って呼んでくれたの
「記憶・・・・戻ったの?」
仁ちゃんはまたゆっくりとした動作でうなずいた
「ごめんね・・・・ごめんね、仁ちゃん」
どうしてだろう・・・・すごく穏やかな気持ちだよ・・・・仁ちゃん
私を見つめてまた仁ちゃんは首を横に振った
そして・・・・・
「愛してる・・・・奈々」
え・・・・愛してる?そう言ってくれたの?
その言葉・・・・二年前からずっと聞きたかった言葉・・・・
仁ちゃん・・・・・私・・・・・
「嬉しい・・・・・嬉しいよ・・・・仁ちゃん」
頬に伝う涙の量が多くなっていく
あれ・・・・仁ちゃんが見えなくなっていく
それでも構わない・・・・・たとえ瞳が死んでも私の手は生きてここにいる
頬に手を乗せて温かみを分け合う
すぐに力が抜けて床に手が落ちた
それでも構わない・・・・・たとえ手が死んでも私の感覚はまだ生きてここにいる
抱きしめられたぬくもりが私の身体を包み込む
それもすぐになくなっていく

「おねがい・・・・最後のお願い・・・聞いて」
「そんなこと言わないでくれ!」
「聞いてよ・・・・お願い」
「わかったなんでも聞いてやるから・・・・だから生きてくれ!」
ありがとう仁ちゃん・・・・
もうなんのしがらみもない・・・・
私は私のままで愛するヒトの腕に包まれている
これが・・・・・本当の私の幸せ・・・・
「子供だけは助けてあげて・・・・おねがい・・・・」
・・・・・言葉を発することすら出来なくなった
耳も聞こえないよ・・・・・
意識だけの存在になってしまった
それでもかまわないよ
私の心はまだ生きている
たとえこのままこの身が果てても
死ですら私の想いを止めたりなんて出来ないのだから
「な・・・・・な?」
感じるよ・・・・仁ちゃんの心を・・・・
仁ちゃんの想いを・・・・
やっぱり死なんかで私の心を止められなんてしない
私は今、誰よりも幸せです・・・・仁ちゃん
たとえこの身体と意識がなくなっても私の想いはあなたと共に
あなたの中に預けるね・・・・私は・・・・生きてここに・・・・いるよ
ずっとあなたの心に・・・・
やっと・・・・掴めた・・・・あなたの・・・・・心・・・・仁・・・・ちゃん


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